第二十話「収入増加計画と、はじめての・・・」
享禄4年(1531年)10月
無事に祝言が済んだ晴景は、越後の国力増強の為の案を考えていた。
その案の内の一つに佐渡の金山の発掘があった。
昨年の佐渡侵攻で滅ぼした羽茂・河原田の領地には、晴景と共に学んだ仲間の中で領地を貰えるなら佐渡へ行っても良いという者に任されており、晴景に協力した本間家と共に問題なく治めていた。
-本間有泰-
羽茂と河原田の奴らが滅び、われら本間宗家が生き残る事になるとは、ほんの1年半も前には思いも寄らなかったこと。
わしは長尾家の力を借り…… いや、長尾家に佐渡を売り渡して自分の家を守った。
本間家は改めて佐渡守の名代として佐渡の事を、任されるようになった。
その結果として長尾家より鉱山を管理する奉行が送られ、鉱山から出た銀や鉄などの鉱物は、全部長尾家が引き取るようになった。
変わったのはそれだけ。
そう、それだけなのじゃ。
羽茂と河原田が持っていた領地は、長尾家から新しい領主が派遣されたが、わしの本間家の領地は少しも減らされんかったし、鉱山に関する利権も少し減らされたが残っておる。
結果としてわしからすれば、“鉱物を少し安値だが安定して引き取ってくれる取引先が出来た”程度の変化なのじゃ。
『晴景様は、為景様が越後に戻るのに力を貸して頂いた本間家の恩を忘れておりませぬ。本間家が民を無碍にせず、共に佐渡を治めてくれるのであれば約定は必ず守られます。』
あの日、長尾家から送られてきた使者の言葉じゃが、わしは家が潰されるよりはマシだと思い密約を交わした。
その結果として、まさか本当に約定がすべて守られるとは思わんかったわ。
20年も前の恩を忘れずにいるとは、長尾家というのは本当に義理堅い家じゃ。
これは長尾家が潰れでもせん限りは、我々は共に歩いて行くのが吉であろう。
だからわしは佐渡を売って正解だったんじゃ。
そうしなければ滅ぼされていたのは、わが家だったのじゃからな。
そう言えば、あの使者はもう一つ言っておったな。
確か佐渡で金が出る可能性があると・・・
その様な事を考えておると、家中の者が大慌てでわしの元へ飛び込んでくる。
「有泰様、大変です!! 金が…… 金が出ました!!!」
「なんじゃと!? すぐ行くぞ!!」
急ぎ鉱山へ向かうと、他の鉱物に混じり、すでに金が多く積まれていたわい!
これは相当大きな金脈を掘り起こした証じゃ!!
うひょひょひょひょ!
まさか、金の話も本当じゃったんか!!
あの日、長尾家の話を聞いといて、本当に良かったわい。
そうで無ければこの金も拝めなかったわ!!
―晴景は知識として佐渡に金山がある事が解っていたため、越後より多くの山師を送り込む事で、金山の発見を大幅に早める事に成功した。
そして金山の利権を失いたくない本間家は、この後長尾家に忠実に尽くすようになって行くのであった。
-長尾晴景-
佐渡では金が出たらしい。
これでとりあえずは軒猿や屯田兵への報酬の心配はかなり減ったと言えるだろう。
だが、親父殿へ無理やり貸し付けられた銭の返済まで考えると、もう少し収入を増やしたい所だ。
それにこれから先、銭はあるに越した事は無い。
常備兵の人数を増やすためにも使うし、戸隠衆などの軒猿衆以外の忍びの里や、海賊衆などを抱え込むためにも使いたい。
そして何よりそう遠くない未来に、日ノ本へ辿り着く鉄砲のためにだ。
鉄砲は日ノ本の戦を一変させる。
天下を統一するためには、他の家に先んじなければならないと思う。
まぁ南蛮人と始めて接触する種子島家、ひいてはその主家にあたる島津家よりも先に入手しろってのは無理な話だ。
だが織田家や武田家、北条家などよりも早くに入手して量産できれば、これから先の戦が楽になると言えるだろう。
しかし銭の収入を増やす為には、今回の金山の発掘の様なものは別にして、結局米や特産品を増産する等の地道な努力か、商いによるものしかない。
そう簡単に収入が増えるものなら、どこの家でもやってると言うものだ。
だが一つだけ、収入を大きく増やす案はある。
その為には、やはりあそこと仲良くならなきゃいけないよな……
「段蔵!」
「お呼びでしょうか?」
俺は隣の部屋に控える段蔵を呼ぶ。
段蔵は俺の護衛と兼任して、情報の取り纏めを頼んでいる。
「情報を集めるために、各地へ放った軒猿はどうしている?」
「すべて担当の地に到着し、内で情報を集めております」
俺は軒猿を雇ってすぐに、何箇所かの俺が考える重要な土地に対して密偵を送っている。
それはかなり遠方の地も含まれていた。
「経路が出来ていない遠方になるほど、越後に情報が届くのに時間がかかっていますが……」
「まぁそれはしょうがないな」
この時代の移動手段は馬か徒歩による陸路か、船による海路しかない。
馬は伝馬を整えれば速いが、その為には各地に駅をおく必要があるし、長尾家と仲が悪い大名の領地では使えない。
海路はこの時代は海賊も多いので話をつけなければ襲われる可能性もあるし、それに軒猿たちは船の扱いに慣れていない。
となると徒歩による陸路しかないので、時間がかかるのも当然だ。
ある程度遅れるにしろ、情報を得られる体制が整っていれば、他の北陸や関東、中部の大名よりも先んじることが出来る。
それにもう着いているなら、とりあえずは今回の目的には足りている。
「段蔵。ちょっと行きたい所があるんだが、供を頼めるか?」
「御意に。それで何処へ?」
その地の有力者を相手にコネを作るため、俺自身が出向く事を決めた。
軒猿を通したやり取りでは時間がかかるのと、俺自身が行くとなれば、そう簡単に門前払いされないだろうとの打算からだ。
その行き先は……
「博多だ!」
九州一の商業都市博多、そこは何より海外との繋がりがある地だからな。
-長尾為景-
晴景が突然、博多へ出かけたいと言い出した。
博多には大陸から珍しい物が入ってくるから、自分で観に行きたいそうだ。
まぁこいつは越後から出た事もほとんど無いし、今の内に見聞を広げるのも良い事だろう。
だが、折角越後から出て行くんなら好機だ。
前から一度は行かせねぇと、と思っていたからな。
「晴景、良い機会だからついでに京に寄り道して挨拶して来い」
こいつはまだ直接挨拶してないから、この機に寄らせた方が良いだろ。
「挨拶? あぁ、近衛の家にですね」
「まぁそれも必要だが、他にいるだろ」
近衛の家は縁戚になったわけだし、当主は現関白だから確かに挨拶は必要だ。
だが、それ以上に気にするべき相手が居るだろうに。
「朝廷と公方にだよ」
―こうして晴景の初めての旅、そして初めての上洛が決まったのであった。
長尾家の嫡男として中央に顔を売ること、晴景にはそれが求められていたのだった。
晴景君はじめてのおつかい編です。
まぁあんまり引っ張ると虎千代が出せないんで、サクッと終わらせる予定です。




