第五十六話「虎千代軍団の強化」
天文11年(1543年)7月
伊達稙宗と晴宗の軍が集結を始めていた。
先年から何度も相対してきた両軍であるが、これまでにない規模での争いが行われようとしていた。
長尾晴景は会津の統治を優先する物の、稙宗が負けても困る事もあり兵を出す準備をしていた。
だが、そんな裏で一人自分の軍の補強を着々と進める者がいた。
-虎千代-
「わが虎千代軍団には致命的な弱点がある! 何だかわかってる?」
私は集まった皆に対して疑問を投げかける。
そう、これは私の軍団が最強になる為に避けては通れない問題だ。
「うす!」
弥太郎が勢いよく手を上げる。
「我々が強すぎて、練習相手が皆断ってくると言う事っすか?」
「うん、それも弱点だけど、もっと別のがあるよね?」
「……むしろそれは良いのでは無いでしょうか?」
長重が何か文句を言ってるけど、それならあなたは解ってるのかしら?
「長重、あなたはどう思う?」
「そうですね、政治的な事が得意な参謀が居ないと言う事ですか?」
「さすがね、ちゃんと解ってるわ」
うん、何だかんだ言って長重は、私の考えを一番良く解っている。
さすがは一の家臣と言った所ね。
「私達の虎千代軍団はそれぞれが一騎当千だけど、それは戦場の事よ。そこまでの準備を整えたり補給を支えたりするのが得意な者がいないの! それとも、誰かそう言うことやりたい人いる?」
場がしーんとする。
うん、やっぱり誰もやりたく無いみたいね!
「と言うわけで可及的速やかにそう言った人材が必要なんだけど、誰かいないかな?」
私が話を振ると、弥太郎が一人の者を推薦する。
「姐さん! 斎藤家の朝信が確か麒麟児と名高いらしいっす!」
「あぁ~、あの本ばっか読んでるもやし野郎か」
「あれで武芸もそこそこやるから、確かに優秀だよな」
「軍学を教える房忠様も『晴景様達以来の逸材』と言っていたはず」
何その子?
凄い良いじゃない!
「よし、今すぐに勧誘に行くわよ!!」
「「「「うっす!」」」」
私は、いつも斎藤朝信がいると言う、爺ちゃんが軍学を教えている部屋に向かう。
「じいちゃん、失礼するわよ」
「おや、虎千代様がここにいらっしゃるのも久しぶりですな……何やら穏やかでない感じですじゃが」
私の後ろには武装はしていないが、屈強な男達(あと長重)が並んでいる。
じいちゃんに迷惑をかける気は無いので、さっさと目的を果たす事にする。
「斎藤朝信はどこかしら?」
「姐さん! あそこのアイツです!!」
「え!? 私ですか??」
顔を知っている弥太郎が朝信を指差す。
急に注目を浴びた朝信は、呆けた顔をしている。
私は連れてきた者達に命令する。
「連れて行きなさい」
「「「「うっす!」」」」
「えっ! ちょっと…… そんな!?」
朝信は軍の中でも特に屈強な弥太郎達に四肢を掴まれ、そのまま担がれて運ばれている。
何か文句を言っているようだけど、説得は向こうに着いてからだ。
私は彼らの後を追う前にじいちゃんに謝る
「じいちゃん、騒がしてごめんね」
「ほほほ、まぁ彼には教える事も殆ど無いから構いませんぞ」
じいちゃんは笑ってそう話す。
さすが! 話が解るわ!
「……て言うかこれって普通に拉致だよね?」
長重が何か呟いていたが、聞かない事にした。
・・・・・
「なるほど、あなたたちの言う事は解りました」
「じゃぁ私に付いてきてくれるわね?」
「お断りします」
私は朝信を勧誘するけど、彼はあっさりと断ってきた。
そして涙を流しそうな勢いで訴え始めた。
「何が悲しくて、私がこんな脳みそまで筋肉な人達と一緒にいないといけないのですか!! 私は晴景様の役に立つために努力してるのに!!」
「ならば問題ないわ! 私の役に立つ事が即ち兄上の役に立つ事よ!!」
うん、それなら問題ないじゃない。
私の軍は兄上の力になるために日夜鍛錬をしているのだ。
目的が一緒ならば、一緒にやればいいじゃない?
「う~ん、言ってる事は間違ってない気もするんだけど」
「いや! 間違ってますよ!!」
長重は複雑な顔をしているが、朝信はそれに対して強くツッコミを入れる。
朝信は何が不満なんだろう?
「なら、どうすれば従ってくれるの?」
「……そうですね、せめて私より指揮が上手い人じゃないと命は預けられませんね」
なんだ、そんな事か。
私はその不満を解決する為に、長重に命令をする。
「なら簡単な話ね。長重、兄上に兵を借りる許可を貰ってきて!」
「……良いのかなぁ」
釈然としない顔をしているが、長重はすぐに兄上の部屋へ駆けて行った。
・・・・・
私は兄上に許可を取り、朝信と模擬戦を行う。
公平を規すために、私の将兵は使わずにお互いに兄上の兵を使った。
そして、今決着が着いた。
「ま……負けた?」
「ふふん! 当然の結果ね」
私は朝信に対して勝ち誇る。
実際は結構危なかった。
叔父上や景綱みたいに受け流す戦いから、兄上の様に包囲を狙って軍を動かしていて、包囲の薄い所を見つけて破れなかったら、私が負けていたかもしれないわね。
うん、余計に欲しくなったわ。
「こんな『考えるより殴れ!』とか言いそうな人に負けた……」
「それは否定しないけど、虎千代は戦に関しては天才的なんですよ」
「失礼ね、私は殴る相手はちゃんと考えるわよ」
何か朝信と長重が失礼な事を言ってる気がする。
私が殴るのは兄上の害になる者だけで、ちゃんと考えて殴ってるわよ!
まぁそれは置いといて、私は朝信に声をかける。
「これで納得した?」
「……そう簡単には納得できませんが、負けたのは確かです。なので約束どおり従います」
やった!
これで私の軍団の弱点も減ったわね!
他のみんなも新入りが増える事を歓迎している様子だ。
「よし、じゃあ新入りも増えた所で鍛錬を始めるわよ!!」
「姐さん! 素振り二万回からで良いっすか?」
弥太郎がいつもの訓練内容を始めようとする。
それを聞いて、少し朝信の顔色が悪くなる様子が見えた。
「ちょ……二万回って「良いわよ!!」えぇ~!?」
何を驚いてるの?
うちの軍団じゃこれくらい普通よ!
でも、何だか長重は朝信の様子を見て、悪そうな笑顔でこう言った。
「ご愁傷様」
―この時、後に竜の両翼(苦労人)と呼ばれる二人が始めて揃ったという。
晴景達が戦で忙しい間にも、着々と虎千代軍団はその戦力を増していた。
えっと、乱で少し重い話が続いたので軽い話を書きたかったのです(爆)
何にせよ、虎千代軍団は着々と優秀な将を取り込んでいます。
本人の意思はともかくとして。




