Last episode 36
「しゅ、瞬一君!?」
織は、悲鳴に近い声をあげる。
それもそのはずで、葵が瞬一に襲いかかったからだ。
「ほ、細川……さん?」
「……」
反応はしない。
顔は地面を向いていて、瞬一達の顔を見ることはない。
身体からは謎のオーラみたいのが湧いているのが見える。
……色は黒。
およそ天使と呼ぶにはふさわしくない姿をしていた。
「……これでいいのよ。これで、細川葵は完全に堕ちた。身体の中で強大なる力が暴走している為に、もはや意識すら保つことが出来ない。私達の野望は今完成した。地上に堕ちた天使は、やがて世界を守護する力を以て、守るべき世界を破滅へと迎え入れるだろう。そして私達は見ることになる。この世界が一度闇に包まれて、そしてもう一度生まれ変わる瞬間を。今こそ私達は世紀の現象の目撃者となるのだ。もっとも、生き残りの少ない惨劇(舞台)となってしまいそうだけどね……っと、スクリプターがこの場にいたら、こんな言葉を言うのかしらね」
「……調子に乗るんじゃねえぞゴラァ……」
瞬一は、肩の傷を右手でさすりながら、何とか起き上がる。
そして、茜のことを睨んで、言った。
「俺はお前を絶対に許さない……葵をこんな目に遭わせたお前を、俺は絶対に許さない―――!!」
「いいわよ。別に三矢谷君に許してもらう筋合いはないもの。しかも私は私で、これで満足なんだからね」
「……先生、今すぐ考えを改めてもらうわけにはいかないんですか……?」
春香が遠慮がちにそう答える。
だが、茜は態度を変えずに、こう答えた。
「考えを変える気なんてないわ。これはある意味で弔い合戦みたいなもの……つまり、私はスクリプターの意思を受けてこうして貴方達人類全員に対して対決を申し出ているようなものだから。私はこの戦いから降りるなんてことは考えてないわ」
「……そうですか。それなら、私達が全力でお相手しますよ?」
茜のことを睨んで、真理亜がそう言う。
すると茜は、面白そうに笑ってから、
「上等じゃない。貴方達の力がどれほどのものか……私に見せて御覧なさい!」
「……俺は葵の相手をする。お前らは吉沢先生の方を頼む」
「わ、分かったよ、瞬一君」
瞬一は、指示するように織達にそう言った。
その目は……嫌に真剣だった。
「貴女がどういう人かは詳しく知ってるつもりでした……けど、私達は先生の何も分かっていなかったということなんですね」
「そうね。貴女達は結局、私がどういう人なのかも全然分からなかった。それが、今回の事件を引き起こしてしまった原因ともいえるわね」
「……そうですか。なら、そんな計画は、私達の手で徹底的に潰して差し上げます!」
「威勢がいいのは嫌いじゃないわよ?……もっとも、好きな男の子の前でそれを見せるのもどうかと思うけどね!」
「!?」
茜は初めてその場から動き出した。
真理亜達の攻撃がくると想定しての、バックステップ。
その通りに、
「やぁっ!」
真理亜は右手に剣を作り出し、それを茜の心臓めがけて突き出す。
しかし、その攻撃はいとも簡単に避けられてしまう。
「危ないわね……代わりに氷でも喰らいなさい!」
そう叫ぶと、茜の目の前に青い魔法陣が展開される。
真理亜は、その魔法陣ごと切り裂こうと、剣を横に振り払った。
だが、それは無理だった。
ガィン!という衝突音が、この場に響く。
そして、魔法陣から放出される、数個の鋭い氷の刃。
……カウンター攻撃だったのだ。
「あぐぅ!」
まともにその攻撃を受けた真理亜は、その場に倒れこむように、踞った。




