Last episode 18
「じゃあお前はあの日……寺内に何かの魔術をかけていたというのかよ」
「……如何にも。私はその日、確かに闇魔術を利用して、寺内麻美の内に眠る光の器の力を暴走させたのだ」
「!!」
スクリプターがそう告げた瞬間。
由雪の表情に、曇りが見えた。
怒りが見えた。
今にも襲いかかりそうな由雪だったが……未だにスクリプターにリモコンを握りしめられている状態だと、動くことも出来なかった。
本来ならその縛りに逆らってでも動けるはずなのに……何故だか由雪の体は面白いように動かなかったのだ。
「……一度暴走した光の器は、二度とその力を抑えることは出来ぬ……つまり、己に眠る破壊衝動に身をゆだねるという結果に繋がる……最初、私はその力をどうにか抽出出来ぬかと考えた。ちょうどあの日、クリエイターがそうやってみせたように」
「……?」
あの日のことは、由雪には分からない。
だが、スクリプターが言う『あの日』とは……奇しくもクリエイターの末路となった日でもあったのだ。
「……光の器についてはもうよいかな?それでは二つ目といこう」
スクリプターは、ようやっと二つ目の話題に入る。
……由雪は、今にでもスクリプターを殺しに行きたいのか、足が震えているのが見てわかった。
そんな様子を見て、スクリプターは笑わないわけにはいかなかった。
「……何だよ。そんなに俺の姿が滑稽だっていうのかよ?」
それが不満だったのか、由雪は挑発するようにそう答える。
スクリプターは言った。
「ふむ、その通りと言うのはあまりにも酷だな……少しは思った、そう答えておくとしよう」
「……つくづくいらつく奴だな、お前。今にでもその肉体をバラバラに散らせて、その身を朽ちてさっさと地獄へ行きやがれ」
「生憎私はまだこの場で倒れるわけにはいかないのでな……私の目的が果たせていない今、あの娘を置いて逝くことも出来やしない」
「……あの娘?」
およそ由雪が想像もしなかったことだ。
スクリプターのところに、何者かが一緒にいるということなのだろうか?
だが、由雪はそんなことはどうでもいいと思った。
とにかく、自らの標的は―――たった今敵対している演出家ただ一人なのだから。
「それで二つ目だが……私がこの世界を破滅に追い込もうとしている理由だな」
「……そんなことはどうでもいい。ただ、お前がどうして寺内を使ったのか……寺内でなきゃ駄目だった理由を聞きたい」
「まぁ待て。これはその話にも直結するのだよ……」
一旦由雪を宥めてから、スクリプターは言った。
「この世界を……一度造り変える為に世界を破滅に迎え入れようとしている。元来より、生物は闇の中から生まれる……闇の中に光がさした時に、世界に産み落とされるのだ」
「何だよ、赤ちゃんの話でもしてるのかぁ?」
「無論だ……人間の赤ん坊というのは、母親の腹部から生まれる……そして、その中は暗闇だ。それと同じことよ……世界は闇の中から生まれた。地球もまた、闇の中から一筋の光がさしたことによって生まれたのだよ……ならば、この世界も一度破滅に迎え入れればよい。闇に包んでしまえばよい……さすれば、この世界は生まれ変わることが出来るだろう?」
間違っているようで……反論は出来ない理論だった。
いや、反論する気も起きないような、まるで自己満足の理論だった。
スクリプターは、そんな自論にさらに言葉を付け足す。
「その為には……一筋の光が必要だった。そして、私は一筋の光となることが出来るだろう者を発見した……それが、光の器の力を持つ、寺内麻美だったってわけだ」
「……」
由雪は、黙っていた。
今もなお、その怒りを胸の内にしまいながら。
「そして三つ目だ……」
そしてスクリプターは、最後の言葉を告げる。
そしてその言葉は……由雪迅の再生ボタンを、押したのだった。
「……君では私には勝てぬよ、由雪迅」
「!!」
瞬間。
由雪は地面を蹴り、スクリプターに斬りかかった。




