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第二十二話「西国の巨人」

享禄5年(1532年)3月

 新年を京で迎えた一行は、初春の訪れを待ち、次なる目的地である博多へと旅立つ。

 晴景はこの後の行程が厳しい事もあり、当初の予定通り妻の夕子は京の実家に残していく事にした。


 晴景たち一行は瀬戸内海を船で進むが、途中の安芸で季節はずれの雪に遭い、一時足止めをくっていた。





-長尾晴景-

 思わぬ雪で足止めを喰らってるが、まぁある程度はしょうがない所だ。

 無理に進んで犠牲が出ても困るし、たまには休む事も必要って思う事にしよう。


「みんな、今日は一日休みにするから好きにしていいぞ」

「道にぃ、本当か? 遊び行って良いか!」


 俺の言葉に真っ先に反応したのは景家だ。

 まぁ若いから遊びたくなる気持ちもわかる。


「景家殿、殿の護衛なのだからあまり離れるのは……」

「あぁ~、良いよ段蔵。誰も護衛が付いていないってのは不味いかもしれないけど、交代で誰かは見てるんだろ?」


 段蔵が言うことも正しいが、四六時中俺の傍に張り付かれてもお互いに嫌だろう。

 それにこの街中なら、山賊とかもでないだろうしな。


「御意に。しかし晴景様も、あまり危ない真似をされては困りますぞ」


 俺は段蔵に了解と手を振る。


 さて、景家は外へ飛び出して行ったけど、どこかで一杯やってるか?

 それとも景家も女遊びでもおぼえたか?

 少し気になるけど、まぁ良いだろう。


 そんな事を考えながら俺も気分転換の為に散歩に出てみる事にした。

 雪は大分止んで来ているので、たまにはそんな中での散歩も良いもんだ。


 俺が表へ出てみると、景家は知らない子供達と雪合戦をして遊んでいた。



 遊ぶってそのまんまかい!!



 俺はとりあえず、景家がうっかり本気を出して子供を泣かせないかを見守る事にした。

 すると不意に声を掛けられる。


「うちの子と遊んでくれてるのは、お兄さんの連れかな?どうもすみません。」

「あぁかえってすみません。ご丁寧に」


 声を掛けてきたのは商人のような格好をしてる男性。

 丸腰のようだが、不意に声を掛けられたため俺は少しだけ警戒する。


「何だか落ちつかない感じだけど、この町は始めてかい?」


 男は警戒を緊張と取ったのか、話題を変えてくる。


「えぇ、雪で足止めをくらって滞在する事になったんで」

「奇遇だねぇ。俺も雪で帰れなくて困ってたんだよ、ハハハ」


 男はそう言って頭をかく。

 こっちが警戒してるのが馬鹿馬鹿しいくらい自然体だ。


 そして雪合戦をしてる一人の子に向けて声をかける。


「太郎~、怪我しないようにな~!」

「は~い、父上!」


 男は優しい眼で子の姿を追っていた。



 うん、これがこの人の策だとしても、子供にこんな眼をする以上は悪い人じゃ無さそうだ。

 軒猿が近くに居るのも確認してるし、少しこの人と話してみるのもいいだろう。


「あなたは近くに住んでいるんですか?」

「えぇ、普段は吉田郡山って所に住んでますよ」


 おぉ、吉田郡山か。

 吉田郡山の大名と言えば、かの有名な毛利元就だ。

 ひょっとしてこの辺りも彼の領地かと思い、尋ねてみた。


「この辺りは初めてなんですけど、誰の領地になるんですか?」

「今は大内様の領地だね。もっとも尼子と何度も取り合いになってる場所だけどね」


 そうか、”西国の巨人”大内の領土か。時期的に元就は大内に臣従してる筈だしな。

 まだ元就が勢力を広げるには早いし、彼の領地はまだ吉田郡山の周辺ぐらいか。

 会ってみたい気はするけど、寄り道をするほど身軽でもないし、今回は縁が無いようだな。


「まぁ大内様は六ヶ国の守護だからね。その人に守って貰えるってのは良いことだよ」

「本当にそうでしょうか?」


 その言葉に対して、俺はつい言葉を挟んでしまった。

 男は少し驚いたようにこちらを見る。


「どうしてそう思うんだい?」


 男は当然聞き返してくる。

 俺は自分の考えを少し話す。


「大内家の力は確かに強いですけど、周りに敵が多すぎます。北九州の大友・少弐、中国の尼子、それに“管領“細川」


 そう、大内家は敵が多すぎる。


 北九州は沿岸を支配し、貿易による利益のために今まさに攻めている。

 尼子とは主に石見の銀山を巡り、この後何度も戦を行う。

 そして細川とは前将軍足利義稙を大内が上洛させた際に争っている。


「これじゃ他人の領土と接する土地は、どこもいつ攻められてもおかしくないってことですよね? 現にここも尼子と良く入れ替わるって言ってましたし、北九州で戦をしてる今なんて狙い目でしょうね」


 元はと言えば大内が細川と争ってる隙に、尼子の勢力が拡大したのだ。

 そう言う事情もあり、この二家はとことん仲が悪い。


 だからこそ、まず尼子との決着を優先させればいいのに、北九州に行っちゃってるからなぁ~……


「そうだね。この辺りは国人達にほとんど任せているようだしね。よく言えば防波堤、悪く言えば使い捨てだね」


 中国地方でもこの安芸の辺りは国人の力が強いのだろう。

 あの毛利元就も大内と尼子の間を行ったり来たりしながら力を蓄えたが、それが出来たのも国人勢力が強い安芸だったからかもしれない。


「それに大内と言えど、あまりに事を急くと足元をすくわれる可能性もありますしね」


 俺は更に問題点をあげる。


 大内家では文治派と武断派の仲が悪い。

 簡単に言えば文治派は政治の人、武断派は戦う人だ。

 戦が続けば武断派の力が強くなるし、戦が無くなれば文治派の力が強くなる。


「足元って言うと内部の対立って事かい? でも当主がしっかりしてれば大丈夫なんじゃないかな?」

「えぇ、当主がしっかりしていればそうです。しかし世の中には自分の力を高める為には相手を陥れる事も何でも無いと言う人間も多い。仮に戦に負けた後に『あいつがダメだから負けた』って言われたら、責任から逃れる為にも本当の事だと思っちゃいませんか?」


 お互いに相手の弱みを突き始めること。

 派閥の対立で一番不味いのがこれだ。

 

 足の引っ張り合いがエスカレートしていくと、文治派が武断派の力を弱めるために戦の負けを願うようになりかねない。


「いくら対立したからって、戦に負けちまったらダメじゃない? 連帯責任にもなり得るし」


 戦の負けが家の滅亡ともなり得るため、普通はおこらないことだ。

 だが、大内家の様に六カ国もの領土を持つ場合は別である。


「最初からその戦に反対してましたって体で、極力戦闘に参加せず自分の戦力が温存できてればどうですか? 戦の後は戦力が減った相手より発言権が増しますよ?」


 俺の言葉に、男は難しい顔をして考えている。


 この様に相手の戦力を削り自分の戦力を温存すれば、仮に一国が落とされたとして、温存した戦力で取り返せば良いと思う輩が出てくるのだ。

 だから平気で負けを願い、最悪足を引っ張る事になる。


 これは勿論家中が一致団結していれば起こらないし、当主がしっかりしてれば許されない事だろう。

 だが……


「それに大内の当主は若い、重臣たちの意見と自分の意見、どれくらいの比率で通ってますかね?」

「……重臣の意見を優先してるってことか」

「えぇ、そう言うことです。」


 父親の急死で、22歳で家督を継いだ大内義隆は重臣・陶興房の補佐もあり、現在の所は上手くやっている。

 だが陶興房や、興房が亡くなった後に義隆の信頼を集める息子の晴賢は武断派であり、文治派としては面白く無かっただろう。


 大内家の衰退の原因と言われる月山冨田の戦いで、文治派は反対したと言う。

 そして戦に大敗した武断派の発言権は減り、文治派が幅を利かすようになる。


 大内義隆はこの戦で野心を無くしたとも言うが、俺は義隆この時に初めて自分の意見を言えたのじゃないかとも思う。

 つまりはまずは自分の足元、領国の発展を優先させると言う事をだ。


 義隆のこの方針転換は、独自の文化を発展させると共に、龍造寺と同盟をするなど敵を減らしてもいる。

 政治的に言えば、これは間違っていない。


 だが面白くないのは武断派であり、それが陶晴賢の謀反へと繋がるわけだ。


「外からは強そうに見えても、内側は案外もろいものですよ。大内家だからと安心していたら、ここもまたいずれどこかに攻められるでしょうね」


 そんだけ不安が大きい大内家だから、領土の境目に近いこの辺りは領主が変わるんだろうなぁ。

 尼子も頑張ってるんだろうけど、あそこも内部は新宮党だのでゴタゴタするしなぁ。経久・晴久なんかの党首がしっかりしてたから上手くいってただけで、義久の代になって問題が出たんだろうしね。


 結局一番は毛利の兄弟の団結力があったからこそ、この二家を倒して中国の覇者となったのだろう。


「さっき国人は使い捨てって言ってましたよね? 案外そう言う人たちが一致団結して、この土地を取るかもしれませんね」

「はっはっは、確かにそうだね! でも今さらだけど、あんまりこんな話はしない方が良いね、一応ここも大内様の領地だからね」

「ハハハ、そう言えばそうでした」


 いけない、どうやら話しすぎたようだ。

 どうもこの人が聞き上手ななのか、色々と話してしまったな。


 まぁ何でそんな事を知ってるのか?って事は話してないし良いよな。


「道兄ぃ! 勝ったぞ!」

「ちゃんと泣かせないように気をつけたか?」

「大丈夫! ちゃんと手加減したぞ!」


 そうこうしてると景家が戻ってきた。


「父上、たくさん遊んで貰いました!」

「あぁ、良かったな、太郎よ」


 男は息子の頭を撫でる。

 そして息子の手をとると俺達の方を向きなおす。


「それじゃ俺たちは失礼するよ。雪も上がったみたいだから帰る準備をしないとね」

「お兄さん! ありがとうございました!」


 親子揃って俺達に挨拶をする。


 それにしても今気がついたが、礼儀がしっかりしてる子だ。

 こりゃ商人みたいな格好だけど、この人も武士かもしれないな。


 大内様と言ってる時の目が笑ってない辺りからして、尼子か周辺の国人に連なる武士かな?

 まぁ今の俺らには、直接の関係は無いか。


「こちらこそありがとうございました。帰り道はお気をつけてください」

「お互いにね。また会えた時はよろしく頼むよ!」


 そう言って男とその息子は去っていった。

 お互いに名前も聞かない出会いだけど、この人は嫌いになれそうにないな。


 もしも会ったとしても、敵じゃなくて味方として会いたいものだ。






-???-

「おかえりなさい、あなた」

「あぁ悪いな、雪が降るとは思わなかったから帰りが遅れたよ」

「謝るよりも次郎に会ってくださいませ。あなたがいないからか、夜泣きしたのですよ」


 俺は雪があがるのを待ち、無事に屋敷まで帰っていた。

 早く帰れない事を最初はついてないと思っていたが、どうやら間違いだったようだ。


 帰り道でたまたま出会った若者の話は、非常に実があるものだった。

 大内と尼子に対抗する為に必死な俺には見えていなかったものも、外から見ればよく見えると言う事かな?

 義隆は確かに陶興房の言う通りに戦を起こしている節があり、大内の文治派の連中はさぞ面白くない事だろう。


 その辺りの隙をついて内部から引っ掻き回す。

 まぁ“言うは易し、行うは難し”だから、簡単な事じゃないけどな


 尼子はあの爺様が死ぬまでは隙を見せないだろうし、やはり大内の内部を煽ってみるのが良いかな。


 とは言っても、今のままじゃ大内とも尼子とも、まともに戦をしては勝てないからなぁ。

 せめて安芸を統一出来るくらいじゃないと話にならない。


 その為に邪魔なのは……吉川と小早川だな。

 取り込むか?それとも消すか?


「座頭衆を呼んでくれ」

「はっ」


 俺の命で小姓が走っていく。

 座頭衆が来るまでの間に、ふと昼間であった若者達の事を思い出す。


 それにしても才気溢れる若武者達と、影に控えてたアレは恐らくうちの座頭衆と同じ類だろう。

 うちで仕えてみないか声をかけたかったが、まぁ無理だろうな。


 恐らくは何処かの旗本か奉行って所か。大友か尼子あたりの大内に対する家への使者かな?

 あの若さで大役を任される人物となると、近隣の者で思いつく人物もいないし、遠方から来ていると思う。


 ふふっ、強大な大内や尼子の爺様より、あるいは強大な敵となって再会するかもな?

 もしも次に会えた時に驚かせる為には、やっぱもっと力が必要だな。

「元就様、これに」

「あぁ、良く来てくれたな。ちょっと頼みたい事があるんだが……」





 吉田郡山の城主・毛利元就。彼の家は未だ大名と呼ぶには小さな勢力であったが、その瞳は遥か先を見据えていた。

 元就はこの日、遥か遠くの地に住まう知恵者と出会う。

 互いに正体を気づかなかったこの出会いだが、元就にとっては大きな影響を与えていた。

 だが晴景がその結果を知るのは、まだまだ先の話であった。

知らない間に会っちゃったシリーズパート2です(爆)

今回は晴景君を使って大内家についての見解を出してみました。

大内家はこの後ものすごい勢いで衰退して行くので、このタイミングじゃないと触れる機会も無いので。


何せ西国まで勢力を伸ばす頃にはほぼ天下統一でしょうから絡む機会が・・・。

まぁ簡単には天下統一させませんけど。

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