Last episode 35
「……確か街中にいるって話だったよな」
大和は、一人で街中を駆け抜けていた。
理由は、先ほど自らの携帯電話に入った、連絡にある。
その電話によると、スクリプターと協力関係にあった少女が暴走し始めたという話だった。
つまり、その少女を止めなければ、事態は更に収まりが効かなくなるということなのだ。
「何としても穏便にこのことを終わらせたい……なるべくなら、被害は最小限に留めなければ―――!!」
大和は、走りながらそんなことを呟いていた。
と、その時だった。
「……影、か」
人型の影が、大和の前に姿を現す。
その数―――およそ5体くらい。
「これくらいなら、すぐにでも倒せるな……けど、今は時間が惜しい」
このまま無視することだって出来る。
倒さなければ、無駄に魔力を消費することも、体力を消費することもないのだから。
放置しておけば、街の人達を襲う可能性もあるが……どの道少女をどうにかしてしまえば、この影も消えてしまう。
そのことが分かっていた大和は、影の横を素通りしようとした。
……だが、そうもいかないらしい。
「……ちっ」
自然と大和は舌打ちをする。
通り抜けようとしたら、5体の影の内の一体が、大和の前に立ちふさがったのだ。
「……やるしかないようだね。やれやれ、僕を止めなければ、そのまま痛みを知らずに消えることが出来たものを……君達はそんなに痛みを味わいたいのかい?」
「―――!!」
言葉はない。
だが、影はまるで息をそろえたかのように一斉に大和に襲い掛かってくる。
影の手には、剣らしきものが握られていた。
「……一斉に襲い掛かってくるとは。僕の苦労も一瞬で済むから、随分と助かるね」
一言大和はそう呟くと、目を閉じて詠唱を始める。
地面には魔法陣が複数展開される。
その数は、敵の数に合わせたかのように……5個あった。
「……無慈悲なる風よ。彼の者達に味わうことのない痛みを体感させよ!」
瞬間。
魔法陣から風によって作られたカッターらしきものが出来上がる。
それらは影めがけて一斉に飛んでいった。
「!?」
そのカッターをまともに喰らって、5体いた影の内3体は切り裂かれて、その場から消え去っていった。
だが、残りの2体は何とか避けたらしく、未だにその姿は健全である。
「……一気に片付けられると思ってたんだけどな。相手もそこまでバカじゃないってことか」
「―――!!」
まさか避けられるとは思っていなかったのか、大和は少しだけ悔しそうに呟く。
だが、それも一瞬だった。
大和は、自分が次にとるべき行動を的確に考え出し、そして行動に移した。
「時間は短くていいから……無詠唱でもいいよね」
大和は、目を閉じて集中する。
そして、右手に風を纏った剣を作り出した。
「さてと……一気に決めるぞ!」
叫び、そして大和は思い切り地面を蹴る。
まずは自分に迫ってくる敵を、一閃。
横に払われたその剣は、影の身体を確実に切り裂いた。
切り裂かれた影は、そのまま黒い分子となって消えていく。
だが、その際に背後からの攻撃が待っていた。
「そんな攻撃……予測済みだよ」
大和はまるで挑発するかのように影に向かってそう言うと、身体をひねらせて影の攻撃を避ける。
そして、すかさず剣で反撃。
心臓部分を的確に突き刺そうとする―――しかし、これは影のもつ剣によって防がれる。
影はそのまま、右足で大和の足を蹴り払おうとした。
「!ハァッ!!」
大和は、一歩後ろに下がり、それをやり過ごす。
その後ですかさず前傾姿勢をとり、
「セイッ!」
左から右へ、切り払う。
その後で、大和は頭上から地面へ切り下ろす。
「―――!?」
影は、その攻撃を見事に受けて、完全に消え去った。
「……よし。行くぞ」
今はとにかく時間が惜しかった。
大和は影を完璧に消すと、すぐさま少女を探す為に、街中を疾走するのだった。




