31:不味いですわッ!
さ、色々魔物倒しながら強行軍しまして辿り着きましたボス前の部屋!
ここさえ超えて勝ちさえすれば無事、ダンジョンクリアです!
(とまぁ意気込んでみたんですが……。)
「が、がんばりましょー♡」
「……」
顔を赤くしながらどこか覚束ない声を上げるセラちゃんに、途轍もないしかめっ面を浮かべているベリアンヌ。ちょ、ちょーっと二人とも不調な感じです。どうせ前線で戦うのは私だけですが、こんな状態でボスに挑んで良いものなのでしょうか? かといって先ほど『帰る?』と聞いたら二人とも否定されましたし……。
どうぜベリアンヌは百合のことですし、戦闘が始まれば切り替えられるよう訓練しているそうなので良いんですけど、不安なのはセラちゃんです。
先程おでこを触って熱を確認しましたが、ちょっと熱が籠っているような感じでした。今もちょっと頬を赤らめていますし、お風邪なのかもしれません。
(でもまぁ、素人ですからね。わたくし。)
前世の地球でどうだったかは知りませんが、この世界におけるシスター。それも役職を持つような方は、基本的に深い知識を求められています。魔物との戦い方から始まり、心や体に傷を負った人との付き合い方やその直し方。流石に現代のお医者様には叶いませんが、多少の医療知識をお持ちです。
家の者に調べて貰いましたが、彼女はギャンブルにのめり込んでいるだけで聖職者としての能力は非常に高いことが解っています。無論自身の素人知識よりも深く正確でしょう。医者の不養生という言葉がありますし、私の持つ現代知識などあるのですが、基本的にその道の専門家の方の意見は従っておいた方がいいはずです。魔力とかいう摩訶不思議なエネルギーがあることですし、この世界独特の体質なのかもしれませんからね。
故に彼女自身が『大丈夫』というのならば、こちらもそれを信用するしかないのですが……。
(うん、やっぱり不安ですわ。)
こうなったらもう手早くボスを倒しまして、さっさと帰って休養を取ってもらうことに致しましょう。
「よし、じゃあ突入前に情報と戦法を共有ししておこうか。ま、戦法はいつもとそう変わらないんだけど。」
現在攻略中の『鼠と死者の迷宮』のボスですが、魔法詠唱者のアンデッドである『リッチ』が出てきます。スケルトンが魔法使いのローブ着てる奴ですね。
序盤のボスにしては強力な魔法攻撃と定期的にゾンビを召喚して来る結構厄介な敵。火魔法限定には成りますが、全体魔法を撃って来るので対策を怠れば全滅しちゃう強敵でもあります。ゲームでも結構苦労している方が多い印象でした。
といっても、『魔法詠唱者』で『アンデッド』であることは変わりません。
近距離戦に弱いため素早く接近して、アンデッドに特攻がある聖属性の攻撃を一気に叩き込んでしまえばこちらのもの。簡単に落とすことが出来ます。メイドのグレタに買ってもらった属性付与アイテム、まだ沢山残ってますからね。ここで使い切るつもりで倒しちゃいましょ。
「と言うわけでいつも通り僕が敵に突っ込んで終わらせるから、セラは支援をお願い。アンヌは何かあった時の備えとセラに攻撃が飛んできた時は槍で払ってくれるかい?」
「……構いませんが、それは『若様』の。前衛の仕事ではないでしょうか?」
「うん、そうなんだけど一応、ね?」
前衛の仕事は敵に攻撃を与えることと、後ろに攻撃を逸らさないことです。
つまり前衛を名乗るならば、1人でセラちゃんを守り抜く必要があります。この活動がわたくしの趣味であり、同時にこの身が強くなることを目的としていることを知っている彼女が『実力の離れた自身が介入すれば糧にならないのでは?』と聞いて来てくれているわけです。しかしながら……、わたくしの経験より目の前にある命の方が大切なのです。
無論、全力で前衛のお仕事を全うしますが。ほら、セラちゃんも聖属性の攻撃できるでしょう?
「え!? あ、はい! そうですね、『神聖魔法』の一つに聖属性の光球を打ち出すものがございます。アンデッドなんか、それでぱぱーっと倒しちゃいますよ♡」
「うん、期待してる。でも敵のリッチからすればそういう後衛は一番厄介ですぐに倒したい相手だろう? 僕も阻止できるように動くつもりだけど、もしものこともあるからさ。守ってあげてね、『アンヌ』?」
「……拝命いたしました。ではそのように。」
よっし! んじゃ、了承も取れましたので。早速ボスの部屋に繋がる重厚な扉を開ける……、前に。
ゲームではできなかった事しちゃいましょ!
というわけで先にセラから出来る限りのバフを掛けて貰いまして、本来戦闘中しか使えない『聖属性付与』のアイテムを愛用のレイピアに使いましてぇ、完全武装完了! うん、オッケー! これで後は扉開いた瞬間にリッチに飛び込むだけですわ!
……およ? なんかこの扉。若干もう開いちゃってるような気が……。
まぁいいか。んじゃ突入ですわー!
「よい、しょっとッ!」
先日のボス戦と同様に、ボス部屋への扉を蹴飛ばしながら中へと突入します。
そして駆けつけ一杯代わりに行うのは、『聖属性』を付与した槍の投擲。
扉を蹴飛ばした時の足で大きく踏み込み、そのままボスらしき陰に向かって全力で投擲しますが……。
金属音。
槍がぶつかったのは、本来そこにいるはずの骨ではなく、
黒く濁った筋肉の塊。
【ほぅ?】
「ッ! お下がりくださいッ!!!」
私よりも何倍も素早くベリアンヌが動いたと思えば、瞬きの間に敵へと槍を叩き込んでいる彼女。しかし相手の身体は想定より固いらしく、彼女の突きをもってしても肉体を貫くことは出来ません。そしてベリアンヌが私の前に立ったことでようやく、ここにいた存在を理解します。
本来ここにいるはずのない、バケモノ。
大きく伸びねじ曲がったヤギの角に、黒紫に隆起した鋼鉄の肉体。毛皮に包まれた下半身の後ろから伸びる、特徴的な尻尾。
原作である『すいらび』でも後半の敵として出て来た、上級悪魔です。
【ふぅむ。その仮面の人間は、貴族か。匂いで解る。】
「黙れッ!」
【して、この槍使いが従者、と。なるほどなるほど。……良い機会だ。既に喰ったが、契約を守ってこその悪魔。神などに仕える羽虫もいることだ。デザート代わりに“分けて”楽しむとしよう。】
その瞬間、私とセラフィナを包み込むように現れる、足元の魔法陣。
色と形状から、確実に“転移”が組まれたもの。即座にこの場から離れようとしますが……。セラちゃんが、反応出来ていません。
このままでは、彼女1人だけ。
考えるよりも早く肉体が動き、逃げるために踏み込んだ足を彼女の方向へと切り替え。“飛んだ”先で逸れぬように、そして安全を確保するために抱き着いた瞬間。
私達の視界は真っ白に塗りつぶされたのでした。
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