28:別視点、王子3
「へー! 王子様も大変なんですねぇ。あ、でも私! 応援してます! そのヴァネッサ様との関係!」
「ありがとう。……にしても、驚くほどすぐ適応しているね、君。一応私、王子だよ?」
「え、ダメでしたか!?!?!?」
「い、いや。駄目じゃないよ? 友達のように接してね、って言ったのは私だし。ただ声は抑えてくれると嬉しいかな、うん。」
言葉を交わしながらも、ダンジョンへと進む一団。
そう、王子一行+原作主人公である。
自身の婚約者であるヴァネッサに嫌われたと思った王子ことルシアンは、より自身を磨きヴァネッサに認めてもらうためダンジョンを巡りながら鍛錬を行おうとしていた。彼女が体を動かすことを好むゆえに、同じ趣味を持てば見直してくれるかもしれないという考えだったが……。
肝心の彼女はそもそも王子に興味なし。
というか王子が彼女自身のことを好きだと全く気が付いていない上に、原作主人公であるノエルに擦り付けようとしている始末。もしここから奇跡的に上手くいき、王子のラブが伝わったとしても『原作シナリオ』の都合上絶対に恋仲になろうとはしないのがヴァネッサである。
つまり何があろうとも王子に靡くことはないので無駄な努力でしかないのだが、ともかく彼は張り切って鍛錬を続けていた。
(徐々にだが、確実に強く成れている。王に戦士としての役割は求められていないだろうが……。)
この世界の元となっている『すいらび』というゲームにおいて、王子はかなり優秀なキャラクターだった。
初期ステータスや成長率が貧弱よりなヴァネッサとは違い、初期から強く成長率も全体的に高い。オールラウンダータイプであるため器用貧乏になりそうなところを、単純なスペックで塗り替えてしまうような存在が彼だ。まぁそんな王子が初心者用ダンジョンに苦労するわけもなく、あっさりクリアした彼はその次。『鼠と死者の迷宮』へと足を踏み入れていた。
そしてそんな彼の脳内に映るのは、自身が愛する婚約者を守る姿。
素のヴァネッサを知っていれば『いやあの人守られるどころか、自分から突っ込んでいきますよ?』と言われる性格であるため、完全にあり得ない情景なのだが……。ヴァネッサの鉄面皮しか知らぬ王子には、仕方の無いことかもしれない。
(やはり好いた女性を自身の手で守れる、というのは憧れるものがある。それに強い方がヴァネッサに安心を感じてもらえるだろう。事実、女性側に聞いてみた所そういう者が多かったし。)
王子としての公務もある彼だが、未だ学生。他の王族と比べ比較的時間がある彼は、鍛錬のみならず学園にて女生徒との関りを増やし始めていた。
一瞬浮気を疑われそうなものだが、これもひとえにヴァネッサのため。体調不良と言っているのに勝手にお見舞いに行ってしまったりなどの行為を反省し、今後同じようなことを起こさぬために女性の心理などへの理解を深めようとしているのだ。
そしてそんな時に聞いたのが、『物語の騎士様のように守ってほしい』というもの。
何れ王となる彼では少々難しいどころか、彼自身が守られるべき存在なのだが……、何人もの生徒が憧れるという意見を述べた上に、好みではないといった生徒でも憧れる理由は解るという意見を述べていた。ヴァネッサが全く同じであると王子も断定しているわけではないが、いざという時守り切れるだけの強さはあった方がいいだろうと彼は考えていた。
(しかしダンジョン攻略とは面白いものだな。このような出会いがあるとは。)
「それでですねー! 私、仮面付けてる人探してるんです!」
「ほう?」
原作であれば、入学式の後に出会っていた二人。
同じ学園に通っていると言えど、王子と平民の小娘という身分の差があり過ぎる2人である。不登校ゆえに学園のことをほとんど知らないヴァネッサは勝手に『王子ルートを進んでいれば、そろそろイベントの一つや二つ熟してるでしょうねぇ。』と思っていたが、実際はこれまで一度も顔を合わせたことは無かった。
けれど何の因果か、ダンジョンで顔を合わせ共に行動している2人。
「仮面の人、それがさっき言っていた『ヴァル』という人物かい? 確か……、掲示板に募集をかけていた。」
「そうですそうです! でも私、あの時名前だけ聞いて名乗るの忘れてて……ッ!」
「書類選考で落ちた、というわけか。じゃあ今度はちゃんと名乗らないといけないね?」
「はい!!!!!!!!!!!!!!!」
「……本当に声が大きいな、うん。」
まぁ何故出会ったかと言うと単純で、王子の護衛達を見た主人公ことノエルが『ヴァルさんの護衛さんかも!』ということで突撃。行動力とタフネスの化身とも呼べる彼女は勘と勢いだけで護衛を振り切り、王子の元まで辿り着いちゃったのだ。
しかしまぁそこにいたのはノエルの想い人ともいえる『ヴァル』ではなく、この国の王子。
違う人!? と彼女が思ったときにはもう遅く、即座に取り押さえられてしまったのだった。
ヴァネッサの時同様、勝手に貴族の護衛を振り切って接近したのである。通常ならばその場で処刑なのだが……。その名前と『今年は学園に平民が入学して来る』ということを知っていた王子によって取りなされ、なんやかんやで一緒に冒険することになったのである。
「ところでだが……。それ、良かったのかい?」
「え? あぁこれですか? 別に大丈夫ですよ!!!」
首元を飾る小さな宝石を指する王子に、『かわいくないですか?』と逆に問いかけるノエル。
現在彼女の首には魔法の掛かったチョーカーが纏われているのだが……。これは彼女は自分で買ったものではない。王子の護衛達によって用意され装着されたものであり、王子に敵対的な行動をした時点で頭部ごと爆発するようになっている。
何せ王子の護衛達からすれば。襲撃者っぽい奴と一緒に王子が行動するなんてNOとしか言えない。だからこそ王子が『せっかくなら冒険しないかい?』と問いかけた時に、条件として提示したのが爆弾チョーカーである。通常の感性であれば、即座に身を引きそうなものだが……。彼女は違った。
『暗殺者に思われるなんて不服です! 身の潔白が証明されるまでずっとつけてます!』と快諾してしまったノエル。通常そんなことをされれば委縮するものだが、何も気にせずいつも通り大声で楽しくお話しているあたり、その“度胸”が主人公には必要なのかもしれない。
(にしても、ヴァネッサに似た字を書く仮面の男性か……。偶々似ていただけか?)
楽しそうに『ヴァル』のことを話すノエルの話を聞きながら、同時に思考を回す王子。
字が似ており、同時に名前の最初も類似している。一瞬だけヴァネッサに関わる様な人物、それこそ配下の貴族の誰かと考えた王子だったが、すぐにその思考を隅へと追いやる。もしヴァネッサの配下の存在であるのならば、わざわざ似たような名前は使わないし、字も似せる必要などないのだ。むしろ本人に迷惑を掛けることを考えると逆に避けることだろうと、彼は考える。
(となると、ヴァネッサへの嫌がらせか?)
王子はヴァネッサが大病を患っているという虚偽を真実として全く疑っていない。だからこそ彼が考えるのは、『これを機にヴァネッサの家の力を落す』という他貴族による工作である。それを裏付けるわけではないが、直近では本来“動いていない”はずの軍部や治安維持部隊が“多数の犯罪組織を壊滅させた”という不思議な報告があった。
(確かに治安の向上は良い。だが不明瞭な点が多すぎる。確実に何か隠されているはずだ。もしかしたら未来の王妃であるヴァネッサが不調なのを良いことに、自分たちに都合の良いものを私の婚約者に添える。……そのようなことを考える者がいても、おかしくはない。)
彼をもってしてもその全貌を伺い切ることは出来ないが、何かしらの陰謀が王都で行われ始めているのかもしれないと考える王子。
まあ実際は大体ヴァネッサのせいであり、不登校してダンジョン潜ったり、仲間にしたギャンブルカス女の後始末をするために奔走しただけなのだが……。何も知らない王子からすれば、邪推してしまうのも仕方のない話かもしれない。
(……まぁ細かい所は王城に帰ってから詰めていこう。比較的難度の低いダンジョンとはいえ、何があるか解らないのだ。関係のないことを考えている場合ではない、な。)
「あ、なんか足音しますよ王子様!」
「む、魔物か? とりあえず戦闘準備しながら進もうか。」
装備を整えながら、進んで行く彼ら。
しかし辿り着いた先には魔物どころか何もいず、首を傾げることになるのだが……。
それはまた別のお話。
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