Meet again in the snow
今回の話にて、長かったこの小説もついに最終回です。
「……」
俺はその場に立ち、空を見上げる。
……ここで、俺は数ヶ月前に、葵を、殺した。
それは揺るがない真実……俺が今後抱かなければならない、罪。
後悔はしていない……だが、本当は殺したくはなかったんじゃないのか?と問われれば、当然のように、『当り前だ』と答えてやりたい。
殺したくはなかった……出来れば生かしてやりたかった。
けど、それが出来なかった。
俺が……弱かったから。
俺が、こうする以外の方法なんで思いつかなかったから。
「……済まなかった、葵」
謝る。
謝る対象がいないのに……俺は謝る。
謝りたい感情でいっぱいなのに……俺は、その相手を見つけることは、出来ない。
なぜならすでにその相手がこの世におらず……きっと天国に旅立っているからだ。
「もっと他に方法があったはずなのに……俺がこんなにもひ弱だったから、お前を救ってやることが出来なかった……」
確かに、俺がしたことは決して間違いではないのかもしれない。
もしあそこで俺があんなことしなかったとしたら、被害はここだけに収まらず……大げさな話になるが、きっと世界は滅びていただろう。
極端な話を言えば……になるけどな。
けど、こんな役目……俺が担う羽目になるとは思ってもみなかった。
いくら状況がメルゼフの時と同じだったと言えども……いや、同じなわけはなかった。
メルゼフと違い、葵は俺の……大切な、親友だった。
けど俺は、そんな親友の命を……この手で奪った。
そんな俺に……天国になど行けるのだろうか。
「無理だな……どんな事情があろうとも、俺が葵を殺したことには変わりない」
葵としても……少しは絶望しただろう。
最後に俺のことを『好き』と言ってくれたのだけは……本当に救われた気がする。
あの『好き』がどんな意味を持っていたのかは、俺には分からない。
けど……何か意味があって言ったのではないかと思われる。
「……寒いなぁ」
さすがに雪が降っているだけあって、顔にそれが当たるたびに、冷たい感覚が俺を襲う。
……しかし、綺麗な雪だ。
見ていても飽きない、そんな雪だ。
「……そろそろ俺も帰るとするか」
さすがに本降りになられては俺も困る。
寮に戻れなくなるのは、俺も不本意だからな。
「さて……一応言っておくか。また会おうぜ、葵」
俺は入り口に向かって歩き出す。
そして、右手を軽くあげて、別れの言葉を言った後、闘技場から出て行ったのだった。
―――瞬一。
「!?」
今、誰かの声が聞こえたような気がする……。
けど、この闘技場には、俺以外人はいないはずだ。
なぜなら、さっき人は全員帰って行ったはずだからな。
それじゃあ、この声は一体誰のものなんだ?
……分からない、全然分からない。
予想も出来ない。
まさかとは思うけど……幽霊か?
「ま、まさか雪女……とか?」
雪降ってるし、その可能性も否定は出来ない……わけないだろ。
科学と魔術で成り立っているこのご時世だ。
幽霊なんてものがいるとも到底思えない。
……いや、メルゼフなんかは生きる屍なんて言われた程だから、その存在は否定できないものなのかもしれないけど。
……けど、絶対幽霊なんかじゃない。
この感じは……幽霊なんかじゃない。
何だろう……この温かい感情は。
胸を占める、この感情は。
―――瞬一、こっちだよ。後ろを振り向いてごらん?
「……何より、この声だ」
聞き覚えのある声だった。
いや、聞き覚えのある声なんてものじゃない。
何度も聞いて……聞き飽きた声だ。
聞き飽きていて……もっとも俺が聞きたかった声だ。
けど、その人物はもういないはず。
けど、幽霊なんかじゃないだろう。
だって……俺の背後には、確実に誰かの気配を感じるのだから。
―――ほら、どうしたの?早くその顔を見せてよ。私がこうしてここに来た意味がないじゃない。
「……どうして、ここにいる?」
―――どうしてって、ひどいなぁ。瞬一に会いたかったから……もう一度、みんなに会いたかったから……あっちの世界で頑張って、こうして瞬一達に出会えるようになったのに……。
「頑張った……?それってどういうことなんだ?」
―――言葉通りの意味だよ。もっとも、こんなことは特例中の特例らしくて、本来なら認められないんだって。死んだと思われてた人がいきなり目の前に現れるなんて、歴史がひっくり返っちゃう以前の問題でしょ?
「それって……一体……」
―――私ね、本当は死んでなんかなかったの。あの後、死にそうな私を救ってくれた人がいたんだ……その人に助けられて、私はこうして瞬一の前に現れることが出来たの。そうそう、その人が、瞬一によろしく言っといて、って言ってたよ。
「まさか……モテラスか?」
―――知ってたんだね。やっぱりあの日、瞬一はモテラスさんに拾われたんだ。
「ああ……お前もその口だったのか?」
―――うん、そうだよ。何でも、命を助ける代わりに、僕達の願いを叶えて欲しいって言われてね。けど、今回は島ではなかったよ。私が連れて行かれた所は……天上界だった。
「天上界……?それって一体、どんな場所だったんだ?」
―――本来は光の器しか生きていられないような場所。そこでモテラスさんも光魔術の使用方法を学んで……私もまた、そこで光魔術を学んだんだよ。そうして私は、ここに帰ってこれたの。
「……じゃあ、俺から一言、言っていいか?」
―――いいよ。私も瞬一に、真っ先に言いたいことがあったから。
「それじゃあ俺から言わせてもらおう……」
―――うん。分かった。
おかえり、葵。
ただいま、瞬一。
Magicians Circle
THE END
次回、完結記念座談会&ちょっとしたお知らせです。




