6.バッドエンド
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真新しいドレスに着替えて、ティアラは鏡の前に立ち全身を確認する。
「普段と違いすぎて、何だか変に思われるかしら?」
やはり普段の服でラウルのに会うほうが良さそうだと、クローゼットからいつもの服を取り出す。
「でも、告白しに行くのよ?」
再び悩み出し、そのまま時間が過ぎてゆく。
その時ノックがなった。扉を開けるとメイドが一人立っていて、大事な話があるので来てほしいと言われた。
ラウルのところに行きたかったティアラは即座に断った。けれど主人に絶対連れて来るように言われたメイドは立ち去ってはくれない。
しばらく押し問答が続き、根負けしたティアラは、仕方なく客人に会いに向かった。
□□□
応接室に入ると、五人の令嬢が既に席に着いていた。何事かと緊張すると一番気の強そうな令嬢が自己紹介をしてくれた。
「私、ミカエル殿下の婚約者候補のリネッタ・タイタニアですわ。今日はティアラ様に殿下の武勇伝をお聞きしたくて、お時間を頂きましたの」
(婚約者候補? そんなキャラクターは知らないわ)
動揺したせいで、勧められるままに席に着いてしまう。そして彼女達が、攻略キャラクターにあてがわれた婚約者候補達だということを告げられた。
「世界の危機のために遠征を繰り返せば、いずれ命を落とす危険もあります。そのせいで私達は一度結んだ婚約を白紙に戻すように言われたのです。平和が戻った今は、再び婚約を結び嫁ぐことになりますわ」
予想外の話に、カップを持つ手が震える。
(攻略キャラクター全員に婚約者がいたなんて。ゲームの間だけ婚約白紙って。―――でも、そんなものかもしれないわね)
『World of Secret Garden』の舞台には中世ヨーロッパの要素が含まれている。なら幼少期からの婚約者が居てもおかしくはない。
(まぁ、私はラウル様狙いだから目の前の令嬢とは誰とも争う理由が無いもの。大丈夫よね。早く話を終わらせてラウル様のところに行かなきゃ!)
緊張で渇いた口を潤したくて、手に持った紅茶を一気に飲み干す。
「なら、お祝い申し上げます。平和は戻りましたし良かったですね」
「ええ。ですが、婚約者候補にティアラ様の名前が挙がっているのです。ご存じですか?」
「はい?」
まったく予想外の話に、ティアラは耳を疑った。
「その容姿ですし、殿方の心変わりも仕方ないのかもしれません。ですが、それでは都合が悪いのです。教養が無いから無理だと進言すれば、妾として迎えれば問題ないと話をすり替えるのですもの」
ここに居るのは攻略キャラクター達全員の婚約者候補だ。なら攻略キャラクターの誰かが言い出したのだろう。
(一体誰よ!誰とも恋愛フラグは立てていないはずなのに。告白だってちゃんと避けたのに!)
何かの間違いだ。確認するから少し時間が欲しいと言うために口を開いたときだった。
「っ!」
口から出たのは、言葉ではなく大量の血液だった。
何が起きたか分からず、立ち上がろうとして体勢を崩す。そのまま床に倒れ込んだが、不思議と倒れた衝撃は感じなかった。
(な、に? 体が熱い。それに血が止まらない)
手を動かそうにも、ピクリとも反応しなかった。目だけで周囲を確認すると、黄色のドレスの裾が視界に入る。
「まったく。やっとミカエル殿下と婚約を戻せると思ったら、もう妾妃の話が持ち上がるなんて、信じられませんわ」
(こんな展開なんて知らない。だってゲームが終わってしまったあとだもの)
「ハーフエルフなんて人間のなり損ない。ただの雑種が王家や貴族の血筋に関わろうなんて、あってはならないわ」
ティアラを蔑む言葉が聞こえたが、それどころではなかった。
内臓が熱く激しい痛みが走る。なのに悪寒で手足は震えて、体からは汗が噴き出している。痛みで叫びたくても声にはならず、代わりに口から血が流れ続けた。
(あ、死ぬ)
まだ、頭上で罵る声が続いていた。
けれど、ぶつりと意識は途切れた。





