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妹は軍神 ~長尾晴景の天下統一記~  作者: 遊鷹
越中一向一揆編
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第二十八話「元揚北組の奮闘」

天文4年(1535年)9月

 勝興寺に集まっていた一向宗門徒約20,000は動き出した。目標はやはり能登の七尾城であり、一団は氷見の沿岸を進軍していた。

 だがその進軍は非常に遅く、それは門徒の数に対して指導者の数が圧倒的に不足している一向一揆では、良く見られた光景である。

 一団の指導者の中で最も高い地位に居る勝興寺住持・実玄にとっても、それは同じ事であった。



 だが、その認識こそがすでに油断であった。





-勝興寺実玄-

 本願寺が滅亡したとの噂が、拙僧の耳に入って来たのが六月。

 あれより三月が経つが、証如の小僧の行方は知れない。

 恐らく生きているとしたら、長島あたりにでも匿われているのであろう。


 先年、本願寺と加賀の連中が揉めた時は、本願寺に付いたおかげで我々の越中には本願寺の代官は来ていない。

 一方の加賀では派遣された坊官達が証如の不在で混乱しており、まともに動けていないと聞く。



 これは思っても見ない好機が来たものだ。


 我々は越中の一向宗は、勢力を拡大する為に能登への進軍を決める。

 中には長尾家の支配する越中の東側を攻める様に言う者も居た。(大体が長尾家によって追い出された元越中・越後の者達)

 だが長尾為景は一向宗に対して一切の容赦はせず、家臣の団結力も高い。

 今攻めるのは時期尚早である事も解らないとは、所詮は簡単に追い出されるほどの器量しか無い奴らだ。



 だが俺はそんな奴らとは違う。

 先年の本願寺と加賀の争いでも、俺は実の弟を見捨てて本願寺に付いた。

 俺の見立ては正解で戦は本願寺が勝ち、弟・顕誓は実権を失ったと聞く。


 この世の中、自分の感覚が頼りであり、感覚が鈍い奴は勝手に沈んでいく。


 長尾家を今攻めれば越中を取れはするだろうが、越後から援軍が来れば今のままでは蹴散らされるだけだ。

 能登を取り、力を付ける。これが今一番良い道なのだ。


 力があれば証如が復帰しようと言う事を聞かんで済む。

 力があれば飯に困る事も無く、良い暮らしが出来る。


 だから奪おう、力が無い奴から。



 『わぁぁぁぁぁぁ』



 ……後ろがやけに騒がしいな。

 門徒が喧嘩でもしているのか?


 これだから頭の悪い奴らはダメだ。


「おい、ちょっと後ろへ行って騒ぎを鎮めて来い」

「わかりました」


 俺は近くの者に指示をし、前進を続けた。




 結局その者が戻ってくる事は無く、俺は別の者から襲撃を受けている事を知る。


 何故今襲撃を受けるか、どこの軍が襲撃してきたのか訳がわからず、俺は取り乱してしまうのだった。





-宇佐美定満-

「色部と本庄は私の言う事を守ってくれているようですね。」

「はっ、僧を優先して狙う事。それと首は取らないこと、確実に絶命させることの三点ですね。」


 私は新発田綱貞殿と共に戦況を確認する。

 この子は晴景殿と同世代であり、以前晴景殿に言い負かされた事によって凡庸で無い事を知り、上条の乱では親に反対して出陣しなかったそうだ。


 越中に来て以来面倒を見ているのですが、越中に来た残り二家の色部勝長・本庄房長と比べても若く、子供みたいなものです。


「しかし、何故その様な命令をだされたんすか?」


 綱貞殿は命令について理解してなかった様子。

 おそらく残りの二人が理解してさっさと行ってしまったので聞くに聞けなかったのでしょう。


 私はしょうがないので説明をする。


「僧を優先して狙うと言うのは、集団の頭を狙う事です。われらの軍で言う所の足軽大将か侍大将にあたるのが僧ですから、討たれれば門徒達も動揺するでしょうし、逃げ出す者もいるでしょう」

「なるほど」


 そう言うと納得したのか、大きくうなずいた。

 まぁこれは一番解りやすいですからね。


「それと首を取らないと言うのは晴景殿の案ですが、首を取る時と言うのはかがんで死体に意識が集中します。あなたはそんな所を襲われて無事で居られますか?それに取った首を持ち歩くのも邪魔になる」

「言われてみればそうっすね」


 武士にとって首を取ると言う事は、己の武功を示す事。

 だがその一方で戦場において首を取るという事は、それだけの危険が潜んでいるという事です。


 固定観念があっては、この綱貞殿みたいに気づかない事でしょう。


「そして確実に絶命させる事は…… まぁ前線に行けば解ります」

「えぇ~、ここまで来て教えてくれないんすか?」


 えぇ、一向宗と戦えば嫌でも解りますからね。

 『死ねば極楽浄土へ行ける』と考えている連中のしつこさ・執念と言うものが。



 それにしても、こうして見比べると晴景殿達との差がどうしても見えてしまう。


 この子は戦働きで活躍する為に、ひたすら武芸を磨いてきたのでしょう。

 確かにこの子の普段の訓練を見ていれば、槍働きには期待できる。


 しかしそれはあくまで兵としての働き。

 将には将としての働きがあります。


 晴景殿達、父上に軍学を学んだ子達は将として何をすべきかが理解できている。

 あの柿崎景家殿でさえだ。


 ……この歳になって父上の本当の偉大さを実感できるとは思っていなかったです。


 この子は後で私が軍学を叩き込むとしましょうか?

 ですが、今は勝つことが優先ですね。


「さて、あなたは交代ですよ。本庄殿を徐々に下がらせるので、突出してきた門徒を横から弓で撃ちなさい。その後は色部殿と連携して囲んで叩くように」

「わかりました!行ってくるっす!!」





-色部勝長-

 もう何人を斬って刺して殺したかわからん。

 俺の槍は血糊でその切れ味を落としている。後ろへ下がった時に交換するとしよう。


 一向一揆の門徒達は、けっして兵としては強くない。

 だがその全てが死兵みたいなものだ。


 死を恐れずにひたすら前進してくる兵が、これほど相手にするのが面倒だとは思っていなかった。


 ……だが我ら元揚北組は引くわけにはいかん。


 この越中において我らは外様中の外様。

 父達が為景殿に反乱して自刃した事は皆に知れており、白い眼で我らを見る者も少なくない。


 それでも、我らは必死でやってきた。

 本来なら取り潰されてもおかしくない我らを、為景殿は『父親は父親、お前らはお前等だ。流石に何も無しって訳にはいかねぇが、長尾家に反抗しないなら俺は気にしねぇ』と言って転封に留めてくれた。

 それに宇佐美殿は我らに期待してくれている。そうで無ければこの重要な戦で一軍を任されると言う事も無いだろう。


 武士として、何より人として期待されれば答えたくなるものよ。


 だから引けん、これは我らの意地であり恩返しである。


「勝長様、次の一波が来ます」


 前方を見れば、遠くより門徒宗が近づいている姿が見える。

 刀や農具を手にひたすら『南無阿弥陀仏』と唱える姿は、さながら幽鬼のようだ。


「本庄は下がれたか?」

「はい、今は新発田殿が代わって戦線に入っております」


 遠くを見れば新発田が訳のわからない物を見ているような顔をしている。

 まぁ新発田はほとんど初陣の様なもの、あの光景に気負わされてもおかしく無い。


 ……と思っていたが、不意に眼が鋭くなり自分の軍に指示を出している。

 新発田軍は一斉に弓を構える。


 おっといかん、我らも合わせて撃った方が良かろう。


「色部隊!弓構えぇ!!」

「「「「はっ!」」」」


 指示に従い一斉に弓を向ける。

 更に新発田軍が打ち出すのに合わせる様、機をうかがう。


 ……今だな。


「よし撃てば当たるぞ!撃って撃って撃ちまくれ! 次に俺達が下がるんだから矢を残しとく必要はないぞ!!」

「「「「おー!!」」」」





―宇佐美定満の読み通り、狭い道で一向宗はその大兵力を活かせずに戦いを進めていた。

 元揚北組の軍は弓矢による遠距離での攻撃を多用する事や、定満の決めた3ヶ条を徹底したおかげもあり、軽症者はそれなりに居たが重傷者や死者の数は未だ数えるほどであった。

 もちろんこれは後ろへ下がった際に治療をし、休憩をとっている事も大きかった。


 だが、このまま戦いが続けば被害が増えてくる事は確実であり、無限に居るのかと思うような一向宗の数に押される事は明らかである。

 晴景達の一刻も早い七尾城への到着、それが定満達が勝つための条件であった。

揚北から彼等を転封させたのもすべてはこの日のため!(爆)

いやぁ~これから先に多方面で戦がある可能性を考えると、少し武将を移動させておきたかったのです。

色部はともかく、本庄と新発田は本来なら後で反乱する組なんで、長尾家への忠誠のための飴と鞭が必要かと思いまして。

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