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第二十五話「鉄砲鍛冶村と吉事」

天文元年(1532年)8月

 夏真っ盛りの越後の一角で、晴景は鉄砲鍛冶村の立ち上げを行っていた。

 場所は三条の信濃川の近くに決め、現在は施設の準備を行っていた。

 だが順調であったのはここまでであり、目の前にはひとつの問題があった。

 それは鉄砲を作る職人がいないと言う問題であった。





-長尾晴景-

 まいった。

 越後の鍛冶職人に声を掛けて回るが、中々良い返事は貰えない。


 職人にも生活があるから、売れると解っている刀や農具などの製作を止めてまで、鉄砲の製作をやろうって職人は少ない。

 最初の内は長尾家で援助するし、完成すれば高値買い取ると言っているのだが……。

 何せいつ完成するのか解らないし、一つ作るのにどれくらいの時間がかかるのかも解らない未知のものであるため、現状に納得している者からすれば冒険するのが嫌なのだろう。


 何とか若手を中心に、参加しても良いと言う人材はいるが……。

これから先、大量に製造する事を考えたら、職人はいくら居ても困らない。


 ん~、困ったなぁ・・・





 よし、悩んでてもしょうがないし気分転換に行こう。



 俺は頭を切り替える為に、弟・妹達の所に遊びに行く。


「あれ、晴だ。暇なの?」

「にいちゃ!あそぼ!」

「全然、暇じゃないよ。でも虎千代とは遊んでくぞ~」


 俺は虎千代の腕を掴んでグルグル回る“ヘリコプター”をやると、キャッキャと喜んでいる。

 於虎もやって欲しそうに見てるが、それは親父にでもやってもらえと言いたい。


 そうやって虎千代と遊んでいるが、俺の顔が晴れないのを見て、於虎が声をかけてくる。


「なになに? 今度は何で困ってるの? そう言う時は大人に相談してみなさい!」


 そう言って胸を逸らす尾虎。逸らしすぎて、顔がよく見えていない。

 この仕草だけでも大人と言っていいか悩むところだが、物は試しに話してみる。


 そして俺が職人が集まらなくて困っている事を話すと、於虎はいとも間単に言った。


「何だ、人手が足りなきゃ、新しい人を入れれば良いんじゃない」


 職人は技術職だから、そんな簡単には……



 待てよ、どうせ鉄砲に関しては皆素人みたいなものなのだから、それでも良いのか?

 どうせ一からやって行くわけだし、最初は元々職人の人がたたら等を一緒にやりながら指導して、ある程度の製鉄が出来ればそっちは任せて元職人が開発に専念するとかでも良い。

 もしくは職人のサポートだけでも良いな。生活の部分をサポートすれば、職人たちはそれだけ働ける。


 後はその人手をどこから持ってくるかだけだな。


 農民は減らす事が出来ないな。

 余っている3男・4男はどこにでも居るだろうが、これから干拓で農地を増やそうってのに、そこから持ってったら景綱に殺されちまう。


 屯田兵の様に他から連れてくるか?

 いや、今の越中方面はきな臭い感じだし、出羽や関東なんかから連れてくるにしても、万が一ばれた時に運が悪ければ越中との二面作戦になりかねない。


 なら越後国内で余っている人手を使うしかないが……



「悪いな、虎千代。兄は用事を思い出した」

「えぇ~、もっと遊んで~」

「こら、晴を困らせないの!」


 まさか於虎の言う事からヒントを貰うとは思わなかった。

 虎千代と遊べないのは残念だが、良い案が思いついたから早く実行したい。


 ……用事が終わったら戻ってこよう。



・・・・・


「段蔵、居るか?」

「こちらに」


 俺は軒猿達が使っている部屋を訪れる。


「俺が作ってる鍛冶村で働くための人手を集めたい。越後中から、次に言う条件のどれかに該当する人を集めたい」

「どの様な人でしょうか?」


 もちろん用事は人集めだ。

 少し変わった条件で集めるので、軒猿に任せた方が良いと思い、頼む事にした。


「1つ目は戦などで傷を負って戦働きが出来ない武士や農民、2つ目は戦で夫を無くした女性、3つ目は前2つの家族の子か孤児だ」

「御意に。しかしそれらの人をどの様に使うので?」


 段蔵が聞いてくるので、俺は1つずつ説明する。


「1つ目はそのまま鍛冶の仕事をやって貰おうと思う。まぁ傷の度合いとか適正もあるから、小間使いでも何でもやれる事を探してもらう」


 これはまぁ働けなくなった人の再雇用も兼ねている。

 戦を起こすのは俺達の都合であり、その犠牲になった人への救済でもある。


 職があれば山賊とかになるのも防げるだろう。


「2つ目の女性は食事や洗濯などの援助だ。傷を負っている人や子供だけだと、そう言う事は難しいからな。」


 戦傷者の中には片腕や片足の人も居るかもしれない。

 そう言う人にも働いて貰う為にも、サポートする人が必要だ。


 職人達にとっても、作業に集中する為にも良い事である。


「3つ目は小さい頃から技術の習得をして欲しいからだ。始めるのが早いほど腕が上がるって言うだろ?」


 これは単純に未来の職人を育てるためだ。


 技術を伝える先が無ければ必ず廃れる。

 だから早い内から、新たな技術者を育てるに越した事は無い。


「なるほど、納得しました。……1つお願いがあるのですが」

「言ってみろ」


 段蔵は少し申し訳なさそうに話し出す。

 普段は願い事など言わない奴だから、こんな切り出し方をするのは重要な事だろう。


「軒猿の里なのですが、全国に人を放ってる事もありまして、人手が少々減っておりまして……。将来的に領地が増えたり情報網を増やす事を考えたら、我らの方にも新しく育てるための援助をして頂きたいのですが……」


 それを聞いて驚いたが、確かに軒猿とて無尽蔵に人が居るわけじゃない。

(むしろ高度な技術を持つ分少ない)

 そして博多などの遠方にまで人を送ってるのは俺だ。


「そう言う事は早く言え! 人手が足りないのは俺の責任でもあるんだから」


 俺はそう言うが、まぁ段蔵の性格上言うわけがないと思った。

 だからこれは気づいてやれなかった俺の責任だな。


 軒猿の技は貴重だ。今後を考えれば、むしろ良い話でしかない。


「わかった。軒猿の里の方でも孤児を集めて育ててくれ。育てるにあたっての銭も援助する」

「ありがたき幸せ。では早速集めて参ります」





―こうして、長尾家の主導で鉄砲の製造が開始される事になる。

 だがその完成までには、まだ多くの時間がかかる事になるのであった。

 そして戦傷者や未亡人、孤児を雇い入れる事は、それまで家計に苦しんでいた人達の多くを助けると共に、治安の上昇にも役に立つのであった。




 そして長尾家にもう1つの出来事が起こる。





-長尾夕子-

 私は一刻も早く晴景様に伝えたくて探します。


 そしてお部屋にいらっしゃる晴景様を見つけました。


「晴景様!」

「なんだい夕子? そんなに慌てて」


 晴景様は手を止めて私の方を見ます。

 私は喜んで頂けるかちょっとだけ不安ですが、勇気をもって話します。


「あの……授かりました」

「え? ……授かったってまさか」


 晴景様が聞き返してきます。

 もちろん出来たと言えば一つしかありません。


「はい、子供が出来たようです」

「やったぁ!」

「ひゃっ!」


 凄く喜んだ晴景様は、私を抱き上げてグルグル回ります。


 こんなに喜んで貰えるなんて、嬉しいです。


「そうか、俺にも子が出来るのか」


 晴景様はとても穏やかな顔をされています。

 良かった……。本当に良かった。


 ところで、晴景様と一緒に居た景家様が固まってます。


「子供って、道兄ぃと夕姉ぇの?」


 景家様はまだ良く解っていないのか、私達に確認してきました。


「おう」「そうですよ」


 私と晴景様が肯定すると、景家様は目を見開いて驚いたが、すぐに笑顔に変わる。

 そして部屋の外へ向かって、凄い速さで走り出しました。


「道兄ぃに子供が出来たんだぞ~!!!」


 景家様は走り出したと思ったら、そんな事を叫びだしました。


 少し恥ずかしいです。


「……あの様子じゃ、一刻も経てば春日山中に知られるな」


 クスクス


「えぇ、そうですね」


 ハハハハッ


 そう言って私と晴景様は笑いあいました。


 本当にここは毎日が楽しいし、ご飯も美味しいし、晴景様もその……とても優しいし。

 本当に越後に来て良かったですわ。





―祝いのムード一色である長尾家中であったが、争いの足音もまた近づいている。

 時は享禄から天文へと変わっており、長尾家を巻き込む大きな動乱は徐々に迫っていた。

この話で国力増強編は終了です。

やや駆け足で進みましたが、旅の寄り道とかは入れすぎても惰性になるだけなので、すっぱりカットしました。


明日からは新章です。次の章は戦中心になると思います。

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