居合い
「これでも喰らいやがれ!!」
瞬一は、メルゼフに向かって叫びながら、喉元を突き刺しにかかる。
しかし。
「その攻撃は、私には通用しない」
「……?」
メルゼフは左に避けると、
「セィッ!!」
「うわっと!!」
瞬一は、襲ってくる剣撃を、しゃがんで避ける。
そして、下から上に斬り上げる―――!
「温い!」
メルゼフは無理やりその刀を叩き落とそうとする。
「ふんぬっ!」
が、何とか瞬一は耐えきる。
そして、メルゼフはその剣を腹部目掛けて振る。
咄嗟の判断で瞬一はこれを刀で受け流し、その勢いを利用して、一閃。
だが、
「!!」
メルゼフが後方に避けたので、その刀は虚空を斬ったに過ぎなかった。
「「……」」
互いに一歩も譲らない戦い。
いや、単純な剣の腕のみで判断してしまえば……メルゼフの方が上だろう。
「シュンイチ……」
遠く離れた所―――厳密に言ってしまえば、城の入り口付近で二人の様子を見ているアイミーンは、心配するような表情で瞬一の名を呟く。
瞬一は、俺を信じろと言っていた。
だが、アイミーンにとっては、どっちが勝とうが負けようが、関係なかった。
ただ……瞬一には、危険な目に遭って欲しくない。
決して、怪我なんてして欲しくない。
そう考えていた。
「心配はいらん」
「おとう……さま?」
突如、隣にいた国王が、アイミーンの肩をポンと叩き、そう言ってきたのだ。
「確かに、単純な剣術だけでは、メルゼフと名乗る者の方が上であろう……だが、想いの強さのみでは、シュンイチも負けてはいない」
「想いの……強さ」
「想いの強さこそ、力の差の次に勝敗を分ける物だ……覚えておくがよい、我が娘よ」
「……」
アイミーンは、ただ黙っているだけであった。
「(それにしても、おかしい……メルゼフは、我が息子だった者の名のはず。如何にしてこの者がこの場に現れるのだ?)」
我が息子だった者の名―――レイブンの心の呟きの中に登場したこの言葉の意味とは一体なんなのだろうか?
「うらぁ!」
そんなレイブンの心の呟きなど気にもせず(もとより、気に出来るはずもないのだが)、二人の戦いは続く。
「はっ!」
「とりゃっ!」
再び訪れる、ガキン!という衝突音。
相手にダメージを与えているわけでもなく、与えられているわけでもない。
体力のみが減っていく、この勝負。
瞬一は、少し息を切らしていた。
だが、それはメルゼフも同じことであった。
「いい加減倒れろ!!」
「それは私のセリフだ。おとなしく私の剣を受けて伏せろ!!」
キン!ガン!!ガキン!!!
右に、左に、真ん中に。
打ち合う二人は、それこそ本当に、正確に剣・刀の位置が置かれていた。
相手の剣がやってくる場所に刀を置き。
相手の刀がやってくる場所に剣を置く。
ここから先は、体力勝負でもあり……読み合いの勝負でもあった。
「(このままじゃ埒が明かない……次で決める!)」
「(……そろそろ決めないと、私の体力がもたない)」
お互い全力を出しての勝負だ。
考えることも、ほとんど同じ。
両者とも、次の攻撃で終わらせようとしていた。
「……む?」
攻めに出ようとしているメルゼフに対して、瞬一は何故か刀を鞘に戻すような形をとる。
「(勝負を放棄したか?なら、引導を渡してやる)」
メルゼフは、瞬一に戦う気がないと判断したのか、瞬一を両断するかのように、思い切り剣を振り上げて突っ込んでくる。
「これで終わりだ……!!」
「……」
瞬一は動かない。
ただ、棒立ちしているようにも見える。
だが。
「……」
「……む?」
スッと、瞬一は構えをとる。
少しメルゼフは考えるが、そのまま気にせず突っ込んでいく。
やがて、もう少しで瞬一を両断出来るかという所で、
「……!!」
瞬一が、動いた。
「なっ!?」
その構えは……日本人ではないメルゼフだからこそ知らない構えだった。
その構えの名前は……居合い。
そう、居合い斬りの構えだ。
メルゼフは上から剣を振りかぶろうとしている状態なので、どうしても隙が出来てしまっていた。
だから、その隙に瞬一は、
「ぐふっ!」
ドスッ。
峰で思い切り、メルゼフの腹部を斬りつけた。




