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第二十一話「関白・公方・朝廷」

ちょっと年代的におかしな部分があったので修正しました。

内容はほぼ変わっていません。

享禄4年(1531年)10月

 収穫の時期である越後であるが、京へと向かう一団があった。

 それは長尾晴景とその妻夕子を中心に、京の案内役として神余実綱、晴景の護衛として柿崎景家を含めた数名。

 同じく護衛であり第二の目的地である博多への案内人となる、加藤段蔵を含めた軒猿衆。

 更には京へ運ぶ献上物とその護衛からなる一行であった。





-長尾夕子-

「虎千代、兄はちょっと出かけてくるぞ」

「にぃ? でる?」


 晴景様は虎千代ちゃんの手をとって、出発の挨拶をしている。

 こんな調子で弟妹全員に挨拶をしています。


 この弟妹は全員晴景様とは腹違いだと聞きましたが、晴景様はいつもとても可愛がっています。

 本当に仲が良い家族でうらやましいです。


 私の実家の近衛家は本妻とそれ以外で格差がある事もあり、兄弟と言っても特に仲が良かったわけじゃありませんし。

 特に本妻筋のお姉さま方は、少し気位が高すぎる所もあり私はあまり好きでは無いです。


「ほら! 虎吉も虎次も綾も夏も虎千代も、晴にいってらっしゃいするのよ。」

「「「「兄上、いってらっしゃいませ」」」」

「にぃ! ちゃい!」


 於虎様の号令で、皆がいっせいに挨拶をする。

 虎千代ちゃんは於虎様が手を掴んで一緒に振っている。


 それにしても虎千代ちゃんはとても可愛いです!

 他人(家族ではあるが)の赤子でもこんなに可愛いのですから、自分の赤子ならきっと……


 私はそんな思いから自然に言葉が出てしまう。


「晴景様、早く帰ってきましょうね」

「そうだね、夕子」


 私の言葉に晴景様は優しく言葉を返してくれました。


 でも、私が本当に言いたかったのはその先。


 晴景様、早く帰ってきて、私達の子が欲しいです。






―こうして一行は越後を離れて旅立つ。

 京までの道は特に問題なく進み、月が替わり11月も半ばを過ぎた頃、無事に京まで辿り着いていた。

 京に着いた晴景は、まず義理の父にあたる近衛稙家の元に、挨拶へ赴いた。





-近衛稙家-

 麿の元にわが妹を嫁がせた長尾晴景殿が訪れておる。


 為景殿とは何度か会った事があるが、武士らしく少々粗暴な感じがした。

 しかしその息子の晴景殿は、礼法は拙いながらも関白である麿を立ててくれようとする素振りが見受けられる。

 ほんにそこらの武士とは違う男よ。


「義兄殿に越後より土産も持ってきております。後でどうぞお確かめください。」

「これはこれは、家族に対してその様に気を使わんで良いのにのぅ」

「いえいえ家族ならばこそ、気を使うものでございます」


 麿と晴景殿は内心は別であろうが、一応義理の兄弟と言う建前の上で話をする。


 やはり“今孫武“の噂通りに実に聡い。

 夕子を嫁がせた判断は間違うておらんかったと、早くも感じておる。


「ところで晴景殿、昇殿されるとなれば礼法も必要となる。麿の家に教えられる者も居るので、しばらく習っていかれると良い」

「お気遣いありがとうございます。それではしばらくの間は通わせて頂きます。」


 だからこそ晴景殿を粗雑に扱って、近衛家との関係が切れては勿体無いものよ。

 この京に居る間に恥をかかさんように気をつけねばなるまい。



・・・・・


 その後、晴景殿は退席し夕子と二人になる。


「どうじゃ夕子? 越後はつらいかえ?」

「いえ、お兄様。むしろ晴景様のもとへ嫁がせて頂き感謝しかありません」


 ふむ、送り出した時は不安そうであったが、半年ほどで大分変わるものじゃ。


「ほほぅ、それほど晴景殿に良くして貰っておるのか?」

「いえ、それは……まぁありますけど、晴景様の土産を見て頂ければ解りますわ」


 夕子は頬を紅く染める。

 どうやら仲良くやっているようじゃ。よきかなよきかな。


 じゃがそれよりも夕子の言う事が気になり、晴景殿の土産が運び込まれている場所へ行くことにした。


 するとそこは……所狭しと並べられた土産の数々があった。


 わが家の一年分にもなろうという米俵、それに越後でとれたであろう魚介から作られた干物、置かれている壷を開ければ酒が入っており、箱を開ければ金銀や銭の山。

 ……これを軽く土産と称する長尾家の力は、やはり大したものよ。



 これで年が越せ……ゲフンゲフンッ。もとい穏やかに新年を迎えられるわい。


 よし、今晩はじっっっつに久しぶりに宴じゃな!





―この時代の公家は関白と言えども、けっして裕福では無かった。

 近衛稙家はこの時、いずれ息子に家督を譲ったら越後で世話になって余生を過ごそうかと、本気で考えていたと言う。

 ついでにまだ生まれていないが、息子の近衛前久もどうせなら海鮮物は新鮮な物を食べたいと考え、叔母に会うという名目でちょくちょく越後へ足を運ぶのであった。

 後の世において、この親子が“たかり関白”と呼ばれない事を切に願うものである。





-足利義晴-

 私の目の前に長尾晴景殿がいる

 晴景殿は私と2つしか変わらないと言うのに、先年は越後の不穏分子を一掃し、佐渡の争いの調停に入るなど、大きな武勲をあげている。


「それにしても晴景殿はその若さにして大きい武勲を得られてうらやましい。“今孫武”の名は京まで轟いておりますぞ」

「いえいえいえ、そんな大層な名で呼ばれるほどの事はしておりませぬ。すべては運が良かったのと、他の皆が頑張ってくれたからです」


 晴景殿はまるでその名で呼ばれるのが嫌かのように、必死で否定しておられる。


 なんとも奥ゆかしい男よ!


 自分の功を誇るでもなく、自分よりも周りの者を立てておる。

 こう言う男だからこそ、周りに優秀な者が集まるのであろう。

 そしてその優秀な者を使いこなせてこそ、先日の武勲があったのであろうな。


 それに引き換え私はどうだ?

 私に近づく者は私のことを将軍としか見ていない。

 細川しかり、三好しかり、六角もしかりだ。


 これでは将軍の権威を回復すると口でばかり言っても駄目なわけよ。

 やはりまずは自分の直臣に優秀で私を支えてくれる者を集めるのが重要だな。



 おぉ、そう言えば晴景殿は結婚されたんだったな。

 確か相手の家は……


「晴景殿は近衛家より正室を迎えられたそうで」

「いやぁ、お恥ずかしい。何とか仲良くやっていますよ」


 そう言って、少し照れた感じで頭をかく晴景殿。

 何と、晴景殿は奥と仲がよろしいのか!?


 何とも器の大きな男よ!


 あの気位ばかり高くて生家を鼻に掛け、将軍を将軍とも思わぬ態度で、しかし時折優しい所も見せる様な、私の奥と同じ近衛家の娘と仲が良いとは!?

 確かに不意に優しさが見えた時に胸が弾む事はあるが、9割がた不機嫌そうな顔で罵ってくるあの近衛家の娘と!?


 私は将軍家の権威を取り戻す為に必死で動いてきたが、奥のこと一つまともに扱えていないと言うのに、それに引き換え目の前のこの人は……


 私は心の底から尊敬できる人を始めてみつけたようだ。

 だから私は、この人に一つの提案をしたいと思った。



「晴景殿、ご存知かと思われますが私も近衛家より正室を貰ってましてな。」

「そうでしたな。義晴様と同じとは、何とも奇遇ですな」

「ですから我々は義理の兄弟になるわけです。そこで晴景殿を義兄と呼ばせて頂いてよろしいか?」

「はぁっ!? ……まぁ公式な場でそれは不味いと思いますが、この様な場でしたら」


 やはりこの人は私を将軍ではなく、一人の男として見てくれている。

 将軍の権威しか見ていない奴なら“恐れ多い”とか言いつつ周りに吹聴したりするもの。


 だがこの人は私の提案を飲み込める度量を持った上で、その上で私の将軍としての立場まで考えてくれている。



 私はこの人に心から認められる様な男になれるだろうか?

 それは将軍の権威を取り戻す事よりも難しく感じられる。


 だが今までの無為な日々に比べれば何とも楽しく感じられることよ。




―こうして義晴は晴景の事を実の親兄弟の様に…… いや、親兄弟以上に慕うようになるのであった。

 この後、義晴が後世に遺した書状の多くに晴景の名前が出てきている。

そしてそれらの書状の研究の結果、長尾晴景をもっとも評価した人物であると言われるのであった。





-長尾晴景-

 あぁ~疲れた。主に精神的に。

 何で関白・将軍・天皇なんて三連続偉い人との面会コンボをしなきゃならないんだ……。


 まぁ稙家殿は夕子の父だし、こちらに好意的だから良かった。

 礼法を学ぶ者まで用意してくれたから、昇殿の際に恥をかかずにすんだ。


 しかし、俺達が来てから毎日の様に宴会を開いてくれるなんて、どれだけ歓迎してくれてるんだ!?

 宴会のたびに知らないおっさんが、日替わりで飯をバクバク食いに来ては俺に挨拶に来るし、誰かと思ったら三条西家だの山科家だの公家だらけだし。

 もはや俺の中で“公家=食い意地はってる“みたいなイメージになっているぞ!



 義晴様に至っては、更に好意的というか何と言うか。

 最初の内は将軍らしい所を見せようと気を張っている感じだったが、嫁が同じ近衛家出身で義理の兄弟だって事を確認した辺りから、やたら親密な感じになったよなぁ~。


 きっと将軍の権威を回復させようと頑張っているのだし、色々と肩肘張って疲れているのだろう。

 義晴様も何せ俺の二つ下だから弱冠二十歳だ。それなのに実の父・義理の父がすでに亡く、兄弟とは将軍職を争う始末だ。俺の親父殿同様に若くして苦労してるんだろう。

 きっと家族の愛に飢えているのだろうし、俺の事を“義兄上”とか呼び出す気持ちも何となく理解できるぜ。

 なるべく非公式な場ではうちの弟達を相手にするように優しくする事にしよう。



 天皇陛下に関しては、何せ俺の官位も低いし挨拶とお礼を言っただけで、昇殿時間も短かったから何とも言えない。

 ただ献上品の銭や米や青苧を見た時は、頬が緩み言葉が震え、嬉しさを隠しきれない様子だった。

 献上品を運んで行った、内裏で働く者達も小躍りしてるように見えた。



 どんだけ貧乏なんだ、朝廷!?

朝廷のシーンはカットです(爆)

だって書いた所で関白の焼き直しにしかならなそうなので。


足利義晴の奥さんは、まだこの時代には早かったようです。

もっとも未来でもこの比率だと厳しい気もしますけど。


と言うわけでサクッと上洛編終了で、次は西へ向かいます。

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