21:逃げますわ!
大変申し訳ございません、本話(21話)が抜けてしまっていることに今気が付きました。
腹を切ってお詫び申し上げます……!
え、どうしよどうしよどうしよ。
この前もだけど、こんなところで主人公ちゃんと出会うなんて欠片も考えてなかったから心の準備がッ!
え、えっと。まず今変装して顔隠してるから大丈夫でしょ。そもそもヴァネッサとして出会ったことは無いから私を連想することはないでしょ。あぁでも学園の生徒であるのは確かだから、何かの弾みで彼女が『私』のことを話題に出してそこから発覚するってことも! つまりやっぱりまずい状況ですわッ!
(お、おわーッ! と、とりあえず目の前の危険物。前からやって来てるゾンビさんをコロコロしますわッ! あとそのわずかの時間の間に今後の方針を思いついてくださいまし私の脳みそッ!)
即座に体の動かし方を『男性のもの』へと切り替えながら、ゾンビの処理へと動きます。
社交会などで使うダンス。その男性役の動きや、鍛錬の時に見る男性の動き方を意識しながら、一撃を持ってその魔物を破壊しますが……。頭の中はしっちゃかめっちゃかです。
え、えっと! まず名前呼びされなかったことから『私=ヴァネッサ』というイメージを彼女が持っているわけではありません! つまり『私=仮面の知らない男性』で行けてるはず! ここから私がすべきなのは、『勘違いをそのままに適当に会話を切り上げて逃げる』のみ!
た、確かに変装してるし顔隠してるし、彼女の前じゃちょっと声色変えて男性っぽい話し方してましたし、これからもしますけど! そもそも私、体調不良って言ってズル休みしてる身なのです! これバレたら家の品位が疑われてマジヤバい奴! あと普通に彼女に関わりたくないッ!
殿下あげるのでストーリーは勝手に進めてくださいまし~!
「ごめんね。近くに魔物がいたものだから。それで……、あぁこの前の。」
「…………すごぉ。」
半ば勢いで、声色を出来るだけ男性のものへと切り替え、『ヴァル』として話しかけます。えぇ一人称が『僕』の『冒険者としてのわたくし』ですわね。
一応何も覚えてないってのも出来たのですが、流石に失礼かと思い『間違って護衛が襲い掛かっちゃったけど、盗賊騒ぎとして処理された一件』のことを思い出したかのようにふるまいながら、軽く挨拶をしてみますが……。なんか固まってますわね。も、もしやもう正体がバレたのッ! こまるッ!
「い、今の! どうやったんですか!? ばびゅーんて突っ込んで! 気が付いたら魔物やっつけてた! すごいすごい! とってもすごいです!」
「……あ、あはは。喜んでいただけて何より、かな?」
あ、あぁそういう……。な、なら良かったですわ。
あとその言い方は他の方に言ってあげてくださいましね? 確かこの前言ってた将軍の息子さんを攻略する時、そんな言葉を使っていたはずでしたし。あ、でも。私のお勧めは王子ですわよ。何せゲームで存在していたライバルが全力で後押ししてくれるのですから。
……でも、悪い気はしませんわね。普段の戦い方とは違いますが、この身が覚えた鍛錬の結果を褒めて頂けるのです。公爵令嬢という立場を考えれば全く必要のない『趣味』の部分を褒められたのです。嬉しくないわけありません。ま、
殿下の前で耐えず微笑みを浮かばせ続けた鉄面皮を持つこのわたくしが、この程度で崩れることはないのですが。
そんなことを考えていると、ようやく何しに来たのか思い出したのでしょう。身振り手振りで私の凄さを訴えていた彼女の動きが、変化します。
「そ、そうだ! お礼しに来たんだった! あ、あの……。」
「名前ですか? 『ヴァル』でいいですよ。」
「あ、はいッ! じゃあヴァルさんッ! この前は助けて頂き、本当にありがとうございましたっ!!!!!」
……う~ん、声でか。
ゲームでも描写されてましたけど、耳が吹き飛びそうな声量してますね。傷害罪で訴えれば勝てそうですわ。まぁ私が訴えちゃうと平民のこの子は確実に敗訴で死刑ですし、最悪護衛が暴走して首を刎ねに行っちゃう可能性があるのでしませんが。
っと、返答しないとですね。
「気にしなくて大丈夫。人として当然のことだからね。……まぁとりあえず、無事そうで良かったよ。」
「はいっ!!!!!」
「……あと声はちょっと小さ目に、魔物来ちゃうから。あぁそうだ。いい機会だし、これを渡しておこう。先達からのプレゼントだよ。」
本気で鼓膜を破壊されそうなので注意しながら、懐から取り出すのはアレ。
グレタが用意してくれた『武器に聖属性を付与する』アイテムです。自身のメイドが私を気遣い用意してくれた品なので、プレゼントしちゃうのはちょっと気が引きますが……。彼女が『ご自由にお使いください』と言ってくれてましたし、ここで一部使わせてもらうことにします。
先程から彼女を観察していましたが、どうやら本当に最小限の装備でここまで来たようで明らかにこのダンジョンの対策を行っていません。いやまぁ爆速でステータスが伸びるノエルちゃんの場合、特に用意なく突っ込んでも大丈夫なのかも知れませんが、ちょっと不安になるのも確か。『セーブ』という死んでもやり直すことのできる機能がない今、一つしかない命を大事に扱う必要があるのです。
(関わりたくないのは確かですが、死なれても困るんですよねぇ。タフネスの塊みたいな子といえ、もしものことはあるわけですし……。)
彼女は私に破滅を齎す存在ですが、同時に世界に平和を齎す存在でもあります。つまりストーリーを終わらせるまで、勝手に死なれたら困るんです。多分大丈夫だとは思うのですが、ちょっと支援してあげて生存率を上げた方が私の精神衛生的に良いでしょう。『これ上げるから関わらないで!』の気持ちで、手渡ししてあげます。
……あとですが、実はちょっと量が多くて重かったってのもあります。いやグレタがほんと大量に用意してくれまして、積載量オーバー気味だったんですよね。それに『使った』方がグレタも安心してくれることでしょう。心配して用意してくれた彼女に絶対に言えませんけど。
「これは?」
「『聖水』、武器に属性を付与するアイテムだよ。このダンジョンは属性武器が有効な敵が多いからね。使ってみるといい。」
「はえ~、そんなのがあるんですね! 頂きます!」
「それと毒を使って来る魔物もいるから、装備を用意したり、毒消しを用意してもいいかもね。」
始めてそういうアイテムを見たのでしょう。興味深そうに色々な角度から眺めている彼女にそう伝えながら、後ろ手でこちらを伺っていた護衛のみなさまに、『帰還』の指示を送ります。
えぇ、帰っちゃいます。
いやだって幾ら顔を隠していたとしても、あんまり関わりたくないのが主人公です。バレたら社会的にもストーリー的にヤバくなるのなら、少しでも関わる時間を減らすべき。だったらもう逃げ帰るに限ります。正直もっとダンジョン探索を楽しみたいところですが、身の安全には変えられないのですわ!
「ま、こんなところかな? じゃあ君もダンジョン攻略、楽しんで。」
「あ、はい! ありがとうございます!」
そう言いながら、ぱっと曲がり角へ。
即座に『帰還』のアイテムを起動させ、ダンジョンの外へと戻ります。ふ、ふぅ。これで何とかなりましたね。正直主人公との会話は精神がすり減りますから、もう会いたくありませんわ~!
「そうだ! ヴァルさん、一緒に冒険……、アレ???」




