Last episode 46
「聖なる雷よ。その力の一部を我が右手に宿せ!」
空中で瞬一は呪文を詠唱する。
そして、右手を突き出し、葵めがけて雷を放った。
「!!」
「チッ!」
だが、その攻撃は葵によってまんまと弾かれる。
目の前に出現した魔法陣が、それらを断ち切ったのだ。
「……だがよ、その攻撃が避けられることくらいはお見通しだっつーの!」
「!?」
避けられたというのに。
攻撃をあっさりと避けられたというのに。
瞬一は……笑っていた。
いや、避けられたことに笑っているのではない。
自分の予想通りの動きをしてくれたことに笑っているのだ。
「魔法陣が消え去る直後ってのは……さすがに葵と言えども多少のブランクが生じる。その時間はおよそ3秒……その間で、この戦いの幕を下ろしてやる!!」
ズォッ!
瞬一は、思い切り腕を後ろに振りかぶる。
その手には、刀がしっかりと握られている。
「……ハァッ!」
―――1秒。
晴信達は、固唾を飲んで瞬一達の様子をうかがっている。
「凄いわね……生身の身体で、堕天使とやり合えるなんて……」
茜が、感心するように呟く。
そんな茜に対して、晴信が言った。
「アイツは……仲間の為ならどんなことだって絶対にして見せる奴なんだよ。仲間を苦しみから解放する時なんかは、とってもいい例だ……アンタも少しは見習ったらどうだ?」
「仲間の為に、一生懸命になれる生き方、ね……」
呟く茜の声は、空中に消え去る。
茜はもう一度、瞬一と葵の二人を、交互に眺めた。
―――2秒。
瞬一は、頭の中でこんなことを考えていた。
「(……本当は、殺すのなんて絶対に嫌だ。出来れば葵と一緒に、これからも笑って過ごしたかった……毎日教室でバカ騒ぎして、部活で暴れまくって、帰り道でその日のことについて色々話して、そして帰るときには『また明日』って言葉をかけて……次の日の朝に会った時にはまた『おはよう!』って言えるような……そんな毎日が、そんな平和な日常が、俺は欲しかった……)」
どこで崩れたのかは分からない。
けど、そんな平和な日々が脆くも崩れ去った事実には変わりはない。
……正直な話、瞬一はおびえていた。
自分がこれからやろうとしていることは、決して間違いではない。
なぜなら、それは自分がメルゼフに対してやったことと、同じことをしようとしているに過ぎなかったからだ。
だが……同時に罪の意識に駆り立てられることになる。
よくよく考えてみたならば、メルゼフと葵には決定的に違う点があったのだ。
それは、天使か悪魔の違いなんかではない。
……元々死んでいる存在なのか、まだ生きるべき存在なのか、という点だ。
結局、メルゼフは死んでいたのだ。
瞬一が手を下すもっと前に、メルゼフは死んでしまったのだ。
だからメルゼフに対して瞬一がとった行動は、決して間違いではなかったのだ。
だが、葵はどうだろう。
葵はまだ、一度たりとも『死』というものを経験したことなどあるわけがない。
なぜなら、今まではいつも通りの毎日を送っていたからだ。
そんなごく普通の少女が……これから『自らの死』を受け入れなければならないなどと、いつどこで想像出来よう。
「(出来るわけねぇよな……俺だって想像出来なかったんだからよぉ)」
瞬一はまた、心の中でそう呟いたのだった。
―――3秒。
「これで……この一瞬で、勝敗が決する」
「瞬一君……お願い。葵を……葵を救って……!!」
「頑張ってください……瞬一君!」
「いけぇええええええええええええええええええええええ!瞬一ぃいいいいいいいいいいいいい!!」
それぞれ声援を送る晴信達。
瞬一は、それらの声援も力に変換して、
「葵ぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!今救ってやるぞぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
そして、勝敗が決せられた。




