29:ボスめざしますわ!
「よし! じゃあ探索再開していこうか!」
「畏まりました。」
「はい! がんばりま~す♡」
ということでダンジョンから逃げ出してから数日後。
護衛の皆さんの中で諜報に長けた方々から『王子主人公共に確実に学園にいる』という確証を得た私は、再度ダンジョンへと戻って参りました。いやはや、あの時は一体どうなる事かと。生きた心地がしませんでしたわね。
いや、いいんですのよほんと。あの二人が仲良く攻略を進めてくださるというのは。
まだ恋仲にはなっていないでしょうが、両者の好感度が上がればこっちのもの。原作という私の知るストーリーのように物事が進み、晴れて婚約破棄からの新王妃候補の誕生。お二人は幸せになって、私は厄介ごとから解放される。これほど素晴らしいことはございません。
というか私だけでなく、王子も真に好いている方と婚約できるわけですし、主人公も好きな人と結婚できる上に王妃にまでなれるのです。三方よしという言葉はこのためにあると思うほどですわ。
(でもね、今出会っちゃうとすごく不味いんですの。)
まずですが、自身の正体がバレる可能性が極端に跳ね上がります。
服装や『隠蔽』の仮面など、思いつく限りでこの身の正体を隠しているわたくしですが、それでもバレる時はバレます。ならば出来るだけ接触を避けるようにしなければなりません。一瞬他人の振りをすることも考えましたが、今私が出来る男性の声は『ヴァル』のモノのみ。そう上手くは誤魔化せないでしょう。主人公ちゃんに対し『ヴァル』として接触してしまったことや、セラちゃんとの関係もあるのです。このままでいくしかありません。
ま、早い話。こんなところで出会いたくなかった、ってことですわね~。
(にしても、二人とも復調してほんと良かったですわ。)
先程元気に返事を返してくれた二人へと目をやります。すると帰って来るのはベリアンヌこと『アンヌ』からの深い頷きと、セラフィナちゃんからの黄色い歓声。先日逃げ帰った時は両者ともにちょっと様子がおかしかったのですが……。今では元通り。無事元に戻ってくれた感じです。
でも、何だったんでしょうね? アンヌの方は受け答えもままならない程に思い悩んでいましたし、セラちゃんの方は返答が帰って来たとしても心ここに在らずという感じでした。今現在観察してみても異常はなさそうですので大丈夫かとは思うのですが……。気にかけておくことに致しましょう。
「して、若様。今日はどのあたりまで行かれますか?」
「セラちゃんの時間にもよるけど、出来るだけ深くまで。可能だったらこの迷宮を踏破するぐらいまでは行きたいかな。」
「あ、全然問題ないです! 丸一日、ず~っと空いてますよ♡」
「それは良かった。」
そう言いながら、この迷宮の地図を広げます。
原作の「すいらび」では自身が取ったところを自動でマッピングされる機能があったため、特に苦労することは無かったのですが……。この世界にはそんなものありません。ということで全部自分でマップを生み出す必要があるのです。ですがこの『鼠と死者の迷宮』は初心者用ダンジョンと同じく、攻略者が多い迷宮となっています。つまりギルドなどでお金を出せば、ほぼ完ぺきな地図を手に入れることが出来るんですよね。
(初心者用ダンジョンと同じく、隠しフロアの描写はされていませんが……。)
これさえあれば、一直線でボスまで向かうことが出来ます。
本音を言えばそのすべてを調べながら練り歩くように進みたいんですがね? 実はちょっと考えていることがございまして。ダンジョン観光は自分一人でも問題なく潜れるよう成長するまで取っておこうと思っております。強くなってどんな魔物も蹴散らせる様になった後、の~んびり探索するってわけです。
それで、『考えていること』は何かと言いますと……。
(そ、レベリングです。)
現在私たちは多少の強さ。最下級職を抜けた下級職に付いていますが、分類的には雑魚に当たります。ベリアンヌは普通に強くて例外なのですが、この身もセラちゃんもちょっと足りないなーって感じです。もちろん当分このままでも大丈夫だとは思うのですが、少々懸念がありましてね?
(なーんか逃げ出したのがいるっぽいんですよねぇ。)
20億借金シスターことセラフィナちゃん関連の話になるのですが、以前私は裏社会にいる金貸し達を一網打尽にいたしました。彼女にお金を貸していた者たちを検挙し、牢屋に叩き込んで差し上げた感じですわね。
まぁここは我が領ではなく王都なため、その後始末などは全て衛兵の皆様や軍部の皆様にお願いしたのですが……。どうやら手違いで何人か逃がしちゃったそうなのです。いやまぁ、急に大量の犯罪者を送り付けられた上に、裏社会に関与していた貴族の何人かもプラスで持って行っちゃったわけですから、そうなるのも仕方のないことかもしれませんが……。
“逃げた”者たちが、現在私に抱き着いて胸を押し付けているセラちゃんに向かっていく可能性があります。
(彼女の多額の借金を肩代わりして、立て替える時にその居場所をあぶり出しましたからねぇ。)
作戦に参加した皆様にはバレないように指示は出していましたが、何事にも例外というのはあるのです。警戒するのに越したことはありません。私の傍に付く護衛の皆様が普段よりも増えていることが、その証となるでしょう。しかしながら……、セラちゃんは違います。
彼女は私の趣味友達にして仲間ではありますが、護衛対象ではありません。
私の傍にいれば一緒に守ってもらえるでしょうが、シスターでもある彼女は教会でのお勤めもございます。そんな彼女の普段の生活までを護衛して頂くのはちょっと難しいため、自衛して頂く必要があるのですが……。今のままでは難しいでしょう。支援役としては一流かもしれませんが、踏み込まれて接近された時に対処できるかと聞かれれば、NOです。
ま、そのためレベリングして強くなっちゃいましょうねーって話です。
(次の迷宮には、レベリングに最適な魔物が出てきます。それを集中的に倒していけば私も強く成れるし、セラちゃんも一人で大丈夫になるまで強く出来る。)
うんうん、完璧な作戦ですわねっ!
お二人に説明できないことを除けばですがッ!
……いや、ね? この世界の一般的な価値観ではそもそも『レベル』という概念が無いんですよ。だって今の所私しか見れませんし。コマンドを日本語口頭入力する必要がありますし、伝えたとしても私がおかしくなったとした思われないわけでして……。
はい、なのでいい感じに誤魔化しながら『次の迷宮』に行きたいとだけお伝えします。
「と言う感じなのだけど、大丈夫かい?」
「はーい♡ もちろんです♡」
「だから若様にくっつくなと言ってるだろうが借金女! 離れろッ!」
「いやでーす♡ だってヴァル様の御傍が一番落ち着くんです。いいですよね、ヴァル様♡」
「あ、あはは。とりあえず戦闘の時は離れてね、うん。」
うん。まぁちょっとアレですけど了承は取れたのでよしということにしておきましょう。
にしてもコレ、傍から見たらどう映るんでしょうね。主人公が『私も入れてくださいっ!』って言ってきた時に『もう他の人がいるからダメです』みたいな返答が出来るように、って意味でも仲間集めしたんですけど。マジでなんて思われますかね?
……と、とりあえず気にしないようにしますか!
「っと、敵だね。セラ、準備するから離れてね?」
「了解です♡」
「まったく……、若様。解っているとは思いますが、毒に注意してくださいね。」
もっちろん!
さ、楽しんでダンジョン攻略。再開ですわ~!!!!!
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