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第三十九話「鉄砲鍛冶村の視察」

天文8年(1540年)7月

 長尾晴景が家督を継いで、早三年。

 長尾家の周囲は不気味なほどに静かであった。

 当主として家中の掌握に努める晴景であるが、それと同時に進めなければならない事も多くあった。

 そしてその一つが、その存在を未だ一部の者以外に伏せている鉄砲についてであった。





-長尾晴景-

「兄上、ここでは何をやってるの?」

「新しい武器を作ってるんだよ」


 俺は虎千代と共に鉄砲鍛冶村を訪れた。

 目的は鉄砲について教える事。


 だがそれよりも、虎千代は春日山からあまり外へ出ないので、周囲を楽しそうに見ている。


「兄上、村の中を見てきても良い?」


 虎千代は目をキラキラさせて、俺に訴える。

 まぁ俺も生産状況の報告とかを聞かなきゃいけないし、その辺はまだ虎千代が聞かなくても良いから大丈夫だろう。


「う~ん、あまり遠くに行くなよ」

「は~い」


 俺は走っていく虎千代の姿を見つめつつ、軒猿に指示を出す。


「段蔵、一人付けてくれよ」

「御意、虎千代様には既に一人付いております」


 俺を含め長尾家の者は、万が一にでも誘拐や暗殺に会うわけにもいかないし、出かける時は護衛は必ず付けている。

 まぁ実際は段蔵に全てお任せなんだけどな。


 俺はこの村をしきる頭領の元へ歩く。


「これは晴景様、良くお越しくださいました!」


 かつて鍛冶師を探していた時に着いて来てくれた、数少ない元からの鍛冶師。

 その中で最も年上なのが今の頭領だ。

 年上と言っても、俺とあんまり変わらない歳だけどな。


「様子はどうだ?」

「はっ、現在は週に5~6丁、月間で20~30丁を生産できております」


 順調……と言って良いのか?

 前例が無い物だと、どうしても比較できないから解り難いな。


 まぁ一応もっと増やせるかは聞いておこう。


「これ以上は無理か?」

「粗雑な物でよろしければいくらでも。しかし性能と安全面を考えればこれが一杯です」

「ならそのまま続けてくれれば良いよ」


 うん、鉄砲の暴発とかあると命の危険があるからね。

 安全第一にしなければならない以上は、無理に増やさせられないな。


「そう言えば晴景様のご指摘で筒の中に螺旋状の溝を入れて見ましたが、命中の精度や貫通力は上がってると思われます。しかしその分だけ砲身が脆くなり、撃った後に亀裂がみられました」


 元々現代の銃を思い出しても、技術のレベルが違うために火縄銃に応用できる部分が少ない。

 俺が銃に関しての知識で、唯一役に立ちそうなのがこのライフリング(銃身の内側に螺旋状の溝を入れること)だった。

 だが、残念ながら実用的では無さそうだ。


「銃の性能が上がるのは良い事だが、それじゃ使い物にならないね。悪いけど今まで通りのやり方で頼むよ」


 俺がそう言うと、頭領は少し安心したような顔をする。

 自分でも注意してるが、俺は家督を継いだ事もあり発言に重みがあるのだ。

 下手に使い物にならない物を作った事を批判すれば、誰かが責任を取るとか言い出しかねない。


 まぁ、今回は俺が提案した事だから責任を取るなら俺なんだけどね。


「それと、言い難いのですが…… 玉薬を融通して頂けると助かります」

「いや、試射するのにもかかるのだから無くなるのはしょうがないだろ。神屋殿に伝えておこう」


 玉薬は神屋殿に頼んで外国から輸入している。

 金銀が多少勿体無くはあるが、作り方がわからない以上は買うしかないからなぁ。


 確か雑賀衆とかは自分で作ってたと思うし、いずれは自分達で作るつもりだが。


 頭領との話が終わる頃、虎千代が同い年くらいの男の子の手を引いて、こっちに駆けて来た。


「虎千代、その子は何だ?」

「私の家来!」


 ……え?




-虎千代-

(数十分前)


 ほえ~、色々と春日山とは違う。


 しばらく歩いていると大人達が弓矢の練習に使うような的へ、筒のような物を向けている。


 あの筒が兄上の言っていた武器かな?

 何か遠くの的を狙って構えてるけど……


 バァンッ!!


 うわぁ~凄い音!

 それに的を見ると穴が開いてる。突き抜けたの!?


 これが兄上の言ってた鉄砲。

 確かに秘密にする意味がありそうだ。



「ねぇ、君のお兄さんは武家の人かい?」


 私が鉄砲を眺めてると、不意に後ろから声を掛けられる。

 そこには私と同じ位の背の男の子が居た。


「そうだけど、何?」

「あぁ~良かった! 実は僕は武士になりたいんだけど、伝手が無くて困ってて」


 ん~…… つまりうちの家来になりたいって事かな?


「子供が勝手にやったら怒られるよ。親はどうしたの?」

「……いないよ、親は」


 え!?


「むかし、上田長尾家って所に仕えていたらしいけど、為景様に反乱して討ち取られたらしいよ」

「そうなんだ……」


 上田長尾、兄上の話で聞いた事がある。

 確か兄上の初陣で倒した相手の一つ。


 そして綾姉上と仲良しの政景さまの家だったかな?


 そうするとうちとも関係あるよね。

 親が居ないなら働かなきゃいけないし。


「よし、私が腕前を見てあげる!」

「君が? あんまり女の子と手合わせしたくないんだけど」


 あ~! 何だか嫌な眼で見てる。

 私だって、景家に筋が良いって言われてるんだぞ!


 だったらやる気にさせてやる!


「私に勝ったら兄上に頼んであげるよ!」


・・・・・


 私達は練習に使っていると言う棒で、打ち合いを始めた。

 そしてたった今決着がついた。


 結果は……


「ぐっ……負けた」


 何とか私の勝ち!

 でも本当に危なかった。この子本当に強いよ!


 それにしても……


「何であそこで突かなかったの?」


 私が体勢を崩した時、この子の棒が私の顔の目の前にあった。

 でもこの子はその棒を突こうとせずに振りかぶった。


 結果、避けながら胴に当てた私の勝ちだ。

 あの時、この子が選んだのが突きだったら勝負は解らなかったかも知れない。


「……戦場ならともかく、女の子の顔を怪我させられないよ」


 ふぅ~ん、優しいんだね。

 それは戦場では命取りになると教えられたけど、私は嫌いじゃないよ。

 景家だって、優しい時と本気の時と切り替えられるんだから、きっと大丈夫!


「うふふふふっ…… 気に入ったよ! あなた私の家来になりなさい!」


 だから私はこの子を兄上に譲らない! 私の家来にするんだ!


「君の家来か。まぁ武家には変わらないし、それに僕が負けるほど強いなら……」


 何だか考えてるみたいだね。

 家来になってくれるかな?


「よし、良いよ。君の家来になろう!」

「やったー! よろしくね!」


 私はこの子の両手を取って飛び跳ねる。

 初めての家来だし、この子は気に入ったから嬉しい!


「あっ」


 少し顔を紅くしたこの子は、不意に何かに気がついたように声をあげる。


「そう言えば、名前まだ聞いてなかった。僕は甘粕長重、君は?」


 そう言えばそうだった。すっかり夢中になってたしね。


「私は長尾虎千代!」


 私が名乗ると、この子……長重は驚いた顔をしている。


「……長尾って、どの長尾?」

「う~ん……解らない!」


 どの長尾ってどう言う意味かな?

 母上の実家や政景さまも長尾家だけど、長尾家や長尾家だよね?


「じゃあ父上の名前は?」

「為景父上だよ!」


 私が答えると、今度こそ長重は驚愕の顔になる。


「えぇぇぇぇぇぇ!!」


 声をあげてその場で固まる長重。

 でも早く兄上に自慢したいから、手を引っ張って連れて行くことにした。


「兄上~!」


 兄上は村の人と一緒に居るけど、もう話は終わったのかな?


「虎千代、その子は何だ?」

「私の家来!」





―この後、虎千代に最後まで仕えて“竜の片翼”と呼ばれる将、甘粕景持。

 その出自から長尾家に仕官するまでは謎に包まれ、いくつかの説が存在するがどれも確信には至らない。

 その中には、“謙信が拾って来た”と言う説もあるのであった。

上杉四天王最後の一人の登場です。この人だけは出生に説が多すぎてどのタイミングで出すべきか迷いました……

ちなみに謙信が拾って来たってのも説の一つです、拾った場所は信濃の山奥ですけど。


あと上杉四天王と言いつつも、現状は超バラバラですね。

使える主君も宇佐美定満=為景、直江景綱・柿崎景家=晴景、甘粕景持=虎千代って感じですしね。

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