Last episode 16
月の光すら当たらないような、漆黒の闇。
厚い雲で覆われていて、月はおろか、星の光さえ眺めることが出来ない。
雨こそ降ってはいなかったが、その街は、月明かりで前に進むことが出来ない程に、暗くなっていた。
最も、光と言えば人工の光―――街燈がある為に、十分明るいと言えば明るいのだが。
「明るすぎるな……この光は」
そんな光を見て、スクリプターは一言、そう漏らした。
スクリプターにとって、この風景はあまり好まない風景であった。
人工の光が広がっているこの世界を、スクリプターはあまり快くは思っていない。
なぜなら、それこそが自分達人間が営んできたことの、最大にして最悪の発展だと、スクリプターは考えているからだ。
この世界に、そのような光は不要……月明かり、もしくは最低限度の光と言えば、蝋燭などから得られる火の光しか必要ではないと、スクリプターは考えていた。
「まぁ、今の世の中が便利なものに変わったことは認めよう。インターネットの普及によって、私も様々なことを調べることが出来るし、何より『あの女』に薬を作らせることが出来るのだからな」
スクリプターの発言に見受けられる、矛盾。
人工の光はいらないというのに、その光は電気によって発せられていて、その電気は様々な機械を動かすのに使われている。
そのことに気付いたスクリプターは、一人暗闇の中で笑っていた。
「今やこの街燈すらスポットライトのように感じるな」
スポットライト。
その表現は言い得て間違いではなかった。
スクリプターのことを照らす一筋の光は、その時は間違いなくスポットライトのように彼のことを照らしていたからだ。
「……む?」
そして、スクリプターは気づく。
前から、人の気配がすることに。
「……一般人?いや、違うな」
スクリプターは、ただの通りすがりの人を最初は想像した。
しかし、すぐにその想像が間違っていることに気づく。
なぜならその人物は……並々ならぬ殺気を醸し出しているからだ。
「よもやこれほどの殺気とは……さては悪魔に魂でも売り払ったか?」
一つの可能性を考える。
そしてスクリプターは、何を思ったのか。
「……」
前に進んでいた足を、その場で止める。
その様子は、まるで相手の到達を待ち受けているかのようにも感じられた。
「―――!!」
「……来たか」
スクリプターは、一言そう呟くと同時に、自らの足元が微かに揺れるのを感じた。
闇の向こうにいる人物は、一瞬だけ揺らめいたかと思うと、一気にスクリプターの所まで駆けてくる。
足をバネのようにして、一直線に相手の懐に入ろうとする。
「無駄だよ……そんな攻撃では、私を倒すことは出来ぬ」
スクリプターがそう呟くと同時に、自らの前に結界を発動させる。
不規則に描かれた魔法陣が、彼の体を覆うように出来あがっていた。
「ハァッ!」
ガッ!
鎌らしきものが暗闇から現れ、そして結界と激突する。
しばらく力比べが続いた後で、その鎌は結界を壊した。
「むっ?」
さすがにスクリプターも、これには疑問を感じざる負えなかった。
自らが創り出した結界が、短時間で壊されるとは思っていなかったからだ。
「なるほど……そこまでして悪魔の力を欲していたのか。どうやら“悪魔憑き”の状態を軽々と突破したようだな……君は何者かね?」
スクリプターは、目の前にいる人物にそう尋ねる。
闇の中から、鎌を持った少年が現れる。
その少年を照らすように、街燈の光は彼の全身を照らす。
そして、少年は答えた。
「……由雪迅、スクリプター、お前を殺しに来た」




