Last episode 37
「どこだ……どこにいる?」
大和は、若干戸惑いを見せていた。
理由は、なかなか目的の人物を見つけることが出来ないからだ。
何かの気配がすると思えば、それは行く手を阻む影ばかり。
「ちっ……斬っても斬っても消えないな、この影は」
行く先に、影は現れる。
その度に大和は持っている剣で斬る。
だが、しばらく先を進めば再び影は出現する。
先程からその繰り返しであった。
「なんなんだよ……この影の多さは」
一人呟く大和。
未だに人影は見当たらない。
「何処だ……何処にいる?」
何時もの大和なら、例え同じ状況に立たされていたとしてもここまで動揺することはないだろう。
だが、今の大和は、誰が見ても分かるくらいに動揺していた。
理由は単純……この事件は、他人事なんかでは済まされないからだ。
自らの友人が絡んだ……危険な事態だからだ。
「葵の力の暴走……スクリプターと協力関係にあった少女の暴走……これら二つは、関係がなさそうで、大いに関係がある」
確かに、二つの事件は独立した事象だ。
つまり、本来ならば関わり合いなどあるわけがない事件だ。
しかし、それが光と闇の双方が起こしている事態となれば、話は変わってきてしまう。
光と闇が混ざり合ってしまえば……世界は混沌に帰してしまい、やがて存在そのものが消えてしまう。
再生する可能性のある『崩壊』ではなく、再生することのない……『消滅』となってしまう。
「……僕は『組織』の人間である前に、みんなの仲間だ。そんなみんなが生きている世界を……そう簡単に壊させてたまるか!」
大和は、そんな決意表明を露にした。
そんな時だった。
「……!?」
人気が不気味な程にない路地にて、背後から感じられる恐ろしい程の殺気。
それは獲物を確実に捕らえると言った狩人の放つ殺気ではない。
……まるでこの世すべてのものを破壊し尽くすまで止まらない……言うなれば鬼のような殺気。
両者は同じに思えるようで……違う。
前者には、心に余裕が見受けられる。
つまり、半ば快楽すら感じられる程の余裕があるのだ。
しかし、後者にはそれがない。
すべてを破壊したい衝動に刈られ、しかも自分でそれを止める術を知らない。
それは即ち……自らを律することを忘れてしまった、言わば狂戦士みたいな存在。
本当の意味での……悪魔だった。
「……そこにいるのは、誰だい?」
大和はそれでも、冷静に声をかける。
誰だか分からないが、敵である可能性はかなり高い。
味方に殺気を当てるなんてことは、普通はないのだから。
「……オマエハ、ナニモノダ?」
「……声からして少女。しかも悪魔に完全に乗っ取られている」
大和は、聞こえてくる少女の声から瞬時にそのことを悟った。
それから、少女の問いに答える。
「僕は大和翔!『組織』の人間として、君の身柄を拘束しにきた!」
「『組織』……アノカタヲコロシタヤツラカ!!」
今の少女からは、正直な話正気など微塵にも感じとることが出来なかった。
だから、大和の目の前に怒りに狂った少女が現れたとしても、大和は何の不思議にも思わなかったのだ。
「……君が、クリエイター・スクリプターの両者に協力していた少女だね。名前は……聞いてもいいかい?」
なるべく素性を把握するため、大和は少女の―――由良の名前を尋ねる。
しかし、由良はその問いには答えず、
「オマエラガ……オマエラガワタシノタイセツナヒトヲフタリモウバッタンダナァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
聞く耳持たずとは、まさしくこのことを指すのだろう。
由良は、まったくもって、大和と会話をする気はないらしい。
その目には既に光などなく、身体からは黒いオーラがまとわりついていた。
「……いいだろう。僕が相手になろう。それで君の気が晴れるというのなら……最後まで君の復讐に付き合ってあげるようにしよう。傍観者としてではなく……当事者としてね!」
そして、大和と由良の、最初で最後の戦いが始まった。




