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モブを愛した私は愚かにも人生を3回やり直す  作者: 咲倉 未来
Last Attack

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14.約束の答え

 ふわりと香った甘く優しい匂いに体が反応する。ティアラはぼんやりと自分を認識すると、ここがどこなのか考え始めた。


(確か、巨人を倒して、切られて。その後――――!!!)


 思わず目を開く。一番大切なラウルとの約束を達成する前に、自分はまた死んでしまったと思った。

 慌てて体を起こそうとすると、痛くて思わず呻き声をあげた。


 動けない。


 仕方なく目だけ動かして周囲を確認する。見知った天蓋と花の香りで、ここが『秘密の庭』であることを徐々に理解した。


(か、かえってこれた。私、生きて帰ってこれたのね)


 思わず涙が溢れる。ずっとずっとこの時を待っていたのだ。ゆっくりと手を動かし再び体を動かそうと試みる。


 少し起き上がって体を見ると、白いドレスの胸元に、ちらりと黒い皮膚が覗いていた。


「切られたところを、エミルが魔方陣で繋げてくれたのね」


 おかげで死なずに済んだのだ。けれど傷だらけの体はティアラの心を深く傷つけた。


「腕だけじゃなくて、全身ボロボロで汚くなっちゃった」

 まさか三度目で、こんな失態をするなんて思ってもみなかったのだ。


 知っていたなら――

「それでも、気づいたら来ているはずね。だって直前まで別の世界に行くって思ってたもの」


 それほどに、ラウルの最後の言葉はティアラの心に深く刺さったのだ。


 ―― その先の言葉を聞きたかった


 ただそれだけのために戻ってきて、こんな目に遭ったのかと思うと、気持ちが沈んだ。それでもそれがティアラなのだ。どんなに正論で言いくるめても自分の気持ちに従ってしまう。自分でも驚きいっそ清々しい――とは思えなかったが、まぁ仕方ないと思って諦めた。


『リーン、リーン』

 聞きなれない音がしてカーテンの外を見ると、ふわふわと小さな生き物が無数に飛んでいた。


「っ! フェアリー!! うっ!」


 大喜びで動いて、また傷口に痛みが走る。

 力なく笑ってカーテンを開ければ、フェアリー達が顔をのぞかせた。


「あぁ。可愛い!」


 思わず笑顔が零れたティアラの反応に、フェアリーはカーテンの中に次々と入り込んでくる。

 友好の証に手に持っていた花をティアラに渡した。持ちきれない量が集まり最終的にはベッドの上が花で溢れていった。


「ティアラ、気が付いたのですか?」


 フェアリーに呼ばれ、慌てて駆け付けたラウルが声をかける。

 ティアラは、少しだけ躊躇い、そしてひと呼吸置いてから振り向いた。


「ラウル様。ただいま戻りました」


 とびきりの笑顔でラウルを見上げた。そのせいでラウルの顔は歪み安堵の涙が流れ落ちる。


「よかった。意識が戻らないから心配したんですよ」

 駆け寄ったラウルに優しく抱き寄せられて、その腕の中に体を預ける。


「絶対に戻ってくるって約束しましたから。ラウル様の気持ちを聞くまで死ねませんでした」


「ティアラ……」


 聞きたくないと思った。このまま返事を貰わず怪我を理由にずっと居座って甘えていたかった。

 けれど、もしまた死んでしまったらどうだろうか。

 また後悔して戻ってくるのだろうか。

 何度も何度も繰り返すかもしれない。


「教えてください。どんな答えも受け止めますから」


「――。私は役割以上のことに踏み込むことはできません」


 再び聞いたその言葉を、ティアラは受け止めるべく努力した。

 大きく息を吸って吐き出せば、涙が止めどなく流れ落ちる。


「やっぱりダメなんですね」

 最後は笑って終わりたかったが、泣いてしまった。きっと覚悟が足りなかったのだろう。


「私はティアラの幸せを願っています。そのための協力は惜しみませんよ」


 ラウルは優しい。いつだって優しくて、そして残酷だ。

 この人の優しさが大好きで大嫌いだと思った。


「ラウル様。何言ってるんですか? 幸せになれるわけないじゃないですか」


 どん底に突き落とした人に幸せを願われるなんて、さらに突き落とされた気分だった。

 前世で短慮を起こした自分を恥じていたが、今この瞬間に人生を終了させたい気持ちがチラついてしまう。


 それでも、ちゃんと割り切ろうと思ったのだ。今回こそは。


 心を鬼にして、その腕から離れようと手に力を込める。


「……」


 もう一度力を込めて押してみる。何度押してもびくともしない。



「ラウル様、離してもらっていいですか? このままだと挫けそうです」

 けれど、ティアラは既に諦める覚悟も気持ちも崩れ落ちていて、そのままラウルの胸に体を戻してしまった。


「危険なんです。私と一緒にいると。ティアラには幸せになって貰いたいんです」


「……今、すごく幸せですよ」


 だって大好きな人の腕の中だ。しかもちゃんと生きている。妄想でもない。

 ここまで辿り着く道のりが険しすぎて、ティアラの中ではフラれたことより抱きしめられた幸福度が勝っていた。

 決別するなら、もっと手酷くフッてもらわないとまずそうだ。


「ラウル様。一緒に危険を乗り越えられたら、私と一緒に居てくれますか?」


 既に一度ふられたのだから、何度ふられても同じだろうと玉砕覚悟で聞いてみる。


「一緒に……ですか」


 ラウルに抱きしめられたまま長い沈黙が続く。

 もう、これきりになるかもしれないと思えば、名残惜しくてティアラは背中に手をまわして抱きしめ続けた。

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