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第五十九話「父親の情」

ここからしばらく晴景も虎千代も出てこないと思います(爆)

戦の場に居ないのではどうしょうも無いです。

天文11年(1543年)8月

 伊達晴宗は稙宗との決戦に挑むべく、白石に集結をしていた。

 その数はおよそ15,000に及び、軍勢は稙宗の本拠地である丸森城へ向けて進軍を始める。

 一方の稙宗派も黙って見ているわけが無く、丸森城へ集結をしていた。

 その中には長尾家から派遣された柿崎景家と椎名長常の姿もあった。





-椎名長常-

 軍勢は互角、補給は稙宗殿が責任を持つらしいけど何時もの長尾家の戦の様に上手く行くとも限らない。

 それに盟主である稙宗殿の意向で、篭城せずに迎え撃つらしい。

 まったく、今回の戦は楽できそうに無いですね。


 まぁ下手に時間がかかるよりはよっぽど良いですけどね。

 早く帰って鉱山の開発の続きがしたいです。

 本当、僕の新川郡にあんなに鉱山があったなんて思わなかったよ。

 晴景殿が山師を多く派遣してくれたおかげで、楽して収入を増やせたから良かったんだけど、収入が増えれば軍役が増えると言うのは盲点だったねぇ。


 何にせよ、奥羽に長く居ても一銭の得にもならないからね。

 景家君とも相談して早く終わらせるとしよう。


「景家君、この戦を早く終わらせる気はありますか?」

「椎名殿は何か案があるのか? 早く終わるならその方がいいぞ」


 そうですね、僕には一つ案があります。

 ”戦は戦う前に結果が決まる。”

 宇佐美殿や晴景殿の受け売りですが、楽をしたい僕の性分と非常に合ってます。


「いえね、この戦が長引きそうだと思う理由は第一に軍勢が拮抗していると言う事ですよね。ならばその状態を崩す一手があればすぐに終わると思うのですよ」

「確かにそうなんだぞ。でもどうやれば良い? 晴宗の首を取ってくれば良いか?」


 景家君は物騒な事を言います。

 彼の部名を考えれば、あながちそれが出来ないと言い切れない所が恐ろしいですね。


 でも、もっと簡単な事です。

 あの蘆名盛氏も似たような事をしてくれましたしね。


「いえいえ、もっと単純で楽な方法がありますよ。まぁ何にせよ稙宗殿に相談しなければならないでしょう。」


 僕は稙宗殿の陣へ相談に行く。

 晴宗の軍の一部を調略するために。


・・・・・


「なるほど、確かにあの軍の中の一部でも寝返らせられれば戦況は一気に傾くじゃろう」

「えぇ、特に向こうに着いてる大崎と葛西は稙宗殿の息子が本来の後継者となっています。二人を前に出して交渉すれば芽はあると思いますが……」


 稙宗殿は僕の案を理解してくれる。

 まとまりがない奥羽を、その智謀でまとめて来た稙宗殿だ。

 この案の利点が解らない訳がない。


 でも稙宗殿の口から出た言葉は、僕の予想を外しました。


「しかし、万が一にも(大崎)義宣と(葛西)晴清が害されては、それこそ両家を今後支配できなくなるじゃろうからな。前に出すことは出来んわ」


 まぁ言っている事は一理ある。

 交渉に行かせたら討たれました何て事になったら眼も当てられませんしね。


 でも、まず戦に勝つことが重要じゃないですか?

 討たれたら討たれたで、彼らを非難する材料にすれば離脱する者も出てくるだろう。


 ……ならば


「……ならば、大崎・葛西を扇動する者を暗殺しちゃえば、下の者は稙宗殿の息子に付くのでは無いですか?」


 僕は稙宗殿の息子を危険に晒さない別案を提示する。

 卑怯と言えば卑怯かもしれないけど、今相手の頭が減ればそれだけ戦が有利にもなる。


 それに両家の当主はこちらに居るんだから、謀反者を討つとすれば理由が無いわけでもない。


「うむその案は考えないでも無いが、不自然に暗殺をしては返って彼らの反発を強めるかもしれんしのぉ」


 これも一理はある。

 だが戦の中のことなら誤魔化しようもいくらでもあるし、何より先の反発より今の勝利じゃないですかね?


 参ったな。

 これじゃ楽出来そうに無いですね。


 せめて、案を握りつぶさせない様にしませんとね。


「……解りました。それなら普通に引き込むだけでもやって見ましょうか」

「そうじゃの。わしの方から説得してみるとしようかの」


 つまりは僕達は関わるなって事ですね?

 はぁ…… 本当に面倒なことになったねぇ。



・・・・・


 僕は稙宗殿の陣から自分たちの陣へ戻る。

 あの稙宗殿の姿を見て確信した。



 稙宗殿は負けたがっている。



 いや、正確には息子に勝たせたがっていると言っても良いかな?


 通りで最初からおかしいと思っていたんですよ。

 稙宗殿ほどの切れ者が、むざむざと最上や蘆名が向こうに着くのを容認しているのが、まずおかしい。

 自ら不利な状況を呼び込んでいる様に僕には見えました。


 非情になりきれ無いのは親の情ですかね?

 だとすれば、晴宗は兵を挙げる必要など無かった。

 ただ腹を割って話し合えば楽に解決していたでしょう。


「景家君、どうやら僕の案は上手く行かないようです」

「そうなのか…… なら次は俺の案で行くんだぞ」


 おや、景家君も何か考えていたのですか?

 景家君は槍を高々と掲げて宣言する。


「名高い相馬殿の軍と連携して、一気に叩くんだぞ」


 ふむ、実に解りやすいですね。

 戦場外で駄目ならば、戦場の中で決着をつけると。


 彼らが頑張ってくれれば僕も楽が出来ますかね?


 いや…… これは景家殿の軍に付き合わされそうですし、そうも言ってられないかな?

 僕の軍は景家君の所みたいな正面突破は出来ないですし、やっぱり自分でやるしか無いんでしょうね。





-伊達稙宗-

 長尾家から派遣された椎名殿はわしの痛い所を突いてきおった。

 彼の案はどれも眼の前の戦に勝利することに全力を尽くしておる。

 それに比べてわしはどうじゃろうか?


 確かにわしは積極的に勝とうとしておらんかったかも知れん。

 蘆名の事を晴景殿に押し付ければ、他に切れ者と言える者はおらんから、上手くあしらえるとさえ考えていた。


 わしが勝つにしても晴宗が無様な負け方をせねば、あるいは家督を譲ってやる事も出来る。

 そう考えるわしは甘いのじゃろうな。


 しかし戦場に出てしまえば、わしを信じている諸将の為にも、情は捨てねばなるまいな。



 こうなってしまっては実元を他家に入れなかったのが、幸いと言った所じゃの。

 万が一にわしと晴宗の両方が討たれても伊達家の跡継ぎが残っているのじゃからな。



 わしは、不意に白石の方へ続く道を眺める。

 この道の先には晴宗の軍が居て、わしを討つために向かってきておる。


「もう戻れないのか? 晴宗よ……」


 わしの口から自然と出た言葉は、誰も聞く事が無く静寂に消えて行った。





―親子のすれ違いから起こった天文の乱は、いよいよ後に退けない状況になる。

 大軍同士による決戦の火蓋は、間もなく切られようとしていた。

実際の天文の乱では、稙宗派の蘆名・最上を初めとする複数の将が寝返った為に稙宗派が一気に不利になりました。

それまでの稙宗の強引な手法に反対したのだろうとは思いますが、余りにもお粗末じゃ無いですか?


自分はこの辺から稙宗が積極的に勝つ気が無かった可能性もあると考えます。

無論、付いて来てくれている諸将の前ではそんな態度は見せかったでしょうけどね。

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