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モブを愛した私は愚かにも人生を3回やり直す  作者: 咲倉 未来
After Life

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4.フィナーレ

 いにしえの国の話をしよう。


 それは難攻不落といわれた城塞都市が魔物に攻め込まれ、国の王子が巨人を倒し世界を救う、大人から子供まで胸躍らせる冒険物語だ。



 それにしてもこの物語、多くの人に語り継がれたせいか、結末がいくつもあるのだ。



 ある者は、颯爽と現れたエルフの少女と国の王子が手を取りあって世界の平和を取りもどし、その後少女は忽然と姿を消したと伝えた。噂では、その功績が認められアルフヘイムより迎えが来たのだと、そう言った。


 ある者は、平和が訪れた証に、一夜にして世にも美しい花の咲く大木が『秘密の庭』に現れたのだと、そう言った。


 ある者は、平和を取り戻した代償に『秘密の庭』を失ったせいで、十年経たずに疫病で国が滅びたのだと、そう言った。


 ある者は、ミストルティンの森に戻ったエルフの里と交流を深め、これより永劫国が栄えたのだと、そう言った。


 とても同じ国のこととは思えぬこの話。

 不思議なことに、最後は、みな同じ教訓を説いている。


『最初はほんの些細な選択の違いでしかない。

 愚かとも思える事柄も長い目で見れば分からぬものだ。

 かといって先を知って選ぶことも出来ぬ。

 故に人は己の心に従って生きることしか出来ないのだ』


 そう、締めくくられている。



 □□□


 ―― ミストルティンの森 エルフの里 ――


 領主の呼び出しに応じると一通の手紙を渡された。その手紙に目を通して、ラウルは思わず口元を綻ばせた。


「何か良いことが書いてありましたかな?」


「ええ。私の兄が国王に即位するそうです。つきましては戴冠式に間に合うように国に戻って欲しい、と書いてありますね」


「そうですか。我々としてはティアラの伴侶として、いつまでも滞在していただきたい。フェアリーの愛し子であるラウル殿が居るだけで、里の実りは豊になる。このまま留まっては下さいませんかな?」


 エルフの里の領主は、ラウルを懸命に引き留めたがった。

 不在の間に荒れ果てたエルフの里は、ティアラがラウルを伴って現れた翌日より目に見えて息を吹き返した。フェアリー達が里中を飛び交えばエルフの魔法と相まって見違えるほどの変貌を遂げた。


「一度、ティアラと相談します。どちらにしろ戴冠式には顔を出したいですし」


 彼らの好意に感謝し、ラウルはティアラに相談しに向かう。

 二人が居住している家に戻ると、ティアラはフェアリー達と畑の手入れをし、苺を収穫していた。



 ヴェルザンでの出来事は、すでにティアラと共有していた。込み入った事情もすべて包み隠さず話をし、ラウルとティアラに危害が及ぶ可能性を伝えてあった。その上で、ヴェルザンへ戻るかどうか答えを出さねばならない。

 届いた手紙を渡し、事の次第を説明する。ラウルの希望はあえて話さず、ティアラに判断を仰いだ。


「ティアラはどうしたいですか?」

「ラウル様と一緒ならどこにでも行きます」


 その答えに、どちらにするか決めかねていたラウルは、考え込んでしまう。


(ティアラが行きたいと言ってくれたら、何も考えずに行こうと思っていたのですが――)


 当てが外れ、思考が憶測と不安を引っ張り出して、あらゆる可能性を検証しはじめる。


 ミカエル達は、ラウルが置いてきた宿題を引き受けてくれたのだろうか。

 やはり、やり遂げてもらえるように、言質までとるべきだったかもしれない。

 このままエルフの里にお世話になるのが、危険が少ないのは確かだ。

 もしかしたら、ラウルとティアラをおびき寄せる罠があるかもしれない。


 わざわざ危険だと予測がついているのに、ヴェルザンまで足を運ぶなど愚かだと、すぐにわかった。

 



 なのに、「やめよう」の一言は、なかなか口にできないでいた。


 そんなラウルを見て、ティアラはコインを取り出しチラつかせる。


「表が出たら会いに行く。裏が出たら会いに行かない。いきますよ!」


 ピン! と、勢いよく弾いたコインは空高く上がり、太陽に隠れる。

 パチン! と、落ちたコインを、手の甲で受け取った。

 その結果を見ようと、気づけば前のめりにのぞき込んでいた。


「結果は、――裏です。会いには行きません」


「……」


 その結果に納得しようとするラウルの表情を見て、ティアラは決意する。


「ラウル様、みんなに会いに行きましょう!」


「え?」


「行かない決定が不満なら、それは行きたいということです。なら、行きたいんですよ!」


「そんなこと、は――」


「行ってみましょう。見てから考えましょう」


 ラウルの不安は、ティアラの勢いにあっさりと吹き飛ばされた。残ったのは小さな小さな希望と思慕だ。


 ―― 戻って来てほしいと望まれたい。戻っていいのだと言って欲しい


 ラウルの小さな本音こえは、いつだって不安に押しやられているのだと自覚する。


「―― 戴冠式には出て欲しいと書いてありましたし。その、お祝いを伝えにいってみましょうか」


「はい!」


 翌日二人は連れ立って、エルフの里を出発する。

 二人のこの決断が、後にエルフの里と城塞都市ヴェルザンに繁栄と栄光をもたらすのは、まだ先の話となる。


 無論、この先には二人の前に立ちはだかる試練もある。 

 けれど、そこに辿り着くまでの道は、まだ途切れてはいない。


 ~ End ~

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )❤︎


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