34:アリですわ!
「さぁ、勝負といこうかッ!」
アンデッドの群れに、全力で突っ込みます。
今回の相手は、魔法詠唱者であるリッチと前衛戦闘を行うアンデッドソルジャーの集団です。リッチ単体であれば近づいて攻撃、盾となるゾンビを召喚されてもそれを撃破し更に攻撃といった普段の戦術が使えるのですが、今回の場合ゾンビよりもより強固な盾がいます。
魔法使い然としたただのローブを着るのがリッチなら、皮の装甲服と鉄の剣と盾を持つのがソルジャー。両者ともに中身は単なるスケルトンですが、装備とそれを扱う知識を得た侮れない魔物。たった一人で相手にするのは少々酷と言えるでしょう。
(だからこそ“頭”を使うんですけどッ!)
一番近くにいたアンデッドソルジャーの攻撃を避け、その懐へ。滑り込んだ直後に行うのは、全力の跳躍。
その顎に向かっての全力頭突きです。
(ッ~~!!!)
角ばった骨なので滅茶苦茶痛いですが、メイドのグレタが用意してくれた装備品のおかげで、ダメージは最低限。相手の意表を完全に突けるため、そう悪い選択ではないハズ。その証拠として、全身のバランスを崩した眼前の敵の手から、装備品が零れ落ちていきます。
これを逃がさぬ私ではありません。
即座にその武器を奪い取り、周囲を見渡し最適な位置を把握。直後に盾を投擲します。フリスビーの要領で近寄ってきていた他の敵達の頭蓋にダメージを与えながら、同時に拾った剣でその隙間を縫い眼前の敵の“核”を破壊。冒険者の飯の種である魔石を吹き飛ばしたというわけです。売るものが無くなってしまうという欠点こそありますが、これが奴らの心臓にして脳。ぶっ壊してしまえばこっちのもんです。
敵が完全に沈黙したのを確認しながら、次の敵に映るため体を動かしますが……。
視界に写る、光と熱。
魔法攻撃。
「っとぉ!? 味方ごとやるとか極まってるね! ならこっちもお返しだよ!」
既に死したスケルトンを盾にしながらそれを防ぎ、背負っていた槍を引き抜きます。
眼の間にいる敵をぶちのめしながら全員消し飛ばしてやろうかと思っていたのですが、こんなアプローチをされれば黙っていることは出来ません。遠距離持ちが厄介なことは変わりないのです、待ちきれないお馬鹿さんから早々に排除した方がいいでしょう。
というわけで近寄ってきていたスケルトンに向かって全力の刺突、そのまま体重を乗せて地面へと倒し、魔石を切っ先で破壊することでその活動を停止。
そしてより強く押し込み、地面へと固定。落ちていた盾を拾い上げながら、棒高跳びの要領で空中へと飛翔します。
(遠距離持ちからすれば回避できない空中など格好の的! つまり攻撃が集中するってことです!)
案の定集中した火球を全て拾った盾で受け止めながら、次の行動へ。
背負っていた弓を取り出し矢を構えます。
こちとら不登校の不良女学生ですが、お勉強だけはグレタに尻叩かれながらしっかりやってるんです! ゲームでもこの世界でも魔物も人も魔法のリキャストタイムは同じで教科書通り! つまり次弾を発射される前に全部撃ち殺してしまえばいいのですッ!
一瞬の呼吸と共に、矢を発射。
同時に番えた3本の矢は想定通りリッチに達に吸い込まれていき、着弾。向上したATKのおかげか確実にその生命活動を停止させます。しかし未だ遠距離持ちは多数。殺し切れなかった敵から追撃、おかわりの火球を喰らいますが、再度盾で防御。
攻撃を受け止めながら、地面に着地します。
(ッ! 思ったより盾の質が悪いですわね。これ以上受けると溶け切りますわ。ならッ!)
接近してきたソルジャーの攻撃を最小限で避けながら、その顔に向かって盾の面を押し付けます。
無論火の弾によって加熱され溶け始めたものを、です。
どういう仕組みになっているのか解りませんが、眼孔が鉄と融合し視界を潰せたのでしょう。痛みに悶えているような風に闇雲に剣を振り回すスケルトンですが、素早く引き抜いたレイピアによって装備の隙間を突き、絶命。更に敵を排除します。
(よしよし、いい感じですわね!)
馬力が上がっているおかげか各段に体が動きやすいですし、急所さえ狙えば確実に相手を倒すことが出来ます! スタミナの問題こそありますが、このままいけばここにいる全員を消し飛ばすぐらい……
「こ、こないで!」
「ッ!」
声に反応し、即座に反転。
声帯を持たぬスケルトンたちに囲まれている現在、声を出せるのは私のセラフィナちゃんの二人だけ。つまりさっきの声は彼女が襲われているということに他なりません。
事実振り返ってみれば、闇雲にメイスを振るう彼女の姿とそれを壁際に追い込む敵の姿が。効果抜群の聖属性攻撃が出来ると言えど、彼女は近距離戦闘を不得意とする後衛職。
かなり危険な状況です。
(殲滅速度が接近速度を追い越せないッ! ……ならッ!)
彼女に向かって走り寄りながら、先ほど地面に突き立てた槍を回収。
すれ違いざまにスケルトンの首根っこを槍で叩き折りながら、彼女の元へと向かいます。そして行うのは、全力の跳躍。
「セラっ! しゃがんで!」
「ッ、はいっ!」
勢いをつけて右足で踏み抜くのは、スケルトンソルジャーの頭部。
セラがしゃがんだ瞬間に生じる空間によって現れるのは、固い壁肌。向こう側に生み出されるソレと私の足裏によって敵の頭蓋骨をサンドイッチし、プレスして破壊します。そしてそれを足場にしながら持っていたレイピアで魔石を破壊。更に槍で他のスケルトンを処理します。
そしてそこから壁を駆け登り、空中へ。
先程浮かんだアイデアを実現させるには、セラちゃんとの会話が必要です。つまり求められるのは、数秒の安全。一定の範囲内にいる敵全てを排除する必要があります。故に行うのは、レイピアと槍の“全力”投擲。
相手の魔石を確実に破壊し、更に後ろに続くスケルトンを串刺しにし、足止めします。
「ヴァ、ヴァル様!」
「気にしないで! それよりもセラ! 数が多すぎて私一人じゃ抑えきれない! 絶対に守るから、抱き着いて!」
「//////ッ! は、はいッ!!!!!」
そう言った瞬間、何故か私の背中ではなく。前に抱き着く彼女。
しかも両手でくっ付くのではなく、両足も動員しての完全密着です。
……え、ふ、普通背中じゃないんですか? あ、いやでも“抱き着いて”って指示ならそうなる? い、いやいいんですのよ? 動きにくさはそう変わりませんし、全身鎧を着た時に似てますから、戦闘中での重心変更ってのは可能です。
性別の隠蔽に関してもメイドのグレタに口酸っぱく『偽装するなら徹底的に、触れられても男性の骨格となるよう詰め物を致しましょう』って言われてるので、最近そういう偽装もし始めましたから困りはしません。
でも顔がこう、近いのはちょっと。気が散ると言いますか……。
この子、まじかで見るとかなり整ったお顔してますわね。可愛い系の美人さんですわ。将来お婿さんになられる方は相当な幸せ者となるでしょう。
(ギャンブル癖と20億という借金がある以上、お相手が見つかるか解りませんが……。お友達みたいなものですし、行き遅れそうになったら縁談用意してあげた方がいいんですかね?)
「……ヴァル様?」
「いや、なんでもない! ちゃんと捕まっててよっ!」
「はいッ!!!!!」
増えた体重分の重心を調整しながら、地面に転がったスケルトンソルジャーの武装を回収。敵に向かって突撃を敢行します。
少々動きにくくなったのは確かですが、私の視界の外で彼女がやられたりするよりは各段にマシ。そして前面に張り付いてくれたおかげで、前からの攻撃を気にするだけでいい様になりました。背中にくっ付かれて背後の増加体積分を考えながら戦闘するより、一目でわかる今の方が戦いやすいまであります。……なるほど、そう考えれば前は“アリ”ですね。
そしてSPによるATK向上によって馬力が上がった今なら、彼女を前に抱えた状況でもそう動きが変化することはありません。
(っし! 気合入れていきましょっ!)




