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妹は軍神 ~長尾晴景の天下統一記~  作者: 遊鷹
謙信誕生と越後統一編
18/63

第十七話「それぞれの戦後」

享禄3年(1530年)8月

 越後の覇権をかけた“上条の乱”は、秋を待たずに決着がついた。

 結果は為景派の大勝であり、反為景派の諸将は軒並み命を落とす事となる。

 首謀者である上条・大熊・上田長尾の領地は没収となり、色部・新発田・本庄らは領地を大幅に減らされた上で越中へと転封となる。

 戦の前から為景に付いていた大見安田・山吉・北条・毛利安田らは上条等が没収された領地より加増されるが、戦が始まる直前になってようやく方針を決めた中条ら日和見組は、金銭などの褒美のみであった。





-長尾為景-

 俺の前に安田(長秀)を除いた揚北の連中が平伏している。まぁ中には転封が決まっている奴も多いから、もう揚北とくくるにはおかしいかも知れないが。

 そして俺の手元にはこいつ等が書いた、連判状がある。


 内容は“今後、長尾家に逆らう事を一切しない”と言う事。


「お前ら、頭を上げろ。」

「為景殿、それでは・・・」


 ビリリリリッ


 俺はこいつらの目の前で連判状を破り捨てた。

 その行動に皆一様に目を見開いている。


「こんな紙切れに何の意味もねぇことは解ってる。現にお前らは前にも似たようなもん書いてたしな。なぁ、とっつぁんよ?」


俺の言葉に中条のとっつぁんは冷や汗をかいている。


何年か前にも、こいつらから起請文を貰ったにも関わらず、今回上条の側に着いた奴や日和見をしていた奴がほとんどだ。

中条のとっつぁんなんて、“子が叛いても自分は長尾家に”とか書いときながら今回の日和見だ。


だからこんな紙切れには何の意味もねぇ。


「良いぞ」

「はっ?」

「別に反抗するのは構わんと言っている。この乱世に力が無い者が討たれるのは当然の事だ。

 だが見誤ったらどうなるか・・・今回の件でわかっただろ?」


 少し脅すと、こいつらの顔は見る見るうちに青ざめていく。

 俺が潜在的な敵を放置していたせいで、今回は晴景に苦労をかけたからな。

 父親として少しは働かんとダメだ。


「俺はいずれ隠居するが、晴景は俺以上の器かも知れんぞ?それでも勝てると思う奴は、いつでもかかって来ると良いさ。」

「は・・・ははっ!!」


 再び平伏する揚北の連中。


 まぁこれだけ言っても理解しない奴はダメだ。遠慮なく討つ事にしよう。


 晴景は越後のために邪魔な奴を一掃してくれた。

 だから俺も越後の為に鬼になるぜ?






-宇佐美定満-

「叔父さん!ありがとうございました!」


 越中へと戻る私の見送りに、晴景殿が来ていた。


「いえ、今回私は大した事をしてませんから。」


 私の軍は直接戦闘に参加していない。

 上条達が予定通り、私の軍を見て逃げ出したからだ。


 ・・・ひょっとしたら加賀や能登の一向一揆へ警戒が必要な、私の兵を損ねない為にこの配置にしたのかも知れないですね。



 この子は本当に賢い。

 だが・・・


「晴景殿、1つだけ忠告しておきますよ。“策士策に溺れる”と言う言葉もあります。

 あなたの今回の謀は実に見事でしたが、敵が常にあなたの思い通りに動くわけではありません。

 ましてや今後は上条などより、遥かに手強い相手も出てくるでしょう。」


 その賢さは危うさでもある。

 何と言っても彼にはまだ経験が足りない。


 特に知恵者同士が互いに策に嵌めあうと言う経験が。


「・・・肝に銘じておきます」

「ふふっ、釈迦に説法でしたね。それともう1つ。私や為景殿をもっと頼って良いのですよ。私達からすれば、あなた達はまだまだ子供なんですから。」


 それだけ言って、私は船を出発させた。


 最後に話した言葉。

 これは別に晴景殿やその友を、子供と侮っているわけじゃありません。

 いくつになっても子は子だと言う事です。


 為景殿はあんな感じでも、ちゃんとあなたの事を思っている。

 親になった者だから解る事もあるんですよ。


 さて、あの子に伝わったでしょうか?





-直江実綱-

「皆、今回はご苦労だったな。」


 僕たちは与板に集まっている。あの軍儀をした時と同じ部屋だ。

 僕たちの前に座る晴景が、みんなに対して話しかけている。


「お前達への褒美も考えなきゃならん。何か希望がある奴は言ってくれ!欲しい物があるやつは探してくるし、領地が欲しかったら親父に掛け合うぞ。」


 晴景はそう言ってみんなに声をかける。


 みんなは考えているのか、中々動かないでいた。

 だから僕は真っ先に手を上げた。


「では僕から良いですか?」

「実綱、お前も何か欲しい物があったのか?」


 晴景は意外そうな顔をしていた。



 僕にはあるんですよ、ずっと考えていた欲しいものが。



「えぇ、晴景の名前から景の字を貰って、景綱と改名したいんですけど良いですか?」


 僕の望みは晴景から偏諱を貰う事。

 名前を付けてくれた父には悪いけど、定実様からとったであろう実の字より、僕は景の字を背負って生きたい。


 ・・・弥次郎があっさり景の字を貰った時には少し嫉妬したものだ。


「そんなんで良いのか?それなら別に褒美じゃなくたってやるぞ?」

「えぇ、良いんです。」


 そう言って、僕は晴景に笑みを浮かべた。



 これが、僕が直江景綱に改名する経緯だった。





-長尾晴景-

 俺は机に向かい、ひたすら書類と格闘している。

 俺の手の者への褒賞を決める事や、感状を書く事、親父殿への嘆願を書く事など、多くの処理が俺には待っていた。



 褒美に関してだが、実綱・・・いや、景綱の件も驚いたが、他にも驚く事を言う奴がいた。


『房長の子の命、助けて欲しいんだぞ!』


 まさか景家からそんな願いが出るとは思わず、俺は弟分の成長に喜びを感じていた。

 その後、景家には元々殺すつもりは無い事を告げ、代わりに新しい槍を与えた。

 

 嬉しいのはわかるが景家よ、誰彼構わず槍を見せて回るのは止めてほしい。

 虎千代に見せても危ないだけだろ!



 段蔵もそうだったな。


『俺と奥が晴景殿と同じ城に住めるよう、はからって頂きたい。』


 何でも、常に俺を警護する為にはその方が都合が良いらしい。

 これも別に褒賞として与えなくても良いと思い、銭と感状を与えたら喜んでいた。

 感状に関しては段蔵、銭に関しては段蔵の奥さんが主にだが。


 ちなみに段蔵の奥さんは、あの男言葉の美人らしい。

 見ていても夫婦っぽい感じはまったくないけど、仲は悪くないと言ってた。




・・・・・


 俺は軒猿衆や屯田兵達への褒賞なども決め、ようやく机の上を占拠していた書類から開放される。


「これで全部終わったな。」


 俺は部屋の襖を開け、外の空気を吸う。



『今後は上条などより、遥かに手強い相手も出てくるでしょう。』



 定満おじさんの言葉が不意に浮かんだ。

 そうだ、今回は俺がおぼえていた歴史で、上条達が反逆するのを知っているからこそ、逆手に取れただけだ。


 上条達を誘い出した後も、じっちゃんや景家がいたから与板を守れたし、親父殿や景綱がいたから上条達を討てた。


 勘違いしちゃいけない、俺がやった事・やれる事なんて少ない。

 俺がもっとも優先すべき事は、越後を富ませること。

 国力を上げれば、未来の軍神を含めて優秀な将はたくさんいるのだから。



 ふと空を見上げるが、越後の空は今日もどこまでも青い。



 そしてその空の先には・・・


「いや、これからが本当の始まりか。」


 俺が一人呟いた言葉を聞く者はおらず、空の彼方に消えて行く。


「まぁ考えすぎてもしょうがないな。」


 今は書類仕事で疲れた分、弟や妹達で癒されにいこう。

 と言っても虎千代以外は、遊びに行ってたりしていないけどな!


「虎千代~、兄は頑張ったぞ~!」

「あ~い?」






 長尾家による越後統一は成った、

 だがまだ見ぬ敵達は、時と共に確実に越後に迫る。

 長尾晴景の天下統一への道は、まだ始まったばかりなのだから。






-新六-

 ぼくの父上は戦でなくなったらしい。

 母上は泣いていたが、ぼくには意味がわからなかった。


 母上から父上がもうかえって来ないことを聞いて、さびしくてぼくも泣いた。




 ぼくは大きなおにいさんに連れられて、別のお城に連れていかれた。


『今日からお前、ここに住むぞ』


 おにいさんは、そう言ってどこかへ行った。


 ぼくはもうさびしくなかった。

 だって母上と一緒だし、


「しんちゃん、あそぼ~」

「うん、あーちゃん!」


 あたらしい友達もいっぱい増えたからだ!





 大人達が動いた結果として、子供達にも大きな変化を与えていた。

 後に夫婦となる2人の出会いが早まった結果がどうなるのか?

 それはまだ歴史の彼方である。

と言う訳で『謙信誕生と越後統一編』は終了でございます。

本作初の戦描写に四苦八苦しながらも、楽しんで書けました。

やっぱり主人公と虎千代が動かせるおかげでしょうか・・・


明日からは新章突入です。

戦が終わったのでしばらくは内政モードです。

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