27:危機ですわ!
「『速度上昇』『攻撃力上昇』」
「良い支援、だねッ!」
男性の声色を意識しながら、敵に突っ込みます。
事故の可能性もあるので戦い方は男性を意識したものではなく、私自身のものに戻していますが……。支援者の腕が良いのでしょう。各段に動きやすくなった肉体で、敵に切り込んでいきます。
現在相対している相手は、大型犬レベルの鼠が3体に、ゾンビが1体。
そのどれもが初心者用ダンジョンで戦っていたコボルトよりも強く、厄介な相手。しかも両者ともに牙に毒を持っているという厄介仕様です。普段のわたくしでは2体相手で結構ギリギリ、といった所。4体ともなれば即座に撤退か、前と後ろを抑えてくれている護衛の皆さんの出番なのですが……。
(あはー! 普通に行けますわーッ!)
足元にいる鼠を顎から全力で蹴り上げながら、レイピアを投擲することでゾンビの頭にクリティカルヒット。敵2体の動きが止まっている間に背負っていた弓を引き絞り、その鏃へと火属性付与。真っ赤に光る火の矢が鼠の脳天に突き刺さるのを見ながら、槍を構えます。
うんうん! やっぱ支援魔法は最高ですわね!
掛けてもらうのは初めてですが、本当に体が動かしやすいですわッ! 無論彼女の腕が良いというのもあるでしょうけど、サポート役がいるだけでこれほど戦いやすいとは! 支援の重要性を考えさせられますわね……!
さ、残りの敵は1体のみ! さっさと槍で突き刺して……。
あら? 前にいませんわね。
「『若様』、抜かれております。」
その声で背後を振り返ってみれば、鼠を槍で一刺し。一撃で絶命させている私の護衛、ベリアンヌの姿が。あ、あちゃ。やらかしちゃいました? で、ですよね。うぅ、前衛職に就いてるのに敵を後ろに逃がしちゃうなんて! 一生の不覚ですわ~!
「正直そこの借金女がどうなろうが構いませんが、前衛は壁としての役割も求められます。チームの崩壊に繋がりますのでご注意くださいませ。」
「でも守ってくださるなんて、アンヌ様はお優しいんですのね! あとヴァル様~♡ カッコよかったです~♡♡♡」
「あぁうん。ありがとうセラ。それとごめんね、『アンヌ』、」
わたくしに黄色い声援を送って来るセラこと20億借金シスターを程々にあしらいながら、舌打ちする百合騎士ベリアンヌこと『アンヌ』に礼を言います。
ちょ、ちょっとはしゃぎ過ぎたせいで一匹後ろに逃しちゃったみたいですわね。前衛としては致命的ですし、気を付けなければなりませんわ。……と言っても、さっきの攻撃は自分の中でも最上の出来。これ以上を目指すとなると、溜めてるSPを放出するか、戦い方を変える必要があります。
SPは何かあった時の為にためておくつもりなので、やるなら戦法の変更。メイン武器を変えるか、手数を増やすために投げナイフとかを導入するか。……う~ん、どっちにしろ大幅な改革が必要そうですわね。そうすぐに出来るとは思えませんわ!
「しかしですが……、冒険者という6人チームで活動する前衛としては十分かと思われます。」
「あれ、そうなの?」
「はい。魔法や遠距離主体のパーティでも、前衛職は2名。そして閉所での戦闘が多いことから、対処を求められる敵は多くても5体でしょう。2名で5体を相手するわけですから、何か大きく変える必要はないかと思われます。」
成程……。確かにゲームでも、多くて敵は5体まででした。現実となったこの世界でもそうとは思えませんが、一応及第点はもらえているのでしょう。なら特に大きな変更はせず、地道に強くなった方が良いのでしょうね。
「はいはーい! ヴァル様! 私もそう思いまーす♡ ……何か付け加えるとすれば、手放した武器でしょうか? 人型の魔物や、相手が高い知性を持つ相手となると、手放した武器を利用される可能性もあります。投擲した武器を味方が使うことで連携へとつなげることも出来るでしょうが、取り扱いに注意した方が良いかと。……はい! そんな感じですー♡」
「…………貴様、普通に喋れるのか。」
「うん、僕もちょっと驚いてる。」
「そんなッ!?」
小声で『ラブラブしゅきしゅきな感じより、知性溢れる感じの方が刺さるのか? いやたまに出した方がギャップが出来て良い感じ……?』と言っているセラちゃんを無視しながら、さっき彼女が言っていた言葉を反芻します。
確かにこれまでの相手はそこまで賢い敵ではありませんでしたが、今後はそう言う敵が増えてくるでしょう。そもそもわたくしがやっている武器の投擲自体が、ゲームではあり得なかった挙動です。私がそれをしている以上、相手が同様のイレギュラーを起こしてくるのが“ない”とは言い切れません。
今後はちょっと注意しながら戦ってみることにしましょう。
「まぁとにかく、今日は自身が付いているのです。ぜひ様々な戦い方を模索してくださいませ。何かあったらすぐに割って入りますので、若様は何も考えずお楽しみ頂ければと。」
「ありがとう、アンヌ。」
「ヴァル様ヴァル様、ちょっとお耳いいですか?」
ベリアンヌにそう礼を言いながら先に進もうとすると、何故かセラちゃんがこっちに近寄りながら手招きしています。その問いに応えながら耳を彼女の口元に近づけると、うまーく胸を押し付けながら小声で話しかけてきます。……いやほんと凄いですわね。ハニトラの講習でも受けて来たのか、って位の自然さ。逆に感心してしまいます。
「あの、参考までにお聞きしたいんですけど……。アンヌ様ってどれぐらいお強いんですか?」
「彼女? あ~、そうだね。僕が5人いても勝てないぐらいかな?」
ベリアンヌですが、我が領地のとある商人の生まれです。長女らしいですし、おそらく彼女のご両親としては良い所に嫁いでもらうつもりだったんでしょうが……。あの性格でしょう? 縁談が来ても相手さんに引かれて上手くいっていなかったみたいなのです。
そこをたまたま視察しに来ていた私が見つけて、面白いからという理由で引っ張り上げたのが始まりになります。商人としての教育を受けているみたいでしたから最初はメイドとか事務官の仕事を割り振ろうかと思ってたんですけど、『私に恩を返す』ってことで騎士団に飛び込んでそのまま私の護衛にまでなっちゃった子なんです。
「そしたらあそこまで強くなっちゃって……。うんうん、スカウトした身からすればこれ以上ない恩返しだよね。だからまぁこのダンジョンでケガすることはないだろうから、安心してくれると嬉しいな。」
「……はい! もちろんです♡」
一瞬なんか考え込んだ後、すぐにハートマークを送って来るセラちゃん。
おそらく彼女の頭の中では、一瞬で『何が最適か』ってのが計算されていたのでしょう。
彼女にとって、借金を立て替えてもらったとしても死の危険性があるのなら逃げるのが普通。この子、タイプ的には結構人でなしな感じですから、もし危険があるのならば私達を置いて真っ先に逃げたことでしょう。
ですがまぁ、『彼女も理解している通り』わたくしたちの周囲は護衛の皆様が囲んでくださっていますから逃げることは出来ませんし、今の所逃げない方がオトクです。なにせ仲間として一緒に冒険するだけで借金が減っていきますし、私からお小遣い貰えるような『雇用形態』にしていますからね。こちらが利益を生み出し続ける以上、『対等』に動き続けるでしょうしわたくしとしては結構好ましい部類。
(部下としては『傍に置かず少し離れたところで管理する』のが最適かと思いますが、今回は仲間。もっといえばパーティメンバーですからね。)
ちょっと面喰らいましたが彼女の好き好きムーブも見ていて面白いですし、こちらが利益を生み出し続ける以上対等でしかもドライな関係を築くことが出来るのが彼女です。グレタやベリアンヌなどの配下の皆様からすれば、あまり面白くない人間でしょうが……。
私が気に入ったからヨシ、ですわ~!!!
「よし、じゃあ休憩もコレぐらいにして、先に進もう……。」
感じる、違和感。
そして全身から溢れ出てくる、何か。
私の近くに、自身のすべてを破壊しうる存在が近づいてくるような、そんな感覚。
急いで前を行く護衛たちの方に視線を向ければ、慌てながらこちらに指示を飛ばしてきてくれている。
あの手信号は……。
主人公と、王子?
は、何で一緒にお前らここにおるん?
あ、でも。良い感じにシナリオ進めて王子ルート進めているのならそれで……
いやそんな場合じゃないッ!?!?!?
「セラ、ごめんッ!」
「ぇ」
急いで彼女を抱え上げ、ベリアンヌの元へ。
私より早く指示を受け取っていたのであろう彼女は、既に『帰還』の魔道具を起動し終わっており……。私達3人がその場に集まった瞬間、転移。何とか、ダンジョンの外へと逃げることに成功したのでした。
「ご、ごめんねセラ。ちょっと色々あって……。」
「ぇ」
「セラ?」
「……ぁ、あ、いえ! なんでもありませんヴァル様!」
「そう? それならいいんだけど。」
なんか反応がおかしいですわね? 急いで逃げるために慌てて抱えちゃいましたから、どこかぶつけてしまったのでしょうか? ま、それならご自身で回復できるでしょうし、放っておいても大丈夫でしょう。……あれ、ベリアンヌどうしたんですかそんな信じられない様な眼をして。
あ、そっちも何でもない? どっちかと言うと信じられないのは自分の眼と感性?
……うーん、ちょっとアイツらのせいでリズムが狂っちゃったんですかね? まぁ私達のダンジョン攻略は趣味そのものですし、調子が悪い時にわざわざするようなものではありません。今日はおしまいにして、さっさと逃げることに致しましょうか!
次回は王子&主人公視点になります。ヴァネッサ様が恐れる黄金タッグ結成ですね。




