32:無事ですわ!
(ん~、転移なんか久しぶりですわね。はてさて、何処に飛ばされたかで対応が変わって来るのですが……。)
体に襲い掛かる魔力の奔流と視界を覆っていた真っ白な光、それらが収まっていくのを感じながら周囲の状況を探り始めます。
実家のお屋敷の方で何度か転移を体験したことがあったおかげか、飛ばされた程度でそう狼狽えることはありません。パッと見た感じ、悪魔が使う転移と人が使う転移の術式は同じ。つまり対象者に何かしらのデメリットを課してくるようなものではないハズです。つまり今私がすべきなのは、周囲の状況を確かめ『生き残る』ことのみ。
何度も言いますが、この身は私一人だけのものではありませんからね。今はあの部屋に残されたベリアンヌの心配ではなく、自身の安全を確保することに注力しましょう。
(確かに『上級悪魔』は強敵ですが……、我が家の者たち。それも“彼女”が負けるとは思えません。)
先程突入したボス部屋。本来いるはずのリッチではなく上級悪魔がいたのは予想外でしたが、まだ許容範囲内です。
確かに敵は強大。伝承によれば小国を一晩で滅ぼしたとも言われているあの悪魔は、常人ではどうしようもない相手でしょう。事実今の私やセラフィナちゃんでは瞬く間に消し飛ばされていた相手です。しかしながら『ただの上級悪魔』であり、『大罪』でないのなら未だ雑魚寄り。ゲーム的に見ても『モブの経験値ですわ~!』ってやつです。
日々鍛錬を積み、私を守るよりも『百合を見守り間に入って来る奴を殺す』と明言している彼女のことです。我が家が抱える者たちの中では未だ真ん中レベルの子ではありますが、相性を考えればタイマンでも普通に勝ちきれるはずです。そして勝ってしまえばこっちのもの。閉じた空間であったボス部屋が開かれ、我が家の護衛たちに情報が共有され、即座に助けに来てくれるはず。
時間にして30分もないでしょう。なぜあの場に悪魔がいるのか、ゲームですら見たことのないイベントに少々興味が惹かれますが……、今はそのすべてが細事。その間2人で生き残るだけの簡単なミッションに集中すると致しましょう。ま、この程度クリアできなければ公爵令嬢の名が泣きますからね!
頑張って参りましょう!
さ、そうと決まれば周囲の確認ですわ~!!!
(腐臭、土と石の地面。澱んだ空気。……壁に埋め込まれた赤石が無いことから、『鼠と死者の迷宮』で間違いないでしょうね。)
即座に周囲を見渡し、小さく呼吸し空気の安全性を確かめながら確証を得ます。
赤い石、魔石とは違う“MPを吸い取る機構”が壁に付いているともっと他のダンジョン。それこそあの上級悪魔が雑魚敵として出てくるようなダンジョンに飛ばされた場合、即座に遺書をしたためる必要があったのですが……。どうやら幸いなことに、先ほどまで私達がいたダンジョンと変わりないようです。
その事実に少し安堵し息を吐き出しながら、一緒に転移したセラフィナ。彼女に手を貸し抱き起します。
「大丈夫かい、セラ。」
「ぁ。……あ! も、申し訳ありませんッ! わ、私のせいでッ!」
「構わないとも。それで、体に異常はないかい? 多分ここ、同じダンジョン内だと思うんだけど……。」
彼女の体調を気にかけながら、同時に周囲を見渡します。
多少飛ばしながらこのダンジョンを攻略したとはいえ、自身はこの世界を『すいらび』というゲームを通じて遊び倒した身です。ゲームでの3人称視点からの記憶でも、今見ている光景にはやはり覚えがあります。
おそらくですが、この場所は11階層。
えぇそうです、ボスがいた10階層よりもさらに下。隠し階層と呼ばれるものです。ゲームでは後半に手に入るとあるアイテムによって解放される場所でしたが……。彼女よりも先に来ることになるとは思ってもみませんでしたわ。
ギルドで購入できる地図にはそのようなことは書かれていませんでしたし、おそらくこの世界ではまだ未発見のフロア。宝箱などまっさらなものが残っているでしょう。確かとてもいい感じの槍がここで手に入ったはずですし、いい機会ですから貰って行ってもいいかもしれません。
ま、その前に……。
「……ヴァル様。」
「うん、気が付いてるよ。」
おそらく、転移の際に発せられる光と魔力に呼び寄せられたのでしょう。
ゆっくりとですが、此方に向かって来る魔物の集団が視界に入ります。
RPGではお決まりの話ですが、この11階層のように特殊条件で開かれるフロアと言うものには、それ以前の敵よりもやや強いモンスターが出現します。プレイヤーの進行状況を予測し、戦闘が簡単になり過ぎて飽きてしまうのを避けるための措置。ゲームではそういうものだと考え気にせず遊んでいたものですが……。現実でやられると、ちょっと困ります。
「本来ボスとして出てくるリッチと、アンデッドソルジャー。……ちょっと厳しい相手が団体とはね。」
「ヴ、ヴァル様! 『帰還』の魔道具は!?」
「残念だけど、使用禁止エリアみたいだね。ここは。」
ゲームからの知識で知っていたことでしたが、セラちゃんからすれば未知のこと。懐から『帰還』のアイテムを取り出し彼女に見せることで嘘ではないことを伝えます。
ま、コレ便利すぎるアイテムですからね。ゲーム的に詰まないように配慮してくれていますが、一部このアイテムが使えない区域が用意されています。まぁつまり、王子と主人公と出会いそうになった時みたいに『逃げる』ことは出来ないのです。故に残された道は戦って全て打ち破る以外ないのですが……。
(私一人であれば死にはしませんでしょうが、このままだと絶対に怪我を負う相手。)
護衛がいれば即座に止めてくる相手がぞろぞろと三十くらい。
まだ奥にも影が見えますし、これで終わりと言う事ではないのでしょう。おそらくこのダンジョンが発生してから誰も入って来なかったがゆえに、溜まっていたモンスター。逃げることに徹すれば死にはしないでしょうが、セラという守らなければいけない者がいる以上、それは不可能です。しかし真面に戦えば数に押され囲まれて終わり。最低で大怪我、最悪で死体すら残らない残らないでしょう。
そんなことを考えていると、私の手。いやもっと正確に言うと、抱き起すために掴んでいたセラフィナちゃんの手が震えていることに気が付きます。……私ですら怪しいのです。完全な後衛職である彼女からすれば、死そのもの。恐怖を感じるのも無理のない話。
「ヴァ、ヴァル様!」
「……セラ、怖いとこ悪いんだけどさ。支援貰えるかな?」
「ッ!? だ、ダメですッ! わ、私だってヴァル様がどんなお方であるかぐらいわかってます! たかが平民の娘一人程度見捨てて、お逃げくださいッ! で、出来ることは少ないですが、時間くらい稼いでみせますッ!」
切羽詰まった顔で、そう叫ぶ彼女。
普段の媚びたような声ではなく。彼女の素の声で。
この場に相応しくないということは理解していますが……。
つい、笑みがこぼれてしまいます。
「……ふふ、ありがとう。」
わたくしを犠牲にして逃げようとする可能性も考えてはいたのですが。どうやら彼女に対する侮辱だったようです。死を理解しながらも誰かの為に命を掛けることが出来るその精神は、とても尊いもの。
賭け事に溺れながらも未だ聖職者として名を連ねる彼女の心を疑った私が、愚かでした。
口に出し謝罪することは出来ませんがせめてこの働きを持って謝罪をさせて頂きましょう。
それに……、あの悪魔に『この程度』でわたくしが折れるなんて思われてるなんて、すっごい侮辱でしょう? まだまだ全くこの世界を、ダンジョンという世界を楽しみ切れていないのです。こんなところで終わるわけがありません。
「わ、私はヴァル様にお会いできただけで、いいのです。ほんの少しだけでしたがとても幸せでした。……あ、哀れに思ってくださるのなら、さ、最期に。く、口づ」
「最期なんて悲しいこと言わない。」
その口に指をあてて、言葉を遮ります。
そして彼女に気が付かれないように小声で唱えるのは、前世の言葉。
(ほんとはもう少し後にするつもりでしたが……。大判振る舞いと行きましょう。)
[STATUS]
Name : ヴァネッサ・ド・ラモルヴィーヌ
Race : 人間 (転生)
Age : 15
Job : 魔剣士
Level : 5
EXP : 27 / 71
HP : 13 / 13
MP : 17 / 17
ATK : 20 (+14)
DEF : 7
M.ATK : 8
M.DEF : 9
SPD : 14
LUK : 15
SP : 0 (−14)
Skill Slots: 1 / 3 『付与魔法』
溜まったSP全てを、ATKに全振り。
たった6しかなかった攻撃力が、今では20。約3倍のパワーアップです。
えぇその通り。相手の攻撃を全て回避し、一撃を持って相手を屠る。
これさえできれば何も問題ないでしょう?
「ちゃーんと見ててよ、セラ。」
貴族が上位者たる理由は様々ありますが、1番大事なのが1つ。
いざという時に民を守る。
今こそノブレスオブリージュをご照覧あれ、ですわー!
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