黒いオーラ……?
「ハァッ!」
奴の腹に峰打ちを決めてから、俺は思い切り刀を振り下ろす。
苦しそうにしながらも、メルゼフは反撃をしようとする。
だが、それよりも俺は早く……。
「……これで終わりだ」
喉元に刀を突き付ける。
この後、どう動いても、メルゼフが俺に勝つことはない。
なぜなら、俺はメルゼフの後ろに周り、刀の刃の部分を、喉元に突きつけている形だからだ。
「……」
「これで俺の勝ちだ。どう動いた所で、お前は喉を斬られて死ぬぞ。潔く負けを認めろ」
「……」
俺が何を言っても、メルゼフは黙ったままだった。
……早く負けを認めろよ。
「……私は」
「ん?」
その時、メルゼフが口を開いた。
「……私は、こんな所で負けるわけにはいかない」
「は?何を言ってんだよ。この状況下で降参しないのは、勝負を放り投げてるのと同じだぞ?」
「勝負?……そんなの関係ない」
「あん?」
元々この決闘は、メルゼフが言いだしたことで、アイミーを賭けての戦いじゃなかったのか?
「もうそんなのどうでもいいんだ……私はただ、アイミーンと共に暮らしたいだけだ。そのためには……君はどうしても邪魔だ!!」
「え……ちょ……」
な、何なんだ!?
メルゼフが黒いオーラに包まれてる!?
こんな状態……見たことないぞ?
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「おいおい、ちょっと待て……よ!?」
叫び声をあげたかと思うと、メルゼフはその場から消え去っていた。
……ちょっと待て、あの状況から脱出したってのか?
「シュンイチ!後ろです!!」
「え?……うわっと!!」
素早い突きを繰り出してきたメルゼフの攻撃を、慌てて避ける。
……何だ?
スピードが先ほどの物の比じゃないぞ……!!
「ハァッ!」
そして、たった今攻撃を避けたばかりの俺に、メルゼフが仕掛けた攻撃は、
「え……魔術!?」
「ウォラ!!」
何と、黒い弾を俺に向かって撃ってきたのだ!!
……コイツ、決闘のルールを自分から破ってきやがった!!
「くそっ!……あらゆる害から身を守る不可視の壁よ。我を守れ!!」
相手が魔術を使ってきたのなら、こっちだって魔術は使えるはず。
俺は結界を発動させて、メルゼフの攻撃を打ち消す。
「ガァアアアアアア!!」
「……」
様子がおかしい。
先程までの戦闘スタイルを見ていても分かる通り、コイツにはある一種のプライドがある。
そのプライドは、決してルールを破らせることはなかった。
けど、今ではどうだろう。
……プライドどころか、自我すらもってない……まるで獲物を狩る獅子みたいだ。
「ヅァッ!」
「……聖なる雷よ、我が右手に宿れ!」
再びメルゼフが黒い弾を撃ってくる。
俺はそれに合わせて、ライトニングを放つ。
真っ直ぐに伸びていくそれは、黒い弾を巻き込み、その場で爆発した。
ドン!と言う音と共に、爆発の影響で発生した煙が、辺りに充満する。
相手が油断しているこの瞬間に、意識をぶっ飛ばす―――!!
「グァアア!!」
「あぐっ!」
だが、動きは相手の方が速かった。
俺が攻撃してくるだろう位置を予測して、先に攻撃体勢に入っていたのだ。
「……!!」
「くっ!……」
後がない。
こんな状態から攻撃を受けたら、俺はやられる。
自分が負ける可能性を考えていたら、
「舞え、疾風の刃!その刃を以て、彼の者を切り裂け!」
「!!」
何者かの詠唱が、この場に響く。
俺のものでも、メルゼフのものでもない。
風属性を好む奴って言ったら、
「……シュライナー!?」
魔術を放ったのは、シュライナーだった。
そして、風の刃は、メルゼフの体を……斬れなかった。
「なっ!?」
「ヴォラ!!」
続けざまに発動する、黒い弾。
だが、その数は一つだけではなかった。
「ちょっと待て!!あんなに撃ち込まれたら……ひとたまりもないぞ!!」
その数、およそ100。
空中に浮くその黒い弾は、俺とシュライナー目掛けて飛んできた。
「我が風よ、襲い来る外敵から我らを守れ!!」
「天より落とされし雷を味わえ!!」
俺とシュライナーは、ほぼ同時に詠唱をする。
シュライナーの魔術により、俺達の周囲に風が発動。
俺の魔術により、メルゼフの上空より落雷が発生する。
まともにそれを受けたメルゼフは、気を失ったのか……その場に倒れた。
「……シュンイチ!?」
……疲れた。
少し、寝かせてもらおう……。




