三年A組の教室の前で
Side佐々木
……薬をもらった俺は、三年A組の教室まで向かう。
まだHRも始まってない今なら、渡せるはずだ。
「早く、この薬を渡したいんだ……早く、アイツに」
アイツ―――小山千里を助けるために、俺は走る。
間もなくして、俺は三年A組まで到着した。
扉の前に立ち、俺はここで初めて緊張する。
……今日、学校に来てるかな。
いや、いつも来てるからもちろんいるか。
……この薬、受け取ってもらえるかな。
治るって言ったら、受け取ってくれるだろう。
……俺のこと、信じてくれるかな。
「……考えるだけ、無駄だ」
信じてくれるか信じてくれないか。
そういうことは問題ではない。
俺はただ、アイツの病気を治してやりたい。
もう、魔術を使うたびにアイツの体が蝕まれていくのは……御免なんだ。
苦しむ姿を見るのは、御免なんだ。
アイツが発病したのは、つい数ヶ月前の話。
三学期のクラス分け試験の時だ。
あの日、俺はアイツが魔術を使う所を目撃した。
そしたら……使い終えた後に、アイツが苦しそうに胸を抑える姿を見た。
俺はその後、図書館とかインターネットで、アイツの病気の正体を調べた。
調べた結果が……アンジック病だった。
アンジック病とは、魔術を使う度に行われる生命力の魔力変換が思うようにうまくいかなくなる病気。
アンジック病は、どうやら突然性のものらしく、対策法はない……らしい。
症状は、魔力変換された生命力を回復出来なくなるというもの。
人間というのは、すべての人が生命力というものを持っている。
その生命力を魔力に変換することにより、魔術を発動することが出来るのだ。
魔力に使われる生命力と、日常生活を送る上で必要な生命力は別のものと定義されており、だから魔術を使いすぎたとしても死ぬことはない。
ただ、この病気にかかってしまうと、使用した魔力分の生命力が戻らなくなる。
故に、魔術を無理やり利用しようとしてしまうと……生活に必要な生命力の方にそれがいってしまうのだ。
すなわち、体を蝕んでしまうに至る。
「……どうしてアイツが、あんな病気にかからなくちゃならなかったんだ」
今となっては、まったくもって理解出来ない。
けど、それも今日で終わりだ。
この薬をアイツに渡して、それでアイツを苦しみから解放する。
だから俺は、この扉をノックして、アイツを……。
「何してるの?啓介」
「何って、今からアイツを……って、千里!?」
後ろから声がしたから振り向いてみると……そこには笑顔で俺の名を呼んできた千里がいた。
「な、何でまたこんな時間に私の教室に?」
「いや、だから今、千里を呼ぼうとしてた所だったんだよ」
「私を?どうして?」
……それは。
「それは、お前に用があって」
「用って何?」
あくまでも笑顔を絶やさない千里。
こうして見ると、本当に病気にかかっているのか怪しくなる程、元気そうな顔をしている。
「……とりあえず、昼休みに屋上に来てくれ」
「?分かった。昼休みに屋上ね」
……ポケットの中に忍ばせてあった薬は、一先ず渡すのをやめよう。
こんな時間のない時じゃ、受け取ってもらったところで、飲めやしない。
なら、
「ああ、弁当も持ってきてくれ。一緒に飯でも食べよう」
「別にいいけど……どうしたの?いつもならそんなこと、言わないよね」
「……言っただろう。千里に話があるって」
それだけを告げると、俺はその場から走り去ってしまった。
……何だか恥ずかしくて、顔を合わせられなかったからだ。
……俺、なんてヘタレだ。
ともかく、昼休みには絶対渡す……絶対に!
次回、「秘薬探し」編の幕が閉じます。




