Last episode 29
「……」
少女は、一人で道を歩いていた。
先ほどの衝撃的な映像を目の当たりにしてから数時間後。
彼女の心は……かなり揺れていた。
「あ、アハハ……アハハハハハ……」
半ば壊れかけている、彼女の精神。
由良は、この短期間のうちに自らに襲い掛かってきた現実に対して、明らかにそれらすべてを受け入れることが出来ないでいた。
顔には狂気すらうかがえる程の、笑み。
目からは……涙らしきものが見えていた。
だが、その涙も少しだけ。
泣き過ぎて涙が枯れてきているのだ。
「こんな世界……もう興味がないって……そう思ってました……両親もいなくて、私の周りには誰もいなくて……だからこの世界には、もう興味がないって思ってました……」
誰に言うのでもなく、まるで自分に言い聞かせるかのように、少女は言った。
更に少女の言葉は続く。
「けどそれは違いました……私はこの世界に興味がないわけじゃない……この世界が、憎いんです。私からいろんな大事なものを奪っていくこの世界を……殺してしまいたいほど、憎いんです」
少女が至った一つの結論。
それは、『この世界』に対する気持ちの持ち方であった。
以前までの彼女なら、この世界なんて興味がないから、壊してもいいだろうと思っていた。
だが、それはこの数日間を経て、考えを改めることとなる。
クリエイターが殺されて、スクリプターが殺されて……由良は変わった。
由良は、自分が心に秘めていた気持ちに気づいた……いや、気づいたと言うと語弊が生じるかも知れない。
正確に言うならば……『この世界を恨むようになった』というべきだろう。
何故なら、前までは本当に、微塵たりとも世界に対して何の興味も抱いていなかったからだ。
幾つもの世界が存在することを知っている彼女は、一つの世界が壊されたとしても何の支障も来たさないと考えていたからだ。
「アハハ……アハハハハハハハ!!」
誰もいない路地裏で。
由良は一人、高笑いを上げていた。
しばらくの間、その高笑いは続く。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
見ている者を恐怖に陥れるのではないかと思われるほど、由良は狂気に囚われていた。
その姿は……まるで悪魔にとり憑かれた。
いや、悪魔そのものと言ってもいいかもしれない。
「コワシテヤル……コンナセカイ……コンナニモワタシノコトヲケギライスルヨウナセカイナンテ……カンプナキマデニハカイシツクシテヤル!!」
もはやその姿に……先ほどまでの少女らしさは残されていない。
あるのは、この世界に対する憎しみの念のみ。
由良はこの瞬間……完璧に闇に染まりきった。
もはや彼女を止められる人物など……ほとんどいないに等しいだろう。
「マッテナサイ……オロカナルニンゲンドモ。ワタシガオマエラをコロシツクスマデ、セイゼイソノセイヲオウカシテイルコトネ!!アハハハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
さぁ、始めよう。
狂気に包まれた、最高の舞台を。
そして、その行く末は……地獄。
この世界にもはや救いなどない。
あるのは裁かれる存在……愚かなる人間に待ち受ける末路のみ。
最後まで存分に足掻くがよい。
ただし、その足掻きは無駄になるだろうが。
―――サァ、ハジメヨウ。オワリヘノサンゲキヲ。




