Last episode 32
「くっ……間に合ってくれ、葵!」
瞬一達は、廊下を全力で駆け抜けていた。
向かう場所は闘技場。
そこには、先ほどから苦しんでいる葵がいる。
「けど、どうしてこんなことに……」
「……北条!お前は先に吉沢先生を呼んできてくれ!出来れば原因追及も!!」
「え、ええ!分かったわ!」
瞬一は真理亜にそう指示を出すと、真理亜は保健室へと向かって行った。
その間にも、瞬一達は闘技場を目指す。
「瞬一君、もし葵ちゃんの身に何かがあったら……どうするの?」
走りながら、織が尋ねる。
瞬一は、当り前とでも言わんばかりの表情を見せて、
「んなもん、助けてやるに決まってるだろ!!」
「……だね!」
そして数分後。
瞬一達は何とかたどり着くことが出来た。
そこで瞬一達が見たものとは……。
「あ……ぐぅ……がぁ!」
「あ、葵!」
そこには、自然と足元に魔法陣が展開している葵の姿があった。
色は……特定不能。
魔法陣が光っている為、色が分からないのだ。
「これは……どの属性の魔法でもない?」
織が呟く。
だが、瞬一は頭に引っかかるものを感じていた。
「この感じ、モテラスのものと似ている?……まさかこれは、光の魔術?」
「光……ですか?」
瞬一が呟くと、春香がそう尋ねてきた。
「ああ。これは多分光の魔術だ。葵が光の器だからこそ現れる、固有の魔法陣ってわけだ」
だが、瞬一にも何故そんな魔法陣が出現しているのかが分からなかった。
……いや、少し理解していた。
この状況は、あの日魔術格闘大会で目にした光景と変わらない。
光の器の力が暴走する瞬間の、葵の姿だった。
「……みんな、少しばかりこの場から離れろ!巻き込まれるぞ!!」
「「!?」」
瞬一がそう叫んだ瞬間だった。
突如として、葵の身体が光り出す。
まるですべてを包み込むような、温かい光……。
そのはずなのに、葵から放たれるその光は、すべてを拒絶するかのような鋭い光だった。
「ま、まぶしい……!」
「何なんだ、これ……」
光は数分間収まらなかった。
その間、瞬一達の視界は、完璧に塞がれていた。
「くっ……このままじゃ、葵がどうなってるのかわかんねぇ……!!」
「ひ、光が収まって来ます!」
春香の叫び通り、光はどうにか収まってきた。
……だが、そこで瞬一達が見た光景は、予想外の物だった。
「なっ……!?」
そこには、葵がいた。
背中から光の羽を生やし、服が白いワンピースみたいなものに変わっている。
髪の毛はショートヘアーだった物が、色も変色し、しかも金色に変わってる。
その姿、まさしく天使。
「な、何だよ……これ……」
「まるで本物の……天使みたいです……」
「あ、葵ちゃん……?」
瞬一達は、葵のあまりにも突然過ぎる変化に、戸惑いを隠せずにいた。
当の本人である葵はと言うと……未だに意識が戻ってきていないようで、空中に浮いたまま、その目を閉じていた。
「あ、葵!」
瞬一が思わずそう呼びかける。
すると、その声に答えるように葵は目を開いた。
「!?」
その色は……天使とは思えない程、黒く染まっていた。
光などない……見た目は天使の格好をした悪魔そのものであった。
「こ、これが……光の器の暴走……?」
「そうよ。闇の力を極度に浴び過ぎることによって、それを追い払おうと光の力が発せられる。けど、あまりにも強力過ぎる闇の力故、追い出すことが困難になってくると……その力が発現し、暴走する。それを利用したのが、私の薬だったってわけ」
コツ、コツ。
誰かが歩いてくる音がする。
姿は見せていないながらも、瞬一達は確信を持っていた。
「……吉沢、先生」
「ええ。そうよ」
茜は、ニコッと笑いながら瞬一達の前に姿を現した。




