13.帰還
ミストルティンの森が覆われていた霧が晴れると同時に、ラウルのもとにフェアリーが姿を見せた。
『リーンリーン……リーン』
羽を震わせて音を奏でる。何かを一生懸命伝えようとしてくれていた。
「私も、みんなに会えて嬉しいですよ」
ラウルはフェアリーの言葉が理解できない。けれど表情とジェスチャーで伝えたいことを理解していた。そしてフェアリーはラウルの言葉を理解しているらしく、今は再会を喜びあっている。
「あなたたちに会わせたい人がいるんです」
『リーン、リーンリーン』
「私の大切な人ですよ。追い返さずに仲良くしてくださいね」
『リーン』
そんな会話をして、ティアラの帰りを今か今かと楽しみに待っていたのだ。
□□□
連れ帰られたティアラは全身を布で巻かれ、発熱により意識が混濁していた。
ミカエルの腕に抱かれたティアラを受け取り、その様子に心を痛める。
本来であれば二年半の討伐を成し遂げた第一王子に労いの言葉をかけるべきだった。
けれど一人だけ重症なティアラを前に、怒りがこみ上げ責めずにはいられなかった。
「なぜ、あなた方の誰も怪我を負っていなくて、ティアラだけがこんな目に合うんですか」
安全な場所で待っていただけのラウルが、討伐隊を責めるのは筋違いだとわかっていた。
危険な討伐で、たまたまティアラが怪我をしたに過ぎない。決して誰かが意図して陥れたわけではない。それでも誰かがティアラを庇わなかったことに憤りを感じていた。
口を開けば暴言しか出ない。これ以上場違いな言葉を口にしないよう奥歯を噛み締めて耐える。
そんなラウルの様子を見たフェアリー達は、ミカエルたちを早々に追い出しにかかった。
「ラウル、待ってくれ」
「まずはティアラの回復が先です。失礼します」
事情も経緯も聞かないままラウルは『秘密の庭』の扉を固く閉じる。
抱きかかえたティアラを月桂樹の根元にあるベッドに寝かせ、体をくるんでいた布を取ろうと手をかけて愕然とした。
「――どうして」
着ていた服を切り裂き、体に入った大きな傷跡と黒い肌を見て布を戻す。
「っぅ。――い、今は治療を。はやく治して――」
震える手でティアラの手を握る。感傷に浸っている場合ではないのに動けない。
体を切られ魔方陣で繋げた傷は、今生きていることが奇跡だと思わせるのに十分な酷さだった。
どの位そうしていたのだろう。フェアリーがラウルの髪を引っ張り心配そうに周囲に集まっていた。
「――大丈夫ですよ。すぐに治ります。すぐに元気になりますよ」
ティアラにそして自分自身に言い聞かせながら体を起こす。悲しんでいる暇はないのだ。目の前の現実を早く受け止めて大切な人を助けなければならない。
「フェアリー、必要な薬草を集めてください」
その言葉に反応し、フェアリーがすぐに方々へと飛び立ち薬草を持って戻ってくる。
「私は調合の準備をします。少しの間ティアラをお願いしますね」
『リーン、リーン』
フェアリーはラウルの言葉に反応し、ティアラのところに集まって世話を始めたのだった。





