5.ゲームは大団円を迎えました
目の前に巨人が立ちはだかった。手にした岩を振りかぶり投げつける。
その先に居るフィンを庇うように、ティアラは体当たりをした。寸前で岩をすり抜け二人は地面に転がった。
「一度退却だ!」
ミカエルの言葉に反応して体を起こす。足を痛めた様子のフィンに肩を貸してティアラは岩陰に隠れた。
「すみません。私は戦闘では役立たたずです」
悔しそうに顔を歪ませるフィン・バルグは学者なのだ。魔物討伐の作戦を立てたり、攻撃方法を教えてくれる役割を担っている。
「あなたには、あなたの役割があるわ。ここまで来れたのもフィンの作戦のおかげだもの」
フィンを励まし、カバンからラウルの薬草を取り出した。
本来は煎じて飲むのだが、この状況では難しい。手ですりつぶして直に怪我の場所に塗りつける。
「これでしばらくは動けるはずよ。はやくミカエル殿下のところに行って。体勢を立てなおして攻撃を再開するの!」
「わかりました」
フィンを見送り、ティアラは岩陰に息を潜める。
この後は、フィンの作戦で総攻撃をかけて巨人が倒れて闘いは終わる。
そして、ティアラはその後に起こることに注意を向けていた。
ミカエルの号令で、体勢を立て直し総攻撃が始まった。足の腱を切られた巨人が片膝をつく。
そのまま首を落とすところを見届けた瞬間、ティアラは岩から飛び出した。
(ボスキャラが倒された後。雑魚キャラ達の一矢報いる捨て身作戦!)
知らずに挑めば、一回目は必ず死ぬはめになるのだ。
「やり直しなんて出来ないから!」
思いっきり跳躍して、巨人の上に立つミカエルの頭上を飛び越えた。
その時、対面から飛び出してきたオークを真っ二つに斬り炸く。そのまま体を捻って弓を構えて矢を放つ。
(オークが一。二、三、四!)
着地と同時に、次の場所へと跳躍する。
「これで、最後よ!」
巨人の脇に立つゲイルの背中に降り立ち、剣を構えれば最後のオークの一撃を止めた。
「くっ」
本当は頭に一撃振り下ろすのが最適解だった。
力比べになればティアラに勝ち目はない。
「ぎゃあああ」
目の前のオークが断末魔をあげて倒れてきた。慌てて避けると、その背後にはミカエルが剣を構えて立っていた。
「ティアラ。無事か?」
「うん。なんとか」
ゆっくりと、雲が動き光柱がさす。
その光を避けるかのように、辺り一面に広がる霧がひいていった。森は以前の明るさを徐々に取り戻していくのだった。
(終わったのね――)
―― ミストルティンの森と城塞都市ヴェルザンを襲った大災は、ミカエル王子率いる討伐隊により根絶された ――
□□□
帰りの道中、話題はティアラの最後の攻防戦で持ちきりだった。
「どうして、あの攻撃を見破ることができたんだ?」
しつこいミカエルの追求を交わす理由を、ティアラは必死に探していた。
(えーん。攻略情報だなんて言えないよ。しかも知ってても完璧に防げなかったし)
「うーん。私ってハーフエルフだから。俊敏さとか感知能力とかが人よりも敏感なのよ。きっと!」
人外を理由に乗り切った。その理由を聞いたメンバー全員が何やら神妙な面持ちになったことに、ティアラは気付かない。
気持ちの良い風が肌に触れる。こんな香りの風は何ヶ月ぶりだったろうか。
全てが元に戻ったこの世界で、やりたいことは一つだけだった。
(戻ったら、ラウル様に告白するの)
その為には、城塞都市ヴェルザンに戻るまでに起こるかもしれない告白イベントを避ける必要がある。
ティアラは周囲に気を付けながら、最後の難関を潜り抜けるのだった。





