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第十九話「祝言」

この話は下手くそな恋愛小説っぽい話になっています。

そう言うものが苦手な方はご注意ください。

享禄4年(1531年)1月

 長尾晴景は自分の知らない所で、花嫁の輿入れが決まりかけていた。

 晴景は父為景と話すため、春日山の為景の部屋を訪れていた。





-長尾為景-

 俺の元に晴景がやってきた。

 手には於虎に渡しとくよう頼んどいた書状がある。


 晴景は微妙な表情をしているが、まぁ気持ちはわかる。

 一方で外から見る立場からすれば、実に面白いものだ。


「どうした? 晴景」


 俺はニヤニヤするのを抑えられず、晴景に声をかける。


「父上、この書状で俺の嫁を決められるとの事ですが……」

「おぅ、俺や定満の間でも相談したが、一応お前の意見も聞こうと思ってな」


 晴景は渋い顔をしている。

 まさか断ったりはしねぇだろうが、俺は念のために釘をさす。


「言っとくが嫁を取らないって選択肢は無しだぞ。それとも衆道……」

「いえ! 女性が好きですから! 嫁は頂きます!」


 やけに強く否定したな。

 まぁアレは俺も気持ち悪くてダメだから、俺に似たのだろう。


「それで相手は誰ですか? 定実さまの娘ですか? それとも伊勢・相模の北条辺りからですか?」


 お、晴景は晴景なりに考えていたか。

 そしてそれは俺の考えとも合っていたが……


 俺は晴景を驚かせる為に、例の書状を取り出す。


「それも考えて無かったわけじゃないが…… こいつを読んでみろ」


 書状を読み進める内に、晴景の顔はみるみると驚愕の色に染まる。


「近衛稙家の妹…… って摂関家じゃないですか!! 何でうちに嫁にくるんですか!?」


 クックック、やっぱりそう言う反応を示すよな?

 実綱が俺たちに見せた時に、楽しげだった理由もわかるぜ。


 俺は驚いてる晴景に説明してやる事にした。


「いやぁ、まぁ近衛の子と言っても庶子みたいだし、何だかんだでうちは結構な額を朝廷に献金してるからなぁ。お前の佐渡守叙任の時も礼を奮発したし、向こうとしては当主が代わっても仲良くしたいって所だろ。」


 朝廷は献金が無いと、儀式一つもまともに出来んほどに貧乏だからなぁ~。


 越後には青苧(衣類の原料となり高値)の荘園があり、そこからも朝廷にいくらか送っているから、結構うちに依存してる部分もあるんだろう。


 まったく世知辛い話だぜ。


「父上、佐渡守の礼を奮発したって、それ俺の借金になってませんか?」


 うっ、しまった。良く気づいたなこいつめ。

 俺は晴景の鋭いつっこみに対して視線を逸らす。


 すると晴景は諦めたのか、ため息を一つ吐き、話し始めた。


「話はわかりました。摂関家からの打診となれば、断るわけにもいかないでしょう」

「まぁそうなるわな。ちなみに側室を取っても構わんぞ。どっかから好きな女を連れてきても良いし、他にも選びたい放題だ」


 そう言って他の家から来ている書状の束を見せる。


 晴景は呆けた顔でそれを見ていた。

 だがすぐに声を出す。


「いえ、とりあえず1人で大丈夫です」

「……まぁ、お前も俺に似てるからな」


 俺も元々は側室を取る気が無かったし、晴景のその返答にも自分と似たものを感じた。

 それなら別に無理に増やす必要もないとも俺は思う。


 ならば側室の件は横に置き、伝えなきゃならない事がある。


「あぁ、ついでに摂関家の縁戚になるから、殿上人(天皇に直接拝謁できる)の許可をくれるらしいぞ。それに合わせて俺は正五位下・兵部大輔、お前は従五位下・越後守にしてくれるそうだ。まぁ遠回しな銭の無心だろうけどな」


 俺はそう話すが、官位が上がると聞いて晴景は逆に不安そうな顔になる。


「それは良いですけど、佐渡守はどうします? まだ佐渡は完全にうちの物と言えないですし、今名分を手放すのも不味いかと」


 確かに言うとおりだ。

 だが、それくらいは俺も考えてるぜ?


「虎吉を元服させて叙任させる。まぁ更に銭はかかるだろうけどしょうがねぇ」


 虎吉は晴景の弟で、於虎の生んだ最初の子だ。

 まだ10歳だから、ちと早いがしょうがねぇだろ。


「そこまで考えているのでしたら俺は口出し出来ません。父上にお任せします」


 そう言って席を立とうとする晴景。

 俺はその前にもう一つ話そうとするが……


「あっ、ちなみに今回かかる銭は俺の借金にならないですよね? 長尾家の為ですもの」


 晴景に先手を取られ、さすがに何も言えなかった





-長尾晴景-

 嫁を貰う事が決まってから、先方への連絡や輿入れの準備、他に打診があった家に断りの書状を書くなどをしていると、あっという間に数ヶ月の時が過ぎた。

 季節は春となり、今日は輿入れの日だ。


 解っていたことだが、長尾家の嫡男である以上俺に嫁とりの選択権は無かった。

 より良い家から嫁を貰うのが長尾家の為だから、しょうがないがな。

 まぁ側室は自由だって言うから、嫁に来る人があんまり自分に合いそうに無かったら考えようか。




 俺は正装をして、嫁となる人が来るのを待つ。


 ギギギギィィィ……


 門が開き、輿が入ってくる。

 その上には白無垢に身を包んだ花嫁が乗っている。



 ヒューーーーッ……パサッ


 ふと、風が綿帽子を跳ね上げ、その顔が露になる。



 美しい黒髪に優しげな眼、小さな顔に薄く化粧をしたその顔。

 歳は18と聞いているが、やや幼くも見える。


 不意に俺と眼が合うと、恥ずかしそうに視線を逸らす。


 花嫁は輿を降り、俺に近づいてくる。

 俺は花嫁に先んじて声をかける。


「長尾晴景です。ようこそ越後までいらっしゃいました」


 花嫁は、少し驚いた顔を見せるが、すぐにニコリと笑う。


「近衛夕子です。不束者ですが、よろしくお願いします」


 少し恥らいながら礼をし、言葉を返す彼女。





 ヤバイ、凄い好みかも知れない。





-近衛夕子-

 越後を支配する長尾家の次期当主晴景様、それが私の旦那様の名前。


 越後に輿入れすると聞き、私は都から離れる事にやや不安がありましたし、武家の方と聞いて少し怖い方を想像していました。


 でも始めて会った時から晴景様はとても優しい方で、祝言の間もずっと気をつかって頂きました。



・・・・・


 祝言が一段落し宴会が始まると、多くの人が私の元へ挨拶にいらっしゃいました。


『道にぃの奥なら、俺の主君も同然。よろしく頼むぞ!』


 そう言うのはまだ若いのに旦那様の側近だと言う強そうな方。


『晴景は長尾家の次期当主なのに、常に僕たちを気にしてくれる良い奴なんだ。僕たちではそんな晴景を癒すことが出来ないから、貴女には期待していますよ』


 そう言われたのは常に笑顔を絶やさないで話す、頭が切れそうな方。



 どうやら晴景様は多くの人に慕われているようです。



 それにしても期待していると言われても、私に何が出来るのでしょうか……

 そう思っていると私の義母になる高梨様と於虎様が参られました。


 お二方にその事を話すと、そろって笑われてしまいました。


『夕子さん、武家の嫁と言うのは戦場から帰ってくる旦那様を、ただ甘えさせてあげれば良いんですよ』

『お姉さまは為景様に優しすぎます! 私は夫婦として一緒に楽しく過ごせばそれで良いと思うよ!』


 私はお二方を見て、旦那様との仲の良さを感じた。それはとても素敵な事です。


 でも一方で逆に不安は膨らみます。



 私にあの方は甘えてくれるでしょうか?

 私と居てあの方は楽しいでしょうか?



「夕子、ここに居たんだ。虎の母さんとかにからかわれなかった?」

「いえ、皆さんとても良くしてくれています」


 そんな風に色々グルグルと考えていましたら、晴景様が来てくれました。

 少しお酒を飲まれたのか、お顔が赤いですが変わらず優しく接してくれます。


 そんな真っ赤な顔で晴景様は私の手を取りました。

 ……なんだか私の顔も赤くなってる感じがします。


「夕子、父上や叔父さんたちを紹介するよ!」


 そう言って優しく手を引いてくれる晴景様。


 そうですね、私達には私達の夫婦の形がある筈です。



 いつかお二方みたいに話せるよう、仲良くしてくださいね、私の旦那様?





―この後、晴景と夕子の夫婦仲は睦まじく、晴景は生涯夕子一人を愛するのであった。

 それは側室を持つ方が一般的であるこの時代の有力者においては、めずらしい事であった。

 2話をかけて晴景君の結婚の話でした。足利義晴の妻を奪ったりしても不味いので、夕子さんは架空の人物です。

 ちなみに近衛家との結婚は一代後の近衛前久の時に絶姫と謙信の結婚の話があっただけに、十分にありえる話なんですよね。

 別の方も書いてる事ですが、それだけこの時代の朝廷・公家は資金繰りに困っていたと考えられます。

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