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妹は軍神 ~長尾晴景の天下統一記~  作者: 遊鷹
越中一向一揆編
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第二十九話「不吉な予感と良い予感」

天文4年(1535年)9月21日

 宇佐美定満と元揚北組が一向宗との戦闘を開始して3日後、長尾晴景が率いる別働隊は七尾城へ到着する。

 懸念していた山道を通る別働隊の姿も無く、晴景達はかなり早く目標の地に辿り着く事が出来たのだ。

 一方の七尾城を守る畠山義総は彼らの援軍に心から感謝し、自ら晴景達を出迎えていた。





-長尾晴景-

「よくいらっしゃいました! 長尾家の援軍嬉しく思いますよ!」


 先触れを出していた事もあり、俺達は城内に入って早々に義総殿らに歓迎される。

 俺は長尾家の嫡男として、挨拶する。


「長尾為景が長子、長尾晴景にございます」

「畠山義総です。越後からこれほど早く来られるとは……」


 義総殿は俺の手をとり、若干涙ぐんでいる様子にも見える。


 だが越後から全軍で来てると思われても困るので、俺は軍について先に話すことにした。


「もっともすぐに動けたのは私の直属だけで1,500ほどです。まぁ今は越中の兵も合わせて2,000ほど率いていますが」

「それでもありがたいです。これで篭城して持ちこたえる事が出来そうです」


 義総殿は篭城を前提として考えているようだ。


 だが、俺達には叔父さんの策がある。

 俺達が一向宗を攻めないと、いずれ叔父さんの軍が危険になるだろう。


「義総殿、その事ですが……」


 俺は義総殿に叔父さんの考えた策を説明する。

 恐らくすでに一向宗との戦闘が始まっていることも含めて。


 話を聞く義総殿の様子は、俺の予想とは違うものであった。


「なるほど、打って出る策ですか。宇佐美殿がすでに後背を突いているのでしたら勝算は高いですね。ですが……」

「何かご不安がありますか?」


 俺の伝えた策に対して、義総殿は険しい表情をしている。

 俺からすれば当てもない篭城を続けるより、勝ち目が高い決戦に出る方が良いと思うのだが。


 そんな疑問を察したのか、義総殿は話す。


「残念ながら私の臣下達は越後のように結束していない。どうにも嫌な予感がするのです」

「……義続殿を逃がしたのも、それ故ですか」


 嫡男である義続殿を逃がし、家臣が結束していないと言う言葉。

 恐らく義総殿が警戒してるのは…… 謀反!?


「えぇ、一向宗と組んで私を亡き者にし、その後で義続を傀儡にして能登の実権を握る。十分にあり得ると思いませんか?」


 あり得る。

 非常にありえるぞ、それは!


 俺が転生する前の知識も、すでにおぼろげな部分も多いとは言え、畠山七人衆の事は憶えている。(越後に近い国の事だけに憶えていた)


 能登畠山氏の重臣七人。

 彼らは未来で主君畠山義続の実権を取り上げ、七人の合議で政をしていたのだ。


 俺の浮かない顔に、義総殿は納得していると思ったのか言葉を続ける。


「だから私はまだ信用できる三宅に義続を託して、密かに脱出させました。他の重臣達に知らせずにです」


 三宅総広は後に畠山七人衆として、義続殿から権力を奪う者の一人であるが、義総殿が健在な内は忠臣であったのだろう。

 まぁ三宅からすれば、命を落とす危険が減ってラッキーって思ってるかも知れないが、内心どうかなんて解らない。


「七尾城に入っているのは、私が信頼出来るものたちだけです。他の者には一向宗が包囲に疲れた時を狙って、背後を攻めて貰う様に言ってあります」


 これは良い策だ。

 堅城として名高い七尾城で大軍を凌ぎ、援軍との挟み撃ちにする。


 ただし、家臣達がその通りに動いてくれればの話だが。


「ふふ、おかしいでしょう? これが長尾家であるならば必勝の策と成り得るでしょうが、私からすれば身中の虫を払っただけなのですよ」

「義総殿……」


 そう言う義総殿の瞳は、寂しげな光に満ちていた。


 畠山家、足利氏の支流であり源氏の血を引く名門中の名門の一つ。

 分家とは言え能登守護として能登と間接的に越中の支配を任されるが、そんな彼に対しても乱世はけっして優しくない。

 彼の権力・領土を奪おうとする奴らはたくさんいるのだろう。家臣であったり一向宗であったり……


「しかし私の家臣が助けに来ずとも、かつて共に戦った戦友が助けに来てくれているのなら、私が動かない訳にはいかないでしょう」

「そうですね、家臣の方々が援軍に来る可能性もあるのですから」


 俺のその言葉に、義総殿は静かに首を横に振る。


「まぁ連中が、はなから私を討つ為に動いている様な恥知らずであれば一向宗との挟み撃ちになるでしょう。しかしこのまま私が動かねば宇佐美殿の軍が壊滅する恐れもあります。」


 義総殿の表情は険しい。

 恐らく義総殿の予想では、誰かが間違いなく謀反を起こすのだろう。


「ですから一向宗の正面には私の部隊だけで当たるとしましょう。晴景殿は急ぎ戻り、宇佐美殿を助けて頂きたい」


 ヤバイ、この人まだ死ぬ気だ。

 まぁ状況を考えれば、まだまだ危険な状況である事は間違えないが……


 しかし、万が一にも作戦を失敗したら、越中は能登と加賀の二国の一向宗から狙われる事になりかねない。

 そしてその次は越後だ。


 何とかして万全の体制で一向宗を討たねばならないが、何か良い手は無いか?



 う~ん、まずは情報を集めないと何とも言えないか。


「義総殿、裏切るとすれば家中の中で誰だと思いますか?」

「……おそらく温井総貞。野心を隠そうともしない男ですが、能力がある為に私が重用せざるを得なかった男です」


 温井総貞、義総殿の死後に義続殿から実権を取り上げた、畠山七人衆の筆頭とも言える人物だな。

 俺はそんな未来を知っているだけに、隙有らば義総殿を討たんとしてもおかしく無いと思う。


「それと直接的な私の家臣ではないですが、私と為景殿が討った神保慶宗の子の神保長職。今の所、私が越中を任せている神保慶明の下で大人しくしていますが、父親と同様に一向宗に付いてもおかしくないでしょう」


 神保長職か。史実でも父の死後、失った権力を取り戻す所かそれ以上にしている男だけに、無能ではなく危険な男だ。

 それにしても親父殿は長職の親を仇として討ち、長職は今度は親の仇として俺らを狙う。

 負の連鎖ってやつだな。


 だがふと、俺の中で疑問がよぎる。

 叔父さんがそんな奴らの事も勘定に入れずに策をたてるか?


「段蔵!」

「はっ、これに」


 俺は段蔵を呼ぶ。

 段蔵は少し後で控えていたが、義総殿たちには急に現れたように見えたのか驚いている。


 時間も貴重なため、俺は段蔵に率直に質問する。


「軒猿は叔父さんから何か指令を受けていないか?」

「はっ、実は私も越中を担当する者から、先ほど聞きました。内容は……」



 段蔵の言葉に周囲の者は皆一様に驚いている。

 もちろん俺もだ。


 流石は叔父さんだな。

 恐らく一つの戦場においての戦術レベルでは越後で上杉謙信に勝てる者は越後に居ないだろうが、戦略レベルでは宇佐美定満が群を抜いていると俺は思う。

 現に上杉家は史実で宇佐美定満の死後、領地(臣従する大名)の多くを失い迷走とも言える動きをしている。俺はこれが偶然とは思えない。

 それが解消した様に見えるのは、あの直江兼続が台頭してくる時期で、実に10年以上の歳月を要する。



 それだけにこの戦で叔父さんを失うわけにはいかない。

 ……いや、そう言った利害を抜きにしても俺は叔父さんに死んで欲しくない!


 だからこそ俺は畠山殿に決断を迫る。


「義総殿、これなら賭けもこちらに若干分があると思いませんか?」


 畠山義総殿は凡庸でない。

 そしてすでに己の命を捨てる覚悟をしていた以上は、今さら怖気づく事も無い。


「ふふふ……良いでしょう。それならばまず叩くべきは一向宗ですね。そこのあなた、全軍に出陣の用意を指示して下さい」

「はっ!!」





-???-

 やはり動いたか宇佐美定満。

 だが宇佐美は新川郡の椎名を動かして無い以上、恐らく我らを警戒してのことか。


 しかしそれなら一向宗と共闘して、お前等を討ってしまえば良い。


 それに能登にも協力者はいる。


 さて、まずはどちらから討つべきか?


 ……やはり能登だな。

 俺の手の者はそれほど多くないし、温井らと兵を合流すべきであろう。


 くくく、そして最終的には長尾為景、お前も討って俺は越中・越後を支配してやる。





―戦の裏で暗躍する者。

 その思い描く未来は、自分にとって都合の良いものである。

 だが現実を見ていない未来を、人は妄想と呼ぶ。

 果たして彼の未来は幸福な道へ繋がっているのか? それとも……

 久しぶりに主人公が目立ってるよ!(爆)


 さて、裏で何かやりそうな人が出てきましたけど誰かな~?(バレバレ)

 晴景君達も、もうすぐ戦に突入します。

 次回はすっかりギャグキャラが板についた彼の活躍があるかな?

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