vsクマ二頭
クマに挟まれた状況は、今もなお続いていた。
前のクマに対しては、瞬一が。
後ろのクマに対しては、空が対峙している。
その一方で、邪魔にならないような位置で、晴信達が覗きこんでいた。
木の陰から、声が聞こえてくる。
「大丈夫かな、空ちゃん……」
「大丈夫だよ。私の妹だもん」
「……根拠になってないと思うよ、それは」
何の根拠もなくそう言い切った葵に対して、佐々木がそう呟く。
「そういえば、あんたってクラス分け試験の時に三矢谷瞬一に負けた人よね?」
ここで北条が、この場においてあまり関係のない話を尋ねてきた。
そんな質問にも、佐々木は答える。
「そうだけど、それがどうしたの?」
「何でまたあいつに頼もうと考えたの?」
それが疑問で仕方がなかったらしい。
佐々木はその問いに、答える。
「彼が……強いって感じたから。それだけじゃ不満かな?」
「……強いのは認めるわ。クラス分け試験の時の戦いを、私だって見てるもの」
一番最初に名前を呼ばれたのでは、誰もが注目せざる負えない。
そんな中で一人勝ち残った瞬一と、その瞬一と互角の戦いを見せ、その前までは共闘していた晴信の名前は、ある程度までは浸透しているのだ。
正の意味でも、負の意味でも……。
「「……」」
そんな中で、瞬一と空の二人は、一向に動こうとしない。
対するクマの方は、その足を一歩ずつ瞬一達に近づかせていく。
一歩、また一歩と。
「「……!!」」
二人は同時に動き出した。
瞬一は前に、空は後ろに。
その隊形のまま、クマの方に向かって走り出す。
どうやら二人は、クマとタイマンでやりあうことにしたらしい。
「裁きの雷よ、彼のものに正しき判決を下せ」
走りながら、瞬一は呪文の詠唱を行う。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアァアアアアアア!!」
クマは、右手を思い切り上まで振りかぶり、その爪で瞬一の体を引き裂かんばかりに襲いかかる―――!!
「遅い!」
瞬一は、そのクマの攻撃を体を捻らせて左に避けると、
「……サンダーボルト!」
ほぼ同時に左手を突き出して、魔術を発動させる。
瞬間。
クマの足元に魔方陣が現れ、上空には一瞬の内に雷雲が現れる。
そして、
「!?」
クマの頭上より雷が落落ちる。
ドン!という音が、瞬一達の間で響き渡る。
だが、それはクマには当たらなかった。
「何!?」
咄嗟の判断で、クマは横に飛んでいたのだ。
「おいおい。クマの持つスピードじゃねえだろ……」
瞬一は、その俊敏さに、ただただ驚くばかりであった。
その顔には、渇いた笑みすら浮かべていた。
対する空の方はというと、
「荒れ狂う大地の怒りを受けよ!アースクエイク!」
携帯で魔術の発動キーを打ち込み、地面に携帯を一瞬だけ当てる。
瞬間。
「おお?!」
クマの足元に、やはり魔方陣が出来上がる。
その大きさは、広範囲に渡っており、逃げることを許さないようなそんな感じだった。
そして、その範囲の地面が、大きく揺れだした。
「じ、地震!?」
思わず北条は、そう叫んでしまう。
余波が伝わってきた為だ。
「相手が怯んでる……今だ!!」
その地震の影響で、瞬一と向かい合っているクマも思わず動きを止めていた。
「天空より降り注ぎし雷よ、彼のものにささやかなる眠りを与えん!……ボルテックス!!」
その隙をついて、瞬一は魔術を発動させた。
すると、先程よりも広範囲に及ぶ落雷が発生する。
逃げられないような最低限の範囲に及ぶその攻撃は、
「ギャッ!!」
クマに当たり、そのクマを気絶させた。
「遥かなる大地よ。我にその力を貸せ!」
揺れが収まった瞬間。
空も詠唱をした後、携帯を地面につける。
すると、
「おお……」
その部分の地面から、木の根っこが突き出してきた。
そしてその木の根は、クマ目掛けて勢いをつけてその根を回転させながら伸ばす―――!!
「スパイラルナックル!!」
瞬間。
その木の根は、クマの腹に当たり、遠くへ吹き飛ばす。
何処かの木に激突したのか、そのクマはそのまま動かなくなった。
「よし。起きる前に先を急ぐぞ―――!!」
瞬一達は、クマが完全に起きなくなったのを確認すると、その場から走って去って行った。




