Last episode 20
「……どうしたのかね?恐怖で前に進むことすら忘れてしまったとでもいうのか?」
「……」
スクリプターは、挑発するようにそう告げる。
しかし、由雪は冷静だった。
相手の挑発に乗るほど、由雪は冷静さを欠いてはいなかったのだ。
「言ってろ。引導なんかお前に渡すことなんか出来るかよ。むしろ俺の方から引導を渡してやるよ。嬉しいだろ?俺に殺されるんだぞ?本当なら今こうして俺の前に立っていることの方が珍しいんだぜ?」
逆に、由雪の方がスクリプターに対してそう挑発をする。
……互いに牽制しあう。
力の差は歴然だが、気迫はどちらも負けてはいない。
静寂の時間が訪れる。
時間にして、およそ数秒。
その静寂は、意外なことで打ち破られた。
「……!?」
まったくの不意打ち。
その正体は……先ほど由雪が投げた鎌だった。
投げた後はそのまま放っておいてあったのだが、由雪はこの時間の内に、その鎌をスクリプターの頭上に転移させていたのだ。
「……ハッ!」
スクリプターは、バックステップをして落ちてくる鎌を避ける。
それで終わるかと思いきや、
「これで終わったと思うなよ?」
「む?……!」
由雪は、全力でスクリプターの所まで走ってくる。
そして、未だ空中にある鎌を取る為に……飛んだ。
その鎌は、由雪の手に見事に収まり、掴んだ由雪の身体は、重力に逆らうことなくそのまま地面へ落ちていく。
そのまま由雪は、刃をスクリプターの身体を裂くために本人がいる方に向け、地面へ落下する。
「なんと……なかなかよい動きを見せるではないか」
しかし、スクリプターは冷静だった。
その攻撃を見ても尚、表情に曇りはなかった。
「大人しく地獄に落ちろ……スクリプター!」
叫びながら、由雪は鎌を振り下ろす。
このままいけば、確実にスクリプターの身体は真っ二つに裂かれることになるだろう。
だというのに、スクリプターは動かない。
いや、正確には手を動かしてはいるが……およそ回避行動と呼べるような動きは見せていなかった。
「死ね!スクリプター!!!!」
そして、由雪が振り下ろした鎌は、スクリプターの身体を真っ二つに……。
「……何!?」
「言っただろう?君では私には勝てない、と」
ドン!
由雪の背中から、痛みが生じる。
魔術による攻撃……しかもその傷は、一見すると銃で撃たれたかねようなもの……いや、彼は確実に銃で撃たれたのだ。
「な……んで、後ろに?」
「先程まで君が攻撃しようとしていたのは、私の虚像だよ。例えるなら……偽物私とでも言うべきかな?」
「……クソ、野郎が」
由雪は、力なく倒れる。
死んではいない……だが、身体が動かない。
まるで身体に杭でも打ち付けられたかのように、地面と彼の身体を縛りつけていた。
「致命傷には至らぬだろうが……その傷では立ち上がることはおろか、その場から動くことも出来ぬだろうな」
「く……そ……」
ここまで辿り着いたというのに。
敵を見つけることが出来たというのに。
由雪は、ここで諦めなければならないという事実に対して憤慨の念を……後悔の念を抱く。
直情的に動いてしまったのが間違いだったのだろうか。
もっと作戦を練ってから来るべきではなかったのだろうか、と。
「さて……そろそろ終わりにするとしよう。私とて暇ではない。舞台の様子が気になるところなのでな」
そう呟いて、スクリプターは倒れている由雪に向かってゆっくりと歩き出す。
「(もう……駄目なのか?)」
これ以上は、何をしようとも無駄。
どんなに逃げようとも、どんなに次の手を模索しようとも……自分に待ち受けているのは、死。
元より目的が達せられたら死ぬ身ではあった……だが、目的を達成することなく命を落とすのは、彼にとってはあまりにも名誉を傷つけられることでもあった。
「さらばだ、由雪迅……願わくは、よき夢を」
頭に、銃口を突き付けられる。
由雪は、己の死を、覚悟したのだった。
そんな時に、由雪は見た。
―――諦めたら、そこで本当に終わっちゃいますよ?




