第五十五話「会津侵攻」
お盆期間は出かけていましたが、無事に帰って来ました。
今日の夜くらいから溜まっている修正や感想返信など行っていきます。
天文11年(1543年)6月
長尾家内部の問題も一段落し、ついに会津への侵攻が始まる。
長尾景康を総大将とし、直江景綱を中心とした越後北部の諸将に、蘆名盛氏を加えた会津侵攻軍4,000は、鳥居峠を越えて会津国内に侵入する。
蘆名盛氏に従い捕虜となっていた者達は、ほとんどがそれぞれの領地に戻り長尾家への協力を表明していくが、特に会津に残っていた者達で長尾家への反抗をする者も当然居た。
そしてその旗手となる者は、盛氏の腹違いの兄・氏方であった。
-蘆名盛氏-
僕らの元に、蘆名氏方が兵を挙げたと連絡が入る。
蘆名氏方は僕の兄で、母親の身分が低い庶子であった事もあり、当主になれなかった男ですね。
そうですか、兄はやはり動きましたか。
自分を差し置いて蘆名家の当主になった僕のことを、ずっと恨んでましたからね。
まぁ恐らく裏で糸を引いているのは晴宗殿でしょうね。
蘆名が長尾の参加に入れば、晴宗殿の領地の米沢は三方より囲まれる事になりますからね。
ついこの間まで稙宗殿に対して優位に戦をしていたのが、一気に形勢が変わります。
まぁそれも僕が長尾家に降ったせいなんですけどね。
それにしても、兄は以前の僕と同じように長尾家を侮っていないでしょうか?
もしも僕がこの状況で長尾家を相手にするのなら、晴宗殿に稙宗殿との決戦をして貰うように促し。決着がつくまでの時間稼ぎを考えるでしょうね。
その決戦に晴宗殿が勝てば良し。
負けても長尾家に対してでなく稙宗殿に降参すれば、最悪再び長い臣従を強いられますが、蘆名の名跡は残せますからね。
兄も晴宗殿が裏で糸を引いていれば、それに近い選択を選ぶと思いました。
ですが……
「敵がいますね」
「数は2,000と言った所でしょうか? 迎え撃つにしても、もっと他にやりようがあると思うんだけど……」
僕と景綱殿は困惑している。
なんであの兄は峠を越えてすぐの会津盆地に陣を張って待ち構えているのでしょうか?
遮蔽物も無く平野が続くこの地は軍が戦いやすい土地ですが、そもそも兵数で負けてる兄の軍が戦いやすい土地で戦っても、結果は見えています。
「あれは僕の兄の旗印です」
僕は軍議の場で、相手が誰であるかを他の将に伝える。
正直言って少し言いたくなかったです。
「おや、兄弟で相打つ事になるとは不憫と言って良いですか?」
「いえ、僕達は長尾家の様に仲が良くないですから」
とは言っても、まったく肉親の情が無いわけじゃない。
だから自分の中で兄を信頼したい気持ちも確かにあったね。
しかし僕が居なくなっても最悪は兄が神輿になれば蘆名は残ると思っていましたが、あれじゃ神輿にすらならないじゃないですかね。
……この辺りも父の判断が正しかったと言う事が解りますね。
父には蘆名の当主としての長い経験があり、人や状況を見る目、そして正しい判断を選択する力においては、僕もまだまだ勝てなかったようですね。
そんな状況を見て、総大将の景康殿が僕に意見を求める。
「盛氏殿はどう思います?」
「そうですね、兄は僕を討ちたくて仕方が無い様子ですが、会津には僕を討たれては困る人も大勢居るでしょうからね」
「うん、無理に攻める必要はないかな? 仮に対峙が伸びても、補給体制は万全だしうちの方が兵糧の余裕もあるしね」
僕の意見に景綱殿が同意し、景康殿はその意見を採用する。
さて、そんな父がこの状況で動かないなんて事がありますかね?
・・・・・
兄の軍と対峙を始めて三週間。
時折攻めてくる兄の軍は、巧みに軍を動かす景綱殿と、前の戦の汚名返上に燃える景康殿の配下の活躍で、こちらに大した損害も与えることは出来ていません。
むしろ向こうの損害の方が大きく見えますね。
と言うかそもそも、こちらの兵数が多いのですから無理に攻めてくる意味が解りませんね。
対峙する事で牽制し、越後へ帰ってくれることを狙っているのならまだ解りますが、向こうにも積極的に攻める理由は、何らかの不安が無いのでしたら、理由が無いのですけどね。
さて、まぁ時は稼ぎましたし、そろそろ来る頃でしょうか?
「盛氏様、盛舜様の軍が氏方様の軍の背後に到着し、攻撃している様子です」
「うん、それを待っていたのだよね」
父がこのごに及んで、付く相手を間違えるとは思えない。
ならば僕は、ただその到着を待てば良い。
僕は景康殿に総攻撃を提案し、受け入れられる。
・・・・・
兄の軍は攻撃を受けてバラバラになり、そのまま逃げていったようだね。
その場で兄を討つ事は出来なかったが、逃げた先で自刃したらしいと言う話を聞いた。
そして、戦場が落ち着いて父の軍と合流した時、僕は久しぶりに父の姿を見る。
僕が隠居を迫ったとは言え、変わらないその姿に安心感をおぼえた。
「盛氏……」
「父さん、僕はどうやらまだまだ貴方に勝てなかったようです」
最初から父が言うように稙宗殿の側に付いていれば、このように無様な姿を見せる事も無かったでしょう。
まぁ今更言ってもしょうがないことですが。
そんな事を考えている僕に、父は近づいてくる。
「親子に勝ち負けなど無いのだ。俺が言いたいのはよく生きて帰ってきてくれたと言う事だ」
父はそう言って僕を強く抱きしめる。
甲冑が肌に当たって少し痛いが、不思議と暖かい気持ちになる。
「俺はお前と争いたくなかったから、当主の座を譲った。お前が越後へ進軍したと聞いた時はそれが間違いであったかと悔いたが、無事に帰って来て良かった」
「……父さん」
父の思いに触れ、僕の頬を熱い何かが流れている感じがしますね。
「氏方は残念だが、蘆名の当主はお前だ。二度と道を違えない様に気をつけよ」
「勿論です」
僕はもう二度と間違わないし、二度と負けない。
長尾家に従うにしても、その中で蘆名が重んじられるようにする事が、蘆名家当主としての役目だね。
-伊達晴宗-
「殿、蘆名氏方が長尾家に打たれた様子。それも蘆名盛氏・盛舜も長尾に付いた様子」
「わかった。下がって良い」
これで会津は長尾の手の中か。
猪苗代などを煽って統治を難しくする事は可能だろうが、時間を稼ぐ意味しかないだろうな。
会津を完全に統治されるまでに父上を討たなければ、米沢は敵に囲まれる事になる。
特に最上などは、あっさり俺を裏切る可能性も考えられるだけに、四方全てが気が抜けない状況になる。
そうなれば俺に勝ち目は無いだろう。
俺は一つの決断を下す為に、家臣を呼ぶ。
「宗時と(鬼庭)元実をここに」
「はっ!」
俺が呼ぶとすぐに二人は部屋へ来た。
その顔を見回し、まず俺が軍事を任せている元実へ命令をする。
「父上との決戦を行う。元実は全軍に出撃準備をする様に伝えろ」
「はっ!」
続けて、外交を任せている宗時に命令する。
「宗時は味方をする大名に出陣を要請しろ。特に最上には念入りにな」
「ははっ!」
二人は命令を受けると、すぐに部屋から出て動き出す。
父上…… これでもはや俺と貴方のどちらかが屍になるまで争わねばならないだろう。
俺が死ぬか貴方が死ぬか。
これが最後の勝負だ。
―時が経つ事で自分が不利になると見た伊達晴宗は、稙宗方に対して決戦を仕掛けることになる。
乱の行く末は未だ決っしておらず、晴景達もまた休む間が無いのであった。
すれ違いがテーマの天文の乱編。
密かに蘆名親子もすれ違っていました。
べたべたな展開ですが、盛氏の覚醒イベントと言う事で一つ。




