Last episode 28
「あら……どうしたのかしら?」
保健室で何かの薬を作っている様子の茜が、入ってきた生徒に声をかける。
その生徒は女子生徒であり……。
「ちょっと風邪気味なので……風邪薬か何かをもらえませんか?」
若干声に元気がない様子の葵が、保健室の中に入ってきた。
「あら、風邪?……いけないわね、ちょっとこっち来なさい」
「は、はい……」
茜はすぐに薬の調合を止めると、葵を椅子に座るように諭す。
ほどなくして、葵は椅子に座る。
「昨日は何をしてたのかしら?」
「別に特別何もしてないのですけど……何だか喉が痛くて……」
「季節の移り目だからかもしれないわね……一応薬を出しておくから、とりあえず今飲んじゃいなさい」
「は、はい……」
茜は、葵に何らかの薬を渡す。
それは……色が何だか黒かった。
「これ……何の薬ですか?」
「……風邪薬よ。ちょっと色があれだけど、効果はあるはずよ」
あからさまに黒い色の薬を渡された為、葵は少し困惑している様子だった。
だが、茜の言うことだから信用は出来るのだろうとも考えていた。
「あ、ありがとうございます……」
「とりあえず、その薬を飲んだら少し保健室で休んでいきなさい。その身体であまり無理しない方がいいわよ?」
「で、ですけど……瞬一達に、教室に戻るように言ってますから……」
「あー……それなら私が直接三矢谷君達に伝えておくわよ。だからとりあえず、一時間目が終わるくらいまではゆっくりこの部屋で休んでなさい」
保健の先生が言うことなので、葵としても断るわけにはいかない。
なので葵は……、
「分かりました……ベッドで休んでいます」
「うん、そうしてくれるとありがたいわ。それじゃあ私、S組にこのことを伝えに行くから、ちょっと待っててね」
茜は、白衣を翻すと、そのまま保健室から出て行った。
「……うう、喉痛い……」
茜が去った後、葵はベッドの中へもぐりこむように入って行った。
そして、布団をかぶり、そのまま眠りにつこうとした。
だが。
「……う」
心臓がドクンと跳ね上がる。
動悸がし始める。
身体全体が、熱くなってくるのを感じる。
「あ……ああ……」
先ほどの薬がどのような効能を持っているのかを、葵は知らない。
だからこれも、急速に風邪の症状を取る為の一環に過ぎないと考えていた。
だが……それにしたっておかしい。
風邪を治す為にわざわざ動悸などの症状を無理やり引き起こす必要がどこにあろうか?
「ああ……ぐぅ……」
意識が遠のいていくのを感じる。
葵は何とかこの世界に意識をとどめようと頑張ったが……やがてその努力もむなしく。
「……」
バタン。
ベッドに倒れこむように寝る。
その様子を監視していたのは……。
「……作戦成功、ね」
茜だった。
扉を少しだけ開いて、外から中の様子をうかがっていたのだ。
「後はこのまま時間が経つのを待つだけね……彼から受け取った最後の仕事、この手で果たすとしましょうかね」
『彼』。
それが誰のことを指すのかは分からない。
だが、この時の茜は、明らかに別の人物ような表情を浮かべていた。
「さて、始めますか……最後の惨劇を。この世界における最凶最悪の舞台を……観客は全人類全生物。主演は細川葵、黒石由良、吉沢茜、その他大勢……カーテンコールはない、ぶっつけ本番の稽古なしの舞台を」
茜はそう呟くと、保健室から出て行った。




