Last episode 44
「……なんだよ、それ。葵を殺すって、どういうことだよ?」
「言葉通りの意味だ……それ以外に、細川葵を救ってやれる方法が見当たらない。だから……これが俺達に出来る最善の選択ってわけだ」
「ふざけるな!他にもっといい方法があるはずだ!!例えば……そうだ!葵から魔力を吸い取るとか!余分の魔力が残ってるから、こうして葵は暴走してるんじゃないのか?!」
「……魔力を吸い取るなんて、俺達でどうやってやるっていうんだ?方法があったりするのか?」
「じゃ、じゃあ……あの羽を破壊するとかは?それから……!!」
「うぬぼれるな、三矢谷瞬一」
「!!」
大地からかけられる、信じられない程の冷たい声。
それは……人を簡単に殺すことが出来るのではないかと思われるほどの、鋭さを持っていた。
瞬一は、大地からの思わぬ一言に、身体を凍りつかせてしまう。
瞬一だけではない……春香や真理亜達もだ。
「お前は前に同じ状況に陥った時に……どんな行動に出た?」
「前と同じ状況?こんな状況に陥った時なんて、俺は一度も……!!」
言われて、瞬一は思い出す。
確かに、数日前に同じ状況があったのだ。
それは……確かここで起きていた。
場所すらも同じだ。
それは……確か暴走したメルゼフを止める状況と同じだった。
状況すらも同じだ。
それは……確か最後の選択は瞬一に迫られていた。
選択する人物すらも同じだ。
それは……確か最後は瞬一がメルゼフを殺したのだった。
執行者すらも同じだ。
「これだけの状況が重なっているのにも関わらず、お前は細川葵を救ってやることが出来ないというのか?え?答えろ……三矢谷瞬一!!」
「お、俺は……」
「それとも何か?メルゼフは赤の他人だったから殺せて……細川葵は、お前の友人だから、苦しんでいる状態でもなんとか生かそうとしているのか?……永遠にこの苦しみから解放できないまま、細川葵はこんな生活をし続けるのか?」
「いや、そんなことはない……俺は葵の持つ苦悩をすぐにでも取り払ってやりたい!……出来ることなら、苦しみを取り払った後で、葵と……」
瞬一の声は、ここまで来て弱かった。
葵と共に、これからも一緒に暮らしていきたいと思うのには納得がいくだろう。
だが……そんなことは難しい、いや、不可能だろう。
何故なら、葵の身体は……もはや取り返しのつかない状態にまで発展しているのだから。
「……その気持ちは十分に理解した。だが……残念ながら、細川葵を生かすことは恐らく不可能だ。そんな状態にまで、力が行き届いてしまっているからだ」
「ああ……分かってる。これが俺の個人的な要望で、しかも叶うはずがないってことくらいな」
「……」
晴信は、何も言わずに、ただ瞬一のことを見ていた。
口を挟むことは……この場においては無粋なことだと考えたからだ。
「悪いな……大地。お前にそのことを言われるまで、俺はどうやら寝ぼけてたようだ」
「なら、やることは分かっているだろ?」
「……ああ。他の奴にやられるくらいなら、俺がやる。俺が葵を……殺す!!」
それははっきりと理解出来る、意思表示。
瞬一の、確かな決意の表れ。
もはや誰も手出しはしない。
今の瞬一に加勢をするのは……瞬一の決心の邪魔をするのと同じだからだ。
だから晴信達は、手を出さない。
これは……瞬一と葵の最後の戦い。
決して戦うことのなかった二人による、殺し合い。
瞬一と葵は、晴信達の目の前で、最後の殺し合いを繰り広げることと、なったのだった。




