そして別れの時
翌日。
「もう昨日は大変だったんだぜ」
「瞬一……さすがに今回ばかりは同情してやるぜ」
「お気づかいどうも。けど、そんなのはいらねぇよ」
俺達は話をしながら朝食をとっていた。
俺は昨日の決闘の話を。
晴信達は昨日の観光の話を。
「みなさん、今日には帰られてしまうのですよね?」
アイミーが俺達にそう尋ねる。
「はい。今日帰らなければ、いろいろ準備をしなければいけませんし」
「そうですか……」
少し残念そうな表情を浮かべるアイミー。
「そんな顔すんなよ、アイミー。別に今生の別れってわけじゃねぇんだ。また会えるって」
「……ですよね。死別するわけじゃないんですから、必ず会えますよね?」
「ああ!」
笑顔でそう言ってやる。
葵達も、俺の言葉に頷いていた。
「……私は、良き人達をたくさん得たような気がします」
「なんか、そう言われると照れるな」
そう言ったのは、葵だった。
右手で頭をかきながら、恥ずかしそうにそう言った。
「ま、そんときはアイミーンちゃんを俺のよ……」
「自主規制」
「ぐはぁ!!」
何やら不穏な言葉を言いかけた晴信をライトニングで防ぐ。
「大和君……これなんてどう?」
「う、うん。おいしいよ」
「(^-^)」
……あそこはまだやってるよ。
相変わらず変な空気だしてるな……北条の周りだけ。
「んじゃ、朝食も食べ終わったみたいだし、そろそろ俺達は行くとするか」
席から立ち上がり、俺はそんなことを言う。
「何だか早いですよね。時間が過ぎるのが」
空が、今日までのことを思い出しながらだろうが、そんなことを呟いた。
それについては、俺も同感だ。
楽しいことってのは、やっぱり早く過ぎてしまうものだよな。
「え?もう行くの?」
「何言ってんだよ。そのために荷物をここに置いてるんだろうが」
北条がそんなことを尋ねてきたので、俺はそう答えてやった。
そう、俺達は朝食を食べおえた後すぐに城から出られるように、荷物を食堂に持ってきてしまったのだ。
……別に早く帰らなければならないわけじゃないが、こういうのは早い方がいいだろう?
それに……また城なんて帰ってきてしまったら、それこそ帰りたくなくなってしまう可能性が高いしな。
「いっそのこと、この国で暮らしてみてはどうかな?」
「……国王、いくらなんでもそれは……」
国王のそんな言葉をやんわりと断り、俺達は荷物を担ぐ。
さっきのさっきまでピンクな雰囲気を醸し出していた北条も、慌てて荷物を持つ。
「さてと。晴信はここに置いてくとして……」
「ちょっと待て!何気にお前、俺のことをいらない的な発言してないか!?」
「え?違うのか?」
「当り前だろ!確かにこの城にいたいが、それは違うぞ!!」
「……やっぱり持って帰って、別の所に……」
「処分か?処分されるのか?処分する必要がどこにある!!」
お前が人一倍変態だからだよ。
という言葉は飲み込んでおいた。
「アンタが人一倍変態だからよ!」
北条が代弁してくれた!?
「男が変態で何が悪い!!」
開き直った!?
コイツ、ある意味言葉の使い方がうまくなってやがる。
「……ハァ」
最終的には北条が溜め息をついてしまう始末。
そして、
「(*_*)」
この表情である。
葵も、今の発言を聞いて、晴信のことを軽蔑の眼差しで見つめていた。
「そんな目で……俺のことを見るなぁあああああああああああ!!!!」
荷物を放置して、晴信は勢いよく食堂から出ていった。
……せめて荷物は持っててくれよ。
「そんじゃ、俺達も行くぞ」
「だね」
晴信の後も追わなくてはいけないこともあり、予定よりは若干早いが、俺達も出ることにした。
「んじゃ、アイミー……またな」
「……はい!」
最後の別れってわけじゃないから、『さよなら』とは言わない。
これ、友達と別れる時の基本……でもないけど、なんというか、礼儀?
「何してるの瞬一?置いてくよ~!」
「今行くっての!」
葵に呼ばれて、ハッと思考を呼び戻す。
そして俺達は……二泊三日という、決して長い間いたわけではない城に、別れを告げた。
……そういや、結局見合いはなかったことになっちまったみたいだな。
少々残念……かね。




