本当にコイツは何者だよ……
「ふぅ……」
部屋に案内してもらった俺達は、とりあえず夕食が準備されるまでは呼びにくるそうなので、部屋で待ってることにしよう……と思ったんだけど、
「落ち着かないんだよな、この部屋……」
如何せん、この部屋で落ち着いていられる自信がないんだよな。
豪華な飾り付け。
客間にしては広い部屋。
そして、フカフカのベッド。
「……夜は寝れそうだけど、今はな……」
昼間に、と言うか初めてこの豪勢な部屋に放り込まれた気分って、こんな感じなんだなと自覚した。
金持ちの奴らは、よくもまあ毎日こんな部屋で寝泊まり出来るな、本当。
「まぁ、今日からしばらく、あの部屋で寝泊まりすることになってるけど……慣れるかね」
とりあえず俺は、部屋の外に出て、城の中を散策することにしてみた。
晴信達の部屋に尋ねてみようとも考えたが……部屋の構造は一緒だろうと思ったから、やめた。
「しかし、でかい城だよな」
現在廊下を歩いているのだが、とにかく部屋が多い。
部屋が多い……というか、扉が多いというか。
「迷いそうだな……一応俺の部屋は覚えといたけど」
何しろ中の作りがあまり変わらない。
城というのは、そういうものなのだろうか?
そうしている内に、中央広場らしき所に出てきた。
……広いな。
天井にはシャンデリアが。
騎士を象徴したオブジェもおかれている。
……ここまでやるか、普通。
「……ん?」
ふと、俺はそこで誰かを見つけた。
黒い服を着ていて、黒い帽子を被った男。
……確か、展望台で見た男だな。
でも、何でこの城の中にいるんだ?
ここはグレイブスタン公国の王族の城だぞ?
一般の人が入っていい領域ではないはず。
……まさか。
「アンタ……侵入者か?」
「ん?ああ、君は展望台にいた日本人じゃないか」
なれなれしく話してくる。
何というかこいつ……胡散臭い。
「アンタ、この場所がどういう場所なのか……」
「分かってるつもりだよ。この場所はまぎれもなく、グレイブスタン公国の国王、レイブン・グレイブスタンの居城だ」
「……なら、簡単に足を踏み入れては……」
「君こそこの城に入ってるではないか。君とて侵入者であることに変わりはない」
……勘違いしてるようだな。
「俺はアイミーン王女からの招待を受けてこの城に来ている。正式な手続きをとった、客人としてここにいるんだよ」
「なんと。君が客人だったか……これは失礼」
形式だけはしっかりした人間らしく。
軽く頭を下げる男。
「にしても、アンタはここで何してるんだ?」
「何、私もこの城に出入りすることの出来る位の地位を持っているだけのこと。ただそれだけの話だよ」
「城に出入りすることの出来る位の地位……?」
要するに、コイツはこの城の関係者というわけか。
こんなに変な奴もいるんだな……悪人ではなさそうだからよかったけど。
「けど……展望台でしたあの質問はなんだったんだよ」
一番聞きたかったこと。
それは、この男が展望台で聞いてきた、『恋とはなんぞや』という質問。
あれはどういう意味だったのかを知りたい。
「……あの質問か。あれは、この国の王女が今、そのことで悩んでいるのでね。とりあえず君に尋ねてみただけだよ」
「……はい?」
さっぱり分からない。
アイミーが恋について悩んでいる?
……そんなこと言われても皆目検討がつかねぇな。
てか、ぶっちゃけ俺、関係なくね?
「……まぁ、他人である君には関係ない話だということは分かっていたがね」
「は、はぁ……」
本当に、何が言いたいんだコイツは。
「それじゃあ、私はここで失礼させて頂こう。また後で会おう」
「え……?」
また後で会う?
なんか、いろいろわけわからないんだけど……。
様々な謎を残したまま、男は何処かに歩き去ってしまった。
何故だか、その男の後を追いかけようとは思わなかった。
「……」
男が去った方を少し眺めてから、俺は部屋に戻ることにした。
男の言ったことは気になるが……考えるだけ無駄だしな。




