Last episode 42
「おい大地!葵の暴走を止めるには、どうしたらいいんだ!」
葵の攻撃をかわしながら、瞬一が大地に尋ねる。
……大地は、答えることが出来ない。
暗い表情を崩せず、ただ目の前の攻撃をかわすことに集中していた。
「おい、どうしたんだよ森谷!瞬一の質問に答えないのか?」
「……」
答えないのではない。
答えることが出来ないのだ。
なぜなら、大地は……。
「済まない……俺には、暴走した細川の力を止める術を知らない。だから、俺からは何も言うことが、出来ない……」
「そんな……それじゃあ葵は、何の処置も施すことが出来ないまま、苦しんだ状態のまま、この世界を壊すことしか出来なくなるってのかよ……本人が望んでるわけでもないのに……くそっ!」
本当ならば、壁を殴りつけたいところだが、葵が攻撃してくる手前、そんなことをしているわけにはいかない。
葵による攻撃は、衰えるどころか、逆にその勢力を増していた。
先ほどまでの光の矢はもちろんのこと、時折鎖らしきものを出して、瞬一達のことを捕えようとしていた。
「細川さん……御免なさい!」
春香は葵に謝罪の言葉を述べながら、地面に携帯をつける。
瞬間、その場所から巨大な腕らしきものが現れて、葵に向かって殴りにかかった。
しかし、葵の身体に触れる直前で、その攻撃は消滅する。
恐らく、見えない結界に触れたせいで攻撃を強制終了させられた為であろう。
「春香の攻撃も効かないなんて……もはや葵の力って、チートじゃね?」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ!今は目の前の攻撃に集中しないと!」
織が晴信に向かってそう注意する。
その通りだ……よそ見をしていたら、葵の攻撃など避けられるはずがない。
いくらここが闘技場で破損する箇所が少なくて済むとはいえ、闘技場に敷かれた結界にも限界がある。
先ほどから葵の攻撃の飛び火を喰らい続けている為か、そろそろその結界も、いつ壊れてもおかしくない状態にまでなってしまったのだ。
「いいわ……いいわよ、細川葵。堕ちた天使は、世界を破滅へ導くと聞いたけど……まさしく本当のことだったようね」
「!……吉沢先生、どこへ行くのかしら?」
その時。
真理亜が、茜が何処かへ行こうとするのを発見する。
茜は、出口へ向かう足を止めずに、歩きながらこう言った。
「源三郎のところへでも行ってくるわ。そして源三郎でも討ちに行くわよ」
「……させると、思っているんですか?」
出口の前に、織が立ちふさがる。
「……はぁ。貴女も物好きよね。私何か放っておいても、源三郎に勝てないってことくらいは分かってるくせに」
「それでも……可能性は十分にあり得るわけですから。その可能性は潰しておいた方が断然いいんです」
「そう……なら、私はこの戦いが終わるまでは傍観者に徹するとするわ」
「え?」
予想もしなかった一言に、織は思わず身体の緊張がほぐれる。
茜は、そんな織に向かって、言った。
「どうやら私の出る幕は、本格的にまでなくなってきたようだからね……細川葵と三矢谷瞬一の戦いが終わるまでは、傍観者に徹するわよ」
「……そう、ですか」
二人がそんな会話を繰り広げている中、
「瞬一……さっきの話だが、一つだけ方法があるぞ」
「何!?それは本当か、大地!」
瞬一は、大地による思わぬ一言によって、喜びを感じだ。
先程は葵の暴走を止める方法はないと言われただけあって、その一言は瞬一に対してどれ程の効果があったことだろうか。
「細川葵の力の暴走を止めるには……細川葵を、殺せばいい」
「……え?」
瞬間、瞬一の思考が、停止した。




