10.秘密の庭のお茶会3
―― 城塞都市ヴェルザン城 城内 ――
『秘密の庭』
遠征から戻ったティアラは、あっさりラウルに拉致された。
宣言通りに習得したヘッドマッサージの技を披露される。
討伐疲れの溜まっていたティアラは、あらがえずに寝落ちした。
目を覚ますと、いそいそとお茶とお菓子の準備を始めるラウルが見えた。
仕度が終わったラウルは、天蓋のカーテンをめくりティアラの手を取る。
用意されたテーブルの上のイチジクのタルトにミルクティーを前に、ティアラは笑み崩れた。
(至れり尽くせりすぎる!)
遠くで鳴った時報の鐘の音が、運命の扉が開く祝福の鐘の音にしか聞こえなかった。
―― これは、もしかすると、もしかするのではないか
今世の隙のない攻略結果と成果を前に、達成感のようなものに包まれていた。
(いけないわ。まだ気が早いわ)
その様子を見てラウルが心配をする。
「ティアラ、まだ寝たりなかったでしょうか?」
「いえ、今は小腹が空きました! いただきます――はぁ。おいしひ」
久々の甘味が体中に染みわたる。
「~~何もかもが幸せすぎるます」
空も花もケーキも何もかもが、輝いて見えた。
「それは良かったですね」
もちろん、ティアラを見つめるラウルの笑顔がいちばん輝いて見えていた。
□□□
旬が少し過ぎ熟れきった苺を摘んでいく。
手提げ籠いっぱいに集めたら、ラウルが苺ジャムにしてくれるのだ。
(スコーン、パンケーキ、クレープ、焼きたてのパン――)
頭の中は苺ジャムを何で食べたいかでいっぱいである。
浮かれたティアラが畑の苺を全てを採りきると、畑の奥で小さな小箱を見つけた。
銀色で蔦と羽の細工に緑の宝石のはめ込まれた、ソレに既視感を覚える。
(もしかして―――見つけちゃったかも!)
喜びより恐怖が勝った。妖精の悪戯が詰まった小箱は凶器としか思えなかったのだ。
あまり悩まず、ラウルに鍵ごと手渡した。
「そんなに、こわがらなくても。魔物と戦うよりずっと安全ですよ」
そうだろうか。得体の知れないぶん魔物相手のほうが余程気楽である。
「なら、私が開けましょう」
カチャっと音がして箱が開く。
叫び声は聞こえないので、マンドラゴラではない。よかった。
「おや。これは当たりです。妖精の粉が入ってました」
「え! やった!」
回復薬にも使えるし、武器強化にも使えるアイテムだった。
ゲームでは敵を倒すと、ごくまれにドロップする。
「良かったですね、ティアラ」
「はい!」
妖精の粉の入った小瓶を受け取る。
ティアラはそのまま蓋を開け、迷わず自分の弓と短剣に振りかけた。
その潔さにラウルは唖然として見守る。
「うわぁ。本当に強度が上がってる。それに軽ーい!」
そんなラウルを気にもとめず、ティアラは大喜びだ。
ひとしきり喜んだあとは、咳払いをしまじめな顔をしてラウルに向き直る。
「ラウル様。次が最後の遠征になります」
ここまで、許す限りラウルと時間を共にした。
それはティアラにとって揺るぎない自信と確信をもたらしてくれる。
―― 前回以上に親密度は高い。だからちゃんと告白さえできれば、いける!
「私、戻ってきたらラウル様にお伝えしたい事があります。だから、待っていて下さいね!」
「ええ。ティアラが無事に帰還することを待っています」
ラウルに頭を撫でられて、満面の笑みを返す。
さぁ、今度こそ全てを完璧に整えるのだ。
【妖精の粉】
回復にも使えるし、武器強化にも使える素材。





