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第十八話「晴景の嫁取り」

享禄4年(1531年)1月

 上条の乱から年が明け、越後は雪に包まれていた。

 本来なら乱が続いていたこの時期であるが、歴史が変わり越後の敵対者をすべて排除した長尾家には、つかの間の平和が訪れていた。

 だが平和の中だからこそ、新たな問題が見えてくる事もある。





-長尾為景-

「嫁をとれだぁ?」


 俺の前に座る定満からの言葉は出た。

 何だか俺が於虎を娶った時を思い出すが、今回は俺に関してじゃねぇ。


「えぇ、晴景殿も22になります。いささか遅すぎる位ですよ?」


 ……まぁ確かにその通りだ。

 長尾家の嫡男に嫁が居ないと言う事は、家が断絶する危険があると言う事だ。


 弟妹達がいるとは言え、先年の乱で周囲に名が通った晴景を、廃嫡すると言う事はまずありえねぇ。


 だから晴景には、早く所帯を持ってもらうに越した事はないんだが……


「定満、それは俺も考えた。そんで定実殿の娘を娶らせる事も考えたが…… どうにも気が進まなくてな」


 “越後守護”上杉定実の娘が長尾家に嫁ぐ。それは越後の支配者を長尾へ自然に受け継がせる為に、一番良い案だと思っていた。


 だが、それは越後一国を考えた際の最善だ。

 越後が統一されたと言える状況で、今後は外に眼を向けなきゃいけねぇ今となっては、いささか温い案だ。


 それに、定実殿にはもう野心はねぇ。


「……そうですね、いま定実様を表に出したら、再び利用しようと思う輩が現れんとも限りませんし」




 定実殿は政戦に関しての能力は残念ながら無いが、守護の家系だけあり教養や知識に関しては造詣が深い。

 それを活かす為に房忠が軍学を教えるのと同様に、子供達に行儀作法や文字を教えて頂けるようお願いしたら、定実殿は快く受けていただいた。

 そして子供達に囲まれる定実殿は、実に楽しそうにしている。


 定実殿はある時、俺にこう言った。


『為景殿、越後を治めるだけの力がないわしであっても、どうやら越後の為になることができそうじゃ』


 今の定実殿は実に穏やかに過ごされている。


 ……ひょっとしたら守護と言う肩書きが、定実殿の人生を狂わせたんじゃないか?

 だとすれば、それは定実殿を守護にした俺の責任でもある。



 だから定実殿には、政とは関係無い所で余生を過ごしていただきたいと、俺は思っている。



「しかし、そうなると越後の外から輿入れすることになりますね。まぁ晴景殿でしたら引く手あまたでしょうけど」

「あぁ、すでにたくさん話が来てらぁ…… ちょっと待ってろ、定満」


 ドサッ


 俺は自分の部屋から多くの書状を持ってくる。

 軽く30はあるが、これらはすべて晴景への輿入れの打診だ。


 書状は元々、乱が始まる前から来ていた物と、終わった後に来た物がある。

 だが数としては圧倒的に乱が終わった後の方が多い。

 随分耳が早い事だが、どうやら上条達が裏でコソコソとやっていたせいでもある様だ。


 ちなみにあんまりにも数が多くて、俺もまだまともに目を通して無かった。


「これだけの数が…… さすがは“今孫武”と言った所でしょうか」

「それは恥ずかしがってるから、あいつの前では言うなよ」


 あの戦の後、晴景には二つ名が付いていた。

 こいつが晴景の事を孫氏にたとえた話が広がり、いつの間にか現代の孫氏と言う意味の“今孫武”が定着していた。


 ……きっとこいつの事だから、周囲の牽制をする為にわざと流したんだろう。


「まぁ俺一人では決めかねていた所だから、ちょっくら一緒に考えろ定満」

「そうですね、1つずつ見ていきましょうか」


 俺たちは適当に書状を拾って見ていく事にした。


「これは伊勢宗瑞(北条早雲)殿の息子の北条氏綱殿からか」

「北条氏は関東の覇権を狙っていると思われるゆえ、山内上杉などを我らと挟み撃ちにしたいのでしょう」


 うん、これは悪い話じゃねーな。

 元々俺は伊勢宗瑞殿の考えに共感する部分も多いし、なによりその息子の氏綱殿も農民や職人への違法な搾取を咎めるなど、民を思った政策をしている。


「こっちは奥州の伊達稙宗殿だな」

「彼の方は婚姻外交で勢力を伸ばしておられます。その内に入ってしまっては、少々動きが取りづらくなるかと」


 話には聞いてるが、うつろって奴だな。

 そいつのおかげで、奥州・羽州の有力者はそれぞれが隙間なく誰かの縁戚らしい。

 理由も無く北へ攻め込む必要も無いから縁戚になる事自体はともかく、縁戚だからと言って戦の応援とかを頻繁に頼まれたりするとめんどくせぇな。


「・・・おい、山内上杉からも来てるぞ。それも二つも」

「山内上杉は家督争いをしてる様子ですからね。憲寛殿は古河公方からの養子ですし、憲政殿の父で先代の憲房殿も顕定の養子です。遺恨を水に流してでも後ろ盾が欲しいんでしょう」


 まぁ俺が顕定を討ったのも、もう20年以上前だしな。

 二代も変わって血も繋がってなきゃ、そんなもんか。


・・・・・


 能登の畠山義総殿、越前の朝倉考景殿、会津の蘆名盛舜殿……


 俺たちは次々と書状に目を通すが、今一つこれぞと思う相手はいねぇ。


 現状だと北条氏綱の娘が第一候補だが、何となく決定打となるものに欠ける。



 そんな事を考えていると、小姓が部屋に入ってきた。


「殿、神余実綱殿がお帰りになりました」

「あぁ、かまわねぇから通してくれ」


 神余実綱は京(つまりは朝廷や公方)との、外交を専門としてもらってる奴だ。


「為景様、お久しゅう…… これはまた」


 実綱は俺たちの前に散乱する書状を見て、驚きの声をあげる。


「よう実綱、こいつは全部息子の嫁の打診だ。上方じゃ何か面白い事はあったか?」


 俺はいい加減書状を見るのに疲れていた事もあり、実綱に何か京に変化がないかを問う。


「今の為景様には面白くないかもしれませんよ。何せそれらの書状と同じ内容ですから」


 そう言って実綱は書状を渡してくる。


 俺はうんざりしながらも、実綱から受け取った書状に眼を通す。


「まったく、更に増えるのかよ……ってこれは!?」

「為景殿、どうしまし……!?」


 俺たち二人は驚いて時が止まる。


「内容は面白くないですが、差出人はいささか面白いかと」


 そう言って実綱はニヤリとする。

 実綱め、わかってて俺たちの反応を楽しんでやがったな。




 その書状の差出人は近衛稙家。



 今の“関白”だ。





-長尾晴景-

 俺は今、春日山で休暇をしている。主に弟妹達と、ついでに親父殿に構ってもらえず暇な於虎がちょくちょく遊びに来るんで遊んだりしている。

 あの義母は本当に弟妹達と同レベルである。


 弟二人はじっちゃんの軍学を学びに行っている。

じっちゃんのこれは俺らの代から今までずっと続いており、昔と違う点として他の人も剣術やら読み書きやら得意な事を教えているらしい。

 うん、もはや学校に近いな。

 最近では後の北条高広・竹俣慶綱らが弟達と共に学んでいるようだ。


 そんな弟達だが、合間に時間がある時など、友達引き連れて俺の所に遊びに来たりする。

 そして大体俺について来る景家とチャンバラをしたり、相撲をしたりして転がされて泣いている。

 泣かせた方である景家も毎度毎度オロオロしていた。


 景家はそろそろ手加減をおぼえようね!



 妹の綾は2歳下の新六(長尾政景)を引き連れて遊んでいる。

 房長が亡くなった上田長尾家では、上野との境目に近い坂戸城を任せる訳にもいかず、春日山で母子共に暮らしているのだ。


 親父殿は綾と新六の仲が良い様子を見て、ちょっとだけ複雑な顔をしていた。

 元々上田長尾家に綾が嫁ぐことを考えられていたのだが、房長が亡くなり上田長尾家は力を失った為、その必要性はかなり薄れていたからだ。


 うん、景勝が生まれてこなくなる所だね。

 景勝は虎千代が歴史通りに子を生まない場合の後継者候補になるし、政戦に高いセンスを持つ有力な準一門となりうる。

 まぁいざとなれば、俺が当主になったら何とかすると言う事で、今はとにかく仲良くやってもらおう。



 そして虎千代は最近かなり歩けるようになり、俺を見つけると近づいて来るようになった。


 トテトテトテ、パシッワシワシ


 今も俺の傍に来て、俺の身体をよじ登ろうとしている。


 ガシッ


 俺は虎千代を捕まえ、諭す様に話しかける。


「こら、ダメじゃないか虎千代。兄は登るもんじゃないぞ?」

「んー、にぃ?」


 ん?いま虎千代が喋ったか?


「にぃ!! キャハハ!」


 そう言って俺の膝の上で飛び跳ねる虎千代。

 本当ならまたおろす所だが、虎千代の話した言葉の余韻が残っていて、そうする気になれなかった。



 ガサッ


「虎千代が……」


 ふと、振り返ると於虎がいた。

 彼女は何やら持っていたものを落として呆けていた。


「虎千代が、私より先に晴の名前を呼んだ?」


 どうやら虎千代が“にぃ”と呼んだ所を見ていたらしい。


「うわぁぁ~ん! 晴のばかぁ~!! もうさっさと結婚しちゃえ~!!!」


 そう言って泣きマネしながら走り去る於虎。

 本当にお子様でどうしようも無いが、去り際に妙な事を言ってなかったか?



 ふと、於虎の落としたものを見てみると、



 それは俺の嫁取りについて書かれた、親父殿の書状であった。

 と言う訳で新章の最初は嫁取りからです。

 この時代の武士は嫁取りもまた家の力を高める手段ですから、一種の国力増強です。


 ちなみに晴景は本来の歴史では、本文で少しだけ触れた上杉定実の娘を貰ってます。

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