Last episode 27
「あの少女?あの少女って一体誰のことだよ?」
晴信が、瞬一が呟いたことが気になったのか。
そんなことを尋ねてくる。
しかし、瞬一はどう説明したらいいのか少しだけ困った。
何せ少女の姿を見たのは自分だけで、しかもろくな記憶がないのだ。
説明力不足……と言っても過言ではなかろう。
「ああ……強いて言うなら、魔術大会の日に俺が対峙した少女、だな」
「……『あの少女』」
大和が、そう口にする。
それは、クリエイターが最期に残した言葉にもあった。
『あの少女』とは、一体どれほどの者なのか。
大和と大地は、そのことを考えずにはいられなかった。
「クリエイターがそこまでこだわりを持っていた少女って、一体……」
誰にも聞こえないほどの声で、大地は呟く。
そんな中で、話は続く。
「世界の脅威……それがどれほどの規模のものなのかはともかくとして、とりあえず俺達はそれを止めなければならないわけか……」
「『組織』では何か手がかりを掴めてないんですか?」
春香の質問は、もっともな物だと思われた。
クリエイターの件で『組織』が動けたのだから、今回のことに関しても何らかの手がかりは掴めているのではないか。
そう思うのは、普通の人間なら当たり前の思考回路だろう。
「残念ながら……僕達のところにはまだ何の情報も届いていないんだよね……」
「スクリプターの件に関しても、『組織』には届いていなかった」
「そうか……」
『組織』にも届かないような、情報。
少女がそこまで影響力の強い存在なのか……はたまた、少女の存在自体が、注目もされない程に小さな存在なのか。
どちらなのかはともかくとして、そのおかげで『組織』は少女の情報を得るのに苦労していた。
「ところでよ……葵は今日どうしたんだ?」
ここに来て、初めて晴信が葵について尋ねる。
その問いには、瞬一が答えた。
「ああ。さっき学校に来たんだけど……なんか体がだるいから保健室に寄ってから教室に来るってよ」
「へぇ……風邪か何かかも知れないな」
瞬一から話を聞いて、啓介がそんなことを呟く。
咄嗟に、晴信の顔には心配の色が見え始めた。
「それは大変だ!俺が急いで看病しに行ってやらないと……!!」
「お前が行ってもろくに病気が治るわけじゃないからな。それに、教室に戻ってくるって言ってるだろ
」
「け、けどよ……もしものことがあったら……」
「大丈夫だ。吉沢先生がいるんだからな」
「吉沢先生、か……」
瞬一が言う『吉沢先生』というのは、吉沢茜のことを指す。
彼女は、前に啓介の幼馴染である小山千里がアンジック病にかかった時に、薬を調合した人物だ。
すなわち、彼女の医療に関する知識は、一般の病院で働いている医者並か、それ以上はあるだろう。
「確かに、吉沢先生がいるんなら安心か……」
「だろ?」
納得する晴信に、瞬一がそう後付けする。
「でも吉沢先生って、医療免許は持ってるのかな……?」
疑問をそのまま述べるように、織が言った。
「そうね……私も前から気になってたのよね……」
真理亜も、織の後を引き継ぐように呟いた。
「さぁな。けど、薬作れるってことは、薬剤師の免許は持ってるってことだよな」
「相当頭いいんだな……吉沢先生って」
話題は、すっかり吉沢茜のことで持ちきりとなっていた。
それにしても、吉沢茜という人物はかなりの腕の持ち主なのは間違いない。
客観的な視点から見たとしても、それは確かなことなのだ。
「まぁ、急いだっていい知らせはこないってことだな。果報は寝て待て。とにかく葵が帰ってくるまで俺達は教室で待ってるから。とりあえず晴信と啓介は教室に帰れな」
「「……分かったよ」」
瞬一に言われて、晴信と啓介は渋々ながら教室に帰って行った。
この時彼らは、今後訪れる最悪な展開には、まったく気づいていなかったのであった。




