Last episode 22
「私はいつも一人でした……こんな力を持ってしまった為に、友達からも見放されて、周りに誰もいなくなってしまいました……そんな時に声をかけてくれたのが、由雪君でした」
「あれは……単なる気まぐれだ。別に話しかけたくて話しかけたわけではない」
「それでも良かったんです……私に声をかけてくれたのは、結局由雪君ただ一人だったんですから」
「……」
黙り込んでしまう。
確かにその通りだった。
終わってみれば……麻美に話しかけたのは由雪ただ一人だけだったのだ。
麻美の両親はとある研究所にいて……しかもその実験の途中の事故で亡くなっていた。
だから、本当の意味で麻美は一人きりだったのだ。
そんな時に、本当に偶然に、由雪がやってきたのだ。
「嬉しかったんです、私……まだ私にも、話しかけてくれる人がいるって分かって」
「……」
内心、由雪には罪悪感すらあった。
実は、彼が麻美に声をかけたのは……単純な興味からではなかった。
麻美が持っているその力に、興味を持ったのだ。
だから最初は、麻美からどのようにその力を引き出せばよいかなんてことを考えていた時もあった。
でも、付き合っていくうちに……そんなことはどうでもよくなったのだ。
麻美と一緒にいれれば、他は何もいらない。
他の人間と一緒にいることを嫌っていた彼は、初めて人と関わることを知ったのだ。
両親すらも見限った、彼がだ。
「けど、お前はあの日……スクリプターに力を暴走させられた。そして俺は、その仇を討とうとして……この様だ。笑いたければ笑え。今ならそれも認めてやる」
「……笑わないですよ。だって、私の為に戦ってくれたんですから。それなのに、笑うなんておかしいじゃないですか」
真剣な表情で、麻美は言う。
由雪は、そんな麻美の表情を見て、少し驚きすらも見せていた。
「けど、由雪君らしくないですよ……こんなところですぐに諦めてしまうなんて。いつもならもっと攻めていくはずなのに、今回はすぐに負けを認めてしまうなんて」
「……動かねぇんだよ、身体が。仕方ねぇじゃねえか。もう身体に限界がきちまってるみたいで、さっぱり動かねぇんだよ……」
由雪は、自らの身体の状態を確認して、そう答える。
確かに、命に別条はないと言えど……立ちあがるにはあまりにも酷な傷を、由雪は負っている。
この状況から何かをしようなんて、無謀極まりないだろう。
「それは由雪君が自分についてる嘘です……本当はまだ動ける。まだ戦える。なのに由雪君は、嘘をついてる」
「お前……何で俺が自分にそんなことを……」
「……本当は戦いたくないからですよ。もう、この場ですぐにでも死んでしまいたいって、思っているからです」
「!!」
言われて、ハッとする。
由雪は……心の中でうっすらとそんなことを考えていたことに気付いたのだ。
自分は、復讐するようなつもりでスクリプターと戦っていた。
だが、圧倒的な戦力差に、由雪は戦意をすでに喪失していたのだ。
「……俺が、逃げているだと?」
「……はい。悔しいけど、理解出来てしまいました。由雪君が、この戦いから逃げてるってことを」
「……」
自分でも分からなかったことを、麻美は理解していたのだ。
いつの間にか……由雪は麻美に心を許していたのだ。
「孤独に戻ったと思ったのによ……結局俺は、拠り所が欲しかっただけかよ」
「……」
「待ってろ、寺内。この戦いをすぐに終わらせてやる。そしてお前に……そのことを伝えてやるからな」
「楽しみにしていますね……迅君」
「!!」
最後に下の名前で呼ばれて、由雪は驚く。
そして、麻美はそのまま消えていった。
同時に、先ほどまでの光景が広がる。
銃口を、頭に押し付けられている状態が。
「何か言い残すことはないかね?」
スクリプターは、ニヤリと笑いながらそんなことを尋ねてくる。
対して、由雪が答えた。
「そうだな……その言葉、そっくりそのままお前に返してやるよ、スクリプター」
「……何?」
そして由雪は、ついに動き出した。




