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モブを愛した私は愚かにも人生を3回やり直す  作者: 咲倉 未来
Last Attack

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5.愛を囁かれる者

 初対面で告白をしたティアラは、『秘密の庭』に現れる度に愛を囁き続けていた。


「ティアラ。そういった言葉は多く言えば言うほど、軽くなります。大切なときに伝えるから届くのですよ」


 あまりにも、あけすけに「好きだ」「愛してる」と言うので、その度にラウルは注意していた。


「言わずに後悔したくありません。気の済むまで言わせて下さい」


 けれどティアラには全く伝わらない。諦めてフルーツタルトを切り分け、紅茶を入れる。


「返事はいりませんから。今は伝えるだけで十分なんです」


 何が十分なのか、さっぱり分からない。

 ラウルとしては、立場上邪険にできないので聞き流して済ませている。


「このタルトも美味しい。ラウル様、好きです」


 正直、悪い気はしない。


「タルトが気に入って貰えて何よりです」


 やんわりと、話の矛先をタルトに戻してみるが、彼女は目を潤ませ、頬を朱に染めて熱っぽい視線をラウルに向けている。


 正直、悪い気はしない。


 けれどこういった事に慣れていないラウルは、どうにかティアラとの距離を保とうと足掻いていた。


 □□□


 教会への寄付のための石鹸の梱包作業が終わると、夕方になっていた。


「遅くなってしまいましたね。片付けは私が済ませますから部屋に戻って休んで下さい」


「最後まで手伝います。少しでも長く一緒に居たいので」


「なら早く済ませて解散しましょう」


 城に居る間、ティアラは時間の許す限り『秘密の庭』に滞在する生活を送っていた。いつも自由に過ごしていたラウルは、ティアラの訪問を断る予定が全く無い。そのため、丸一日彼女と過ごす日が続いている。


 そして、その日々がとても心地よいことに気づいて驚いた。


(フェアリー達はリボンやシールを持っていくので仕事がはかどりません。邪魔せず手伝ってくれる分、ティアラには好感が持てるのでしょう)


 心地よさは仕事のしやすさだと結論づける。


「ラウル様、この余った水色のリボン頂いてもよろしいですか?」


「ええ。構いませんよ」


 ティアラは、作業の邪魔にならないように結んでいた髪にリボンを飾り、満足そうに微笑んだ。


「可愛らしいですね」

「はい。私この色が好きです。空の色でラウル様の髪の色ですから」


 変化球をくらい、思わず言葉に詰まる。


「~~~そんなことばかり言っていると、そのうち本気にしてしまいそうですよ」

「はい! ぜひ本気にして下さい」


 ティアラがどこまで本気なのかわらない。ただ年下の女の子にいいように振り回されるのは、


 正直、面白くはない。


 つい、と彼女の頬に手をあててみる。後先考えずに意趣返しをしたのだ。ティアラも予想外だったのだろう。みるみるうちに真っ赤になって目を泳がせた。


「あまり、大人を揶揄うものではありませんよ」


 どうにか、嗜めることに成功し余裕が少しだけ戻ってきた。微笑んで、わかりましたね、と念押しする。


「えへへ。やっぱり好きです」


 動揺しようが揺るがない。そんなティアラに呆れて説得を諦める。もう何も言うまい。好きにさせようという気にさえなってしまった。


 正直、面白くはない。


 呆れて溜息をつくと、少しだけ申し訳なさそうな顔をしてティアラが首を傾ける。それは実に可愛らしい仕草だった。

 これはまずいと、彼女を警戒するように気持ちを引き締めた。


 □□□


 桃をスライスして順番に並べていく。綺麗な薔薇を描いたタルトが出来上がった。


「私は、一体なにを作っているのでしょうか」


 フェアリー達と違い、感想つきで美味しそうに食べてくれるティアラに張り合った結果、ラウルの作るお菓子のクオリティは無駄に上がっていた。


「まぁ。ーー喜んでくれるのは確かですし。ーーこのまま出しましょう」


 見せて褒められたい気持ちと、恥ずかしさがせめぎ合ったが、今さら別のものを用意するのもはばかられたので、そのまま『秘密の庭』のテーブルまで運ぶ。

 庭ではお手伝いと称して、ティアラが肥料と土を混ぜて新しい花壇用の土を作っていた。


「ラウル様、良い土ができましたよ。ミミズもたくさん見つけました」


「ありがとうございます。片付けて少し休憩しましょう」


 ティアラが汚れを落としに行っている間に紅茶を入れる。砂時計で蒸らし時間を計りながらタルトを取り出した。流れ作業でタルトにナイフをいれようとして、手を止める。


「戻ってきたティアラに見せてから切りましょう」


 少しして戻ってきたティアラからは、想像していた以上の反応があった。悲鳴をあげて喜んでくれた。その仕草が可愛らしくて心が温かくなる。


「そのように喜んでもらえて、手間をかけたかいがありました」

「食べるのが勿体ないです!」


 食べてもらいたいので、さっさとナイフを入れる。その途端、悲しい声があがった。


「また作りますから。それより味の感想も聞かせて下さい」

「食べなくても美味しいってわかりますよ!」


 小躍りしながら待つ姿は、お菓子を目の前にしたフェアリーとそっくりだった。

 一口食べると頬に手を当てて、うっとりと堪能している。


(多分この顔が嬉しくて、無駄に力作を作ってしまうのでしょう。困りましたね)


「ラウル様。このタルトもラウル様との時間も、大好きです」

「ありがとうございます。私もあなたにタルトを食べて貰うのが好きですよ」


「もちろん、ラウル様のことも好きです!」

「はい。知っています」


 返事を求めてこないティアラの好意を、ラウルはついに容認したのだった。

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