Last episode 19
「誰が俺じゃ勝てねぇだと……この野郎!!」
ブウン!
空を切る音がする。
由雪が、鎌を上に振り上げて、思い切りスクリプターの頭上から振り下ろした音だ。
だがスクリプターは、その攻撃をいとも簡単に避けた後で、
「言っているだろ?君では私には勝てない、と」
「そんなの……そんなのやってみなけりゃわかんねぇだろうがよ!!」
由雪は、身長と同じくらいはあるだろうと思われる鎌を、スクリプターめがけて思い切り投げつける。
体を捻ってそれを避け、魔術的な何かの動作もせずに、スクリプターは迫ってくる由雪めがけて右手拳を固く握りしめ、思い切り殴りかかる。
腕を後ろに振りかぶり、ありったけの力で殴りにかかる。
それは、由雪が相手の懐に入って殴りかかると予想しての攻撃だった。
だが、由雪は殴る攻撃をしに来たわけではない。
「……む?」
「闇に覆われし弾丸よ。零距離から放出し、相手の身体を確実に射抜け!!」
ドン!
由雪は、相手の顔面に殴りかかることはなく、両手を思い切りスクリプターの腹部に突き出し、そこから黒い弾を二発放出した。
まともに喰らったスクリプターの表情は……しかし苦しんでいる様子はどこにも見当たらなかった。
「……ちっ。この程度の魔術じゃダメージも与えられないということか」
「私の身体は少々特別製なのでな……ちっとやそっとの魔術を使ったとしても、傷一つつけられることはない。最も、今の衝撃で、服は破れてしまったけど……勿体無い。結構高かったのだぞ、このスーツ
」
「知るかよ。そんなに高価なものだってんなら、奈落の底へ一緒に持ってってな!!」
ダン!
再び由雪が地面を蹴る音が響く。
スクリプターは、次にやってくるだろう由雪の攻撃に備え、構えを取る。
「鮮血と共に散れ……ブラッディスプレッド!!」
由雪の右手が黒く光る。
この攻撃は……以前由雪本人が瞬一相手に喰らわせた攻撃と同じものだった。
だがこの攻撃は……相手の身体に直接触れない限り、発動することはない。
逆を言えば、何かに触れてしまったら、即座に発動してしまうということだ。
「ならば、身代わりでも出せばよいのだな?」
「なっ……」
すぐにその仕組みに気づかれた由雪は、全身に力を込めて、さらに素早くスクリプターに接近する。
その速度を最初から出していたならば……スクリプターに攻撃は当たっていたかもしれない。
だが、そうではなかった。
「その時間のブランクがあれば……身代わりなど出すのは十分だ」
無詠唱で、スクリプターは何かの魔術を発動させた。
足元に出現した魔法陣は、その前方にも同じような魔法陣を創り出す。
直線距離にして、スクリプターと由雪の距離は、2m。
だが、その距離は、近いようで、遠すぎた。
「くそったれぇええええええええええええええええ!!」
由雪は、その魔法陣から何かが出現する前に、スクリプターの身体を確実にとらえようとする。
……由雪の右手は、
「……ふっ」
「!?」
魔法陣からは、何やら黒い影らしきものが出現していた。
そしてその影を……由雪の右手が貫通していた。
由雪の攻撃は、その影に当たったことで、事を終えてしまったのだ。
結果、魔力の無駄な消費。
おまけにこの魔術……魔力の消費が少ないわけではない。
つまり、相当厳しいハンデを背負うことになったのと同等なのだ。
「危なかったではないか……もう少し君の動きが早ければ、私がその魔術を喰らってしまうところだった」
口ではそう言うが、スクリプターは内心全然落ち着いていた。
確かに、後数cmと言う所で、その影は姿を現した。
つまり、もう少し発動が遅れていれば……由雪の攻撃は確実にスクリプターに届いていただろう。
だが、スクリプターは分かっていた。
その攻撃が、自分の所に届くことはないということを。
「……ちっ。ウザいやつだ」
「なんと言ってもらっても構わない……だが、君はもうすぐ、この場で『死ぬ』運命にあるのは間違いないな……せめて私の手で引導を渡してやろう」
スクリプターは、ようやく前へ歩き出す。
しかし、その歩幅はあまりにも短く、速度は遅い。
思えばスクリプターは、その場から一歩たりとも動いていなかったようにも思える。
「……」
由雪は、スクリプターがどのような攻撃をしてくるのかを、構えて待つことにした。




