13.創世者様のお導き
目を覚ますと真っ白な髪に、真っ白なワンピースのような服を着た人が覗き込んでいた。
「気付いたか? だいぶ魂に傷がついている。今なおすから少し待っていろ」
キラキラと輝く粉が全身に振りかけられた。ゆっくりと全身から痛みが引いていく。
「創世者様。私、また失敗しちゃいました。せっかく望んだ世界の望んだキャラクターになれたのに」
痛みが薄れていくのに、涙が止まらない。
「やっぱり攻略キャラクター以外にアプローチしても、無駄だったんだ。馬鹿みたい」
乙女ゲームのヒロインなら、攻略情報とチートで何でも出来ると思っていた。
無敵無双で全て叶えることが出来ると、本当に思っていたのだ。
「恥ずかしい。死にたい……死んでるけど」
「思いきり堪能したようだな。なら素晴らしい人生だ」
それは違うと思わず眉根を寄せる。
ティアラにとっては、思った通りにならないことばかりの人生だったのだ。
「愚かな人生の間違いです。きっとみんな、そう言います」
悔しくて涙が止まらない。
「死んでなお心を震わせるのなら、それは豊かな人生だろう」
もっと楽しくて、喜びに溢れていたかった。
哀しみと怒りで涙の止まらない人生など望んでいないのだ。
「愚かかどうかは他者の評価でしかない。己の人生は自分だけのものだ。望んだ世界で、望んだ人格で、自身が選択した人生に同じものなど一つとしてない」
だから、間違いなど一つも無いと言ってもらえた気がした。
愚かだったかもしれない。
でもダメじゃないなら、自分だけでも肯定してあげたかった。
こんな人生が一つくらいあってもいいのだと思ったら、少しだけ心が軽くなる。
そのまま時間がゆるやかに過ぎていった。
記憶はあやふやになり、心もあまり痛みを感じなくなると、いつの間にか涙も止まっていた。
「さぁ、自分が生まれ変わりたい世界と人物を強く思い浮かべてくれ」
そう言われて、微睡みから意識が戻る。
(そうね。今度こそ幸せになるわ。もうティアラには生まれ変わらない。戦いなんて本当はしたくないもの)
二度と同じ過ちは繰り返さない。そう何度も自分に言い聞かせる。
目を閉じてるのか開いてるのかわからないほどの光に包まれて、視界が真っ白になっていく。
「そろそろ時間だな。それでは良い来世を」
(ラウル様を忘れて、私は今度こそ幸せになるの)
けれど脳裏に思い浮ぶのは、最後の時のあの人の顔だった。
―― 悲しく歪んだラウル様の顔が頭から離れない
『いいえ、いいえ、待って下さい! 私は、あなたを――』
―― その先の言葉を、私はまだ聞けていない





